衝突
「………」
「よう」
「……竜也か」
芝生に寝転がってぼけーっとしながら空を仰いでいると颯太の顔に影が差し、視線を動かすと彼の顔を覗きこんでいる竜也の顔があった。
竜也は右手を上げて軽く挨拶をすると、颯太の隣にどっかり腰を下ろして一息ついた。
「お前が疲れている様子なんて珍しいな」
「精神的な疲れかな……」
「らしくねえなぁ」
「そうか?で、俺の後をつけて来て何の用だよ」
「あれ、バレてた?」
「ボルケーノが2世代目の神器なんだ。否応にもわかる」
「なるほどな。まぁ着いてきた理由としては、颯太とティアの会話が気になってさ」
「……話を聞いていたのか?」
「いや、あんまり近づくと気付かれそうだから話の内容は分からなかったぜ」
「そうか…」
颯太と詩織は今目の前にいる竜也本人の話をしていたので、もし聞かれていたと思うと内心で冷や汗が滝のように出る。
「何話してたんだ?」
「勢力戦が終わってから皆の様子がおかしいって」
「どういうことだ?」
「ランゲージバトルの真実を知ってからか、この世界を純粋に楽しめなくなったということだよ」
「あ~言いたいことが分かったぜ。まぁ仕方ないんじゃねえの?あんな話を聞いていつも通りプレイできるかって言われればそりゃ無理だぜ」
「まぁ…そうだよな。でも、ティアの顔を見るとさ、本当に事実を知って良かったのかなって思う時もあって…」
「バカかお前は」
「え?」
「確かにさ、颯太とクレアさんが難しい顔をして話しているのを見るとどこか寂しいもんを感じるのはよく分かる。でもよ、それはお前が目指す目的のためなんだろ?」
「あぁ……」
「俺には難しい話はさっぱり分からねえけど、お前が命を張るくらいのもんだということは理解しているつもりだ」
竜也は広場の噴水を眺めながら語る。
「まぁ俺が言いたいことはとにかく自分の信念を貫けってことだよ。臭いセリフだけどよ、あれもこれも手に持つと落っことしてしまうぜ?」
「ようするに決めたことは最後までやり遂げろってことか」
「そういうことだ」
颯太は身体をゆっくりと起こす。
「………」
そして颯太は詩織に言われたことを思い出した。竜也の悩みを解決して欲しいという願いを。
「なぁ、竜也」
「お?」
颯太は努めて普段と変わらぬ様子で竜也に話しかけた。
「最近の調子はどうだ?」
「なんだその質問は?別に何も変わらねえよ」
「そうか…」
「ん?そう言えば俺今日新しいフレンド出来たんだぜ」
「え?マジで?どんなプレイヤー?」
「名前はヒカルっていう女の子で、レベルは87くらいだったかな。ギルドは入っているみたいだったけど、非表示にしているみたいで分からなかったぜ」
「ギルド名非表示だと………――――強かったか?」
「いや、これがねレベルの割には結構ダメダメな子でさ、俺が動きを教えてやったくらいだったぜ」
「竜也が人にものを教えるだと?妙な話だな」
「どういう意味だよそれ!俺だってな、これでも伊澄ちゃんに鍛えられてから動きはかなりよくなったんだぜ?」
「そうだったな。楽しかったのか?」
「あぁ、そいつはもう最高だったぜ。ヒカルはな、そりゃもう可愛い女の子でこう、何というか守ってあげたくなるような女の子なんだよ」
「お前まさかそのプレイヤーに……」
「へ?あ、いや!違う違う!そういう意味じゃない!」
「怪しすぎるぞ………それでもう呼び捨てする関係か」
急に狼狽え始めた竜也を見て颯太はジト目になる。
「あー!あー!もう変な探りを入れるなー!と、とにかくだな!ヒカルは俺の理解者なんだ!」
「理解者ね……今度俺に紹介してくれないか?」
竜也は何というか、男女分け隔てなく接し、恋愛のれの字すらも出てこないような男なのだが、竜也がそこまで入れ込むほどのプレイヤーが颯太は純粋に気になった。しかし――――
「だ、ダメだ!お前とヒカルが会うと絶対ロクなことが起こらない!」
と、竜也が全力で颯太とヒカルを会わせることを拒否したため颯太は渋々引き下がった。それと同時に颯太は竜也の中で自分の認識が一体どういう状況なのかも気になった。
「ま、そういうことで俺は楽しくやっているよ。たまにギルドのアジトとか来れない時はヒカルといると思ってくれ」
「あぁ、了解だ。しかしまぁ竜也がなぁ……」
「だからそういう意味じゃねえって!!」
「逆にどういう意味だ?ティアとか伊澄さんをモロ女性と認識していないような男が急にさ」
「いやいやいや、普通にティアとか伊澄ちゃんだって女の子だと分かっているぜ?」
「俺と竜也の女性の認識度が違うようだな。多分竜也の場合は性別的に女性だと認識している程度だろう」
