仲直り
「………」
「起きたか」
「クレアさん…」
颯太が目を覚ますとそこには椅子に座って本を読んでいるクレアの姿があった。クレアは颯太が目を覚ましたことに気付くと本を閉じて身体を颯太方へ向ける。
「竜也は?」
「竜也なら香織と伊澄が見ている。最初はティアもこの部屋にいたのだが、滉介から事情を聞いて席を外して貰った」
「………」
「詩織と香織のことだな?」
「はい…」
「はぁ……これはまた厄介なことになったな」
呆れて膝に頬杖を突くクレアを見て颯太の表情はますます暗いものへと変わる。
「俺が悪いんです……」
「しかし、颯太にはやるべきことがある。それを竜也にもあの2人も言うわけにも行かない。ジレンマだな、颯太」
「………」
「で、颯太。君の心の中には既に決めている人はいるのかな?」
「………います」
「うむ、今はそれが聞ければいい。では、私は一度竜也の方に行って来る」
「俺、竜也に謝らなきゃ…」
「まぁ待て。その前に私が一度颯太の気持ちを伝えてくるから、2人で話すのはその後でいいだろう」
「え?なに話すんですか!?」
「安心しろ、颯太が心配するようなことを話してくるつもりはない。ただ、颯太にはどうしてもやらなくてはならないことを話してくるだけだ。あぁ、もちろん全てを話してくるわけではないぞ」
「は、はぁ……ならいいんですが…」
「うむ」
クレアは最後にストレージからリンゴを出して皿の上に乗せると、目にも留まらぬ速さで氷のナイフを振るってリンゴを切った。
「さ、これでも食べて少し気持ちの整理でもしているといい」
「ありがとうございます」
そう言ってクレアは颯太にリンゴが乗った皿を渡すなり部屋を出て行った。
「やぁ、竜也。気分はどうだ?」
「あぁ、クレアさん。俺は普通っすよ」
「香織、伊澄、少し竜也と話をさせてくれないか?」
「分かりました」
「……うん」
竜也の部屋にやってきたクレアは、彼についていた香織と伊澄にそう言って2人を部屋から退出させる。
2人が出て行ったのを見たクレアは椅子に座り、香織が剥いたのであろう果物に手をつける。
「どうだ、頭は冷えたか?」
「はい……俺、颯太にひでえことを言っちまった…」
「分かっているのならいいのだ。颯太も竜也と喧嘩して酷く落ち込んでいた」
「クレアさん達にも迷惑をかけちまってすまないっす…」
「それは別に気にすることはない。何せ私達は仲間だからな」
「…………仲間…っすか」
「………竜也が気になるのは颯太が何をやっているか、だろう?」
クレアの言葉に竜也は無言の肯定を見せる。
「それを言えば間違いなく竜也は殺される」
「それはクレアさんも同じっすよね?クレアさんにだけ言えて何で俺達には…」
「私は一体化の神器を持っている。だから自分の身は自分で守れるし、それにいつ死んでも悔いはないと思っている。だが、竜也。君は違うだろう?君の場合、四六時中ボルケーノが守ってくれるわけでもない。必ず君には隙が出来る。それを奴らは狙ってくるのだ」
「………」
「この前報道されたニュースを知っているか?路地裏で血だらけの男性が運ばれたという事件を」
「あぁ、はい……男子高校生が見つけて通報したっていう…」
「実はあの事件、発見者は颯太だ」
「え!?マジっすか!?」
「私も颯太から聞いたときは俄かに信じがたいと思ったのだが、レーナも口添えをしてな。彼が嘘をついているわけではないと知った。颯太はその路地裏で番人と呼ばれる運営の神器と倭という人物とそのプレイヤーの神器が戦っていたそうだ」
「………その倭というプレイヤーは運営の秘密を知って…?」
「そうだ。颯太とレーナが駆けつけなければ間違いなくそのプレイヤーは死んでいた。その代わり神器は主を守るために死んでしまったが…」
「……神器コアの破壊ですか」
「あぁ……颯太とレーナと倭の目の前で消えて行ったそうだ…」
クレアはその神器の死に悲しげな表情を見せる。
「分かったか。私も颯太も本当は皆に事情を話したい。だが、話してしまえば今度は脅しではなく本気で運営側は君達を殺しに来るだろう。運営側もできるだけ事を荒立たせたくないと思っている。だから、これ以上君達を危険に晒すわけにもいかないのだ。どうか理解してほしい……」
「そんな頭を下げないでくださいよ……俺が悪いみたいじゃないっすか…」
「すまない……」
「………聞いてもいいっすか?」
「私に答えられることであれば」
「颯太は何のために戦っているんすか…?」
「颯太は……レーナのために戦っている。彼女を救うために、そして本当の家族として迎えるために」
「………それは―――」
「竜也が香織のことを大切に思うように、颯太もまたレーナを大切に思っている。言わば家族愛だ」
「家族愛……」