「お前それ流石に酷いぞ…――――あのな、俺だって歳相応の高校男児だぜ?そりゃあティアのあのへそだし衣装を最初見たときはおおうってなったけど、今じゃバカ騒ぎ出来るくらいの仲の良い女友達ってくらいの認識なんだよ」
竜也は頬を掻きながら少しだけ気恥ずかしそうに語る。
「お前と俺の認識が違うのは当たり前だろ。俺はティアを友達だと思っている。でも、お前はどうなんだよ」
「………」
「正直俺がお前の後を着いて来たのはそのことが一番聞きたかったからだ。颯太、お前さ、香織と詩織。どっちが好きなんだよ」
「……それは…」
颯太は眉間にしわを寄せながら俯く。
「まぁ言ってしまったらこの仲良しギルドが終わるっていうのも分かる。でもな、俺は香織の兄としてお前の態度が気に入らねえんだよ」
「何の話だ」
突然胸倉を掴まれ、静かに怒りをたぎらせる竜也を颯太は睨み返す。
「お前は香織の泣きそうな顔を知りながらも無視して、あげくは詩織にも同じことをしている」
「竜也、お前はさっき手に抱えたら持ちきれなくなって落とすと言ったな。まさにそれだ。今はそんなことにかまけている暇なんかないんだ」
「てめ!そんなことだと!?」
颯太の胸倉を掴む手により力が入り、竜也は今にも颯太に殴りかかろうと言わんばかりの怒りの形相を浮かべる。
「竜也の言うとおり俺は香織さんと詩織の気持ちを知りながらも無視している。でもな、今俺が2人のどちらかに答えを出したら間違いなく信念が揺らいでしまう」
「言い訳にしか聞こえねえんだよ!お前、自分が今何をしているのか分かっているのか!?女の子の気持ちを踏みにじっているんだぞ!?兄としてそんな奴に片思いをしている香織が可哀想に見えるんだよ!」
「ちっ…!んなことお前にいちいち言われなくても分かっているんだよ!!」
遂に颯太が切れて何事だと辺りは騒然となる。
「兄だからなんだ!妹の恋愛にお前が口を挟む理由になるか!!」
「兄だからこそ心配なんだ!お前みたいな平気で人の気持ちを踏みにじる奴を好きになることが!」
「俺の知ったことじゃない!大体何かと香織さんのことになれば口を挟みやがってシスコンも大概にしろ!!」
「あぁ!?妹を心配して何が悪い!お前は妹がいないから分からないんだ!この気持ちが!」
「いないものは仕方がないだろ!それを知れというのが無理な話に決まっている!もっと言葉を選んで反論をしてみせろよ!」
「言葉だけ綺麗に並べやがって!そうやって香織と詩織の言葉も躱してきたんだろうな!」
「言いがかりもいい加減にしろよ!竜也!」
「ちょっとちょっと2人とも何しているの!?」
「2人ともなんの騒ぎだ!?」
そこへ丁度これからギルドのアジトへ向かう途中だった滉介とリーナが現れて2人の間に割ってはいる。
「待て待て!!ちょっと2人とも落ち着け!」
「滉介邪魔だ!颯太は言っても分からない馬鹿のようだから痛い目見せてやんだよ!」
「それはこっちのセリフだ!言葉の通じないと見ればすぐ暴力に走る馬鹿には同じもので解決してやらないとな!リーナ!退け!」
「うわあ!?な、何するのよ!このバカ颯太!」
「リーナ!?ってお前も加わるな!!あぁもう!2人ともすまん!!」
「あ?」
「ん?」
颯太に突き飛ばされてしりもちをついたリーナはぷくーっと頬を膨らませて颯太に掴みかかろうとしたが、滉介が手で制止してリーナを刃のない大剣に変化させる。
そしてそこから今にも喧嘩を始めようとしている2人の後頭部へ峰打ちを放ち、颯太と竜也は意識が一瞬で途切れて前のめりになって芝生に倒れた。
「ふぅ……何があったんだ…」
「凄いややこしい話をしていたわよ、この2人」
「………難儀な男だな、颯太も竜也も」
「ホントね」
大剣から戻ったリーナは呆れた様子で呟き、滉介は2人に同情した。
「入ったばかりだけど、このギルド大丈夫かしらね」
「さぁな。それは颯太次第だろう」
「丸投げするの?」
「こればっかりは外野がとやかく言っても仕方がないからな」
滉介はFDを取り出してクレアにメールを送る。
「クレアを呼んだ。恐らく皆来るだろう」
「どう説明するの?これ香織とティアには聞かせられないわよ?」
「そこはクレアに任せよう」
「あなた……本当に丸投げするのね…」
「あぁ、俺は面倒事が嫌いだからな」
滉介はFDをしまいながらジト目で見てくるリーナの視線を躱すのであった。
どうもまた太びです。
今回のお話は颯太と竜也の本気の喧嘩でした。
妹の気持ちを知りながらもそれを無視している颯太に腹が立った竜也は颯太に掴みかかり、対する颯太も先の見えない戦いの不安から逆切れを起こして両者が衝突してしまいました。
なんだかんだで登場人物同士の喧嘩は初めてな感じがします。いや、そうですね。初めて書きました。
颯太と竜也は仲直りすることが出来るのだろうか。今後にご期待ください。