「竜也、きっと颯太自身から話してくれる日が来る。その時を待っていてくれないか?きっと、きっと君を頼る日が来るはずだから」
「……分かりました」
「分かって貰えて何よりだ。竜也、頭の中を整理出来たらもう一度颯太と話し合うんだぞ?彼も君と喧嘩したことを後悔している。このままではキャンプの日なんか最悪だからな。お互いの気持ちを清算させて楽しい夏休みにしようではないか」
「はい…ッ!」
「うむ、では私は行くぞ」
「クレアさん、ありがとうございました。聞いてすっきりしたっす」
部屋を出て行くクレアにそう言った竜也の言葉を聞いた彼女は、最後に手を挙げて部屋を退出していった。
「あ、クレアさん。2人はどうでしたか?」
「大分頭を冷やしたようだ。時期に仲直りするだろうさ」
「良かったぁ……」
「兄さんと颯太くんが喧嘩したって聞いて本当に心配したんだけど、それを聞いて安心しました……」
「……何したのかな…」
「聞くだけ無駄だろ。そっとしておけ」
クレアが階段を降りてくると、真っ先に詩織が駆け寄って彼女に事情を聞いた。
「……我がついていればこんなことには…」
「無駄だと思うよ~。いつかは起こったことだろうし、むしろワタシは喧嘩させて良かったと思っているけど」
ボルケーノはギリっと悔しそうに歯軋りをさせ、それを見た青い瞳のレーナはくだらなそうにテーブルに置いてある果物を手に取る。
「クレア殿の言葉によれば両者共仲直りをするのであろう?ならば、今回の件はそれで良しとしようではないか」
「琥太郎の言うとおりだね。颯太と竜也さんがすぐ仲直りするのならいいじゃない」
「喧嘩するほど仲が良いっていうんでしょ?こういうの」
「さぁ、俺に聞かれてもな…」
「あぁ、滉介は友達いないものね。ごめんなさい、聞く相手を間違ったわ」
「おい…地味にそのボディーブロー効くんだけど…」
「まぁたまにはこんな日もあるさ。我々はいつも通りにしていよう。2人に変な気を遣われても困るからな」
クレアの言葉に皆が頷いた。
「すまなかったな、颯太」
「いや、俺が悪かったよ」
颯太と竜也は1階で談笑する皆の声を聞きながら2階の廊下の壁に寄りかかって話をしていた。
「もうこの際だから言うけど、俺、まだ答えは出せない」
「分かっているって。俺もなんだか過保護気味だな~って思っていたし、今回はそれが爆発してしまった」
「………言い訳にしか聞こえないかもしんないけどさ」
「今はそれでいいさ。お前にはやるべきことがあるんだろ?」
「あぁ…」
「クレアさんから聞いたぜ。レーナちゃん救うんだろ?それをどんな方法でやるのか分からないけどよ、運営に喧嘩売ってんだ。ぜってえ勝てよ」
「負けるつもりなんかない。絶対勝つさ」
「それを聞いて安心したぜ。で、全てが終わったら?」
「……ちゃんとそっちもケリつけるから、兄貴の方は黙っていろよ」
「はっはっはっは!お前から兄貴って言われるのは気持ちが悪いな!」
「はぁ!?そういう意味で言ったんじゃねえよ!」
颯太の背中を叩きながら笑う竜也に颯太は怪訝な表情を見せる。
「まぁ、香織を選べとは言わねえよ。それはお前の選択だし、逆にそんなことを言ったって香織が聞けば俺が殺されるからな」
「香織さん、竜也に容赦ないからな」
「全く、逞しいもんだぜ」
颯太は香織に蹴られた出来事を思い出し、竜也も家で蹴られているんだろうな~と適当に想像する。
「颯太、選んだ答えに後悔すんなよ。俺が言いたいことはそれだけだ」
「あぁ、分かっているさ。選んで後悔するなんて馬鹿がすることだ。選んだ以上その答えに責任を持たなくちゃいけない」
「分かっているならいいさ。んじゃ、俺はもうとやかく言わねえよ。颯太の答えもわかったことだし、後は見守るだけだ」
「すまないな」
「謝んじゃねえよ。お前はもっと堂々としていろ」
「あぁ…そうだな」
「何かあったら頼れよ。ぜってえお前の役に立って見せるから」
竜也は最後に颯太の肩を叩きながらそう言うと1階へ降りて行った。
「すまない、竜也…」
何も聞かずにそう言ってくれる親友に颯太は最後にもう一度だけ小さな声で謝った。
どうもまた太びです!
さて、1つ報告があります。
それはオーバーラップの大賞に向けて新しい作品を投稿したことです。簡単に言うと監禁デスゲームものですね。
夏休みに部活仲間と遊園地に来ていた主人公が巻き込まれてここを脱出するには人を10人殺さなきゃいけない、というゲームが始まってしまいます。
主人公は少し精神がイカれている設定ですので、怯える描写とかは余りないかもです。
それで、よろしければそちらの方もご覧になってください。
もちろんこちらのランゲージバトルの方も同時進行させていただきますので、こっちもあっちもご感想の方よろしくお願いします。




