詩織の相談
「3人共もう買い忘れはないか?」
「私は大丈夫よ」
「私も大丈夫!」
「うん、大丈夫だよ」
「よし、それじゃ帰るか」
「颯太、最後に記念撮影しましょう?ほら、あっちに」
「あぁ、それはいいな」
買い物も終えて両手に荷物をいっぱい持った颯太は3人にそう尋ねると、千草が入り口でマリンアイランドのマスコットキャラクターと共に記念撮影をしているお客さんを指差した。
「ちょっと並ぶようけど、最後だし私はいいよ」
「そうだね。もう待つことくらい慣れたもん」
「なら並ぼうか。最後だしな」
颯太はそう言うと3人を連れて列に並んだ。
「あ、良かったらお撮りしましょうか?」
「あ、ありがとうございます」
そして颯太達の番が来ると、後ろに並んでいた家族連れのお父さんが颯太にそう言い、颯太は礼を言いながら簡単なカメラの説明をしてマスコットキャラクターに抱きつくレーナの隣に立った。
「それじゃ撮りますよー!」
「お願いします!」
「はいチーズ!」
そうして颯太達のマリンアイランドでの1日は終わった。レーナと千草は大満足したようで、帰路に着くバスの中でも今日1日のことをずっと振り返っており、それを颯太と香織は微笑ましく見ていた。
「喜んで貰えて良かったね」
「あぁ、本当に来て良かったよ。香織さんもありがとうな」
「無理やり着いてきた時は本当に着いてきて良かったのかなって何度も思ったんだ。あぁ、自分で無理やり颯太くんにそう言ったくせにさ」
「そんなことはない。やっぱり俺はまだ子供だし、レーナや千草ちゃんを1人でちゃんと見ることが出来るのかなって不安もあってさ、正直香織さんの存在は大きかったよ」
お土産の玩具を取り出して見せ合いっこするレーナと千草を見ながら颯太と香織は会話をする。
「それは良かった」
バスは夕日に染まる空の下を走る。
「レーナ、千草ちゃん。楽しかったか?」
「うん!もちろんだよ!ペンギンもイルカも凄かった!」
「颯太と香織には感謝しているわ。連れて来てくれてありがとう」
「あぁ、また来ような。次は違う遊園地に行こう。その時は香織さんとまた計画するから、楽しみにしておけよ」
「うん!」
レーナと千草の笑顔を見て颯太と香織はマリンアイランドに来て本当に良かったと心からそう思った。
「そのためにも俺は絶対に負けられないな……」
「……そうだね。千草ちゃんとレーナさん、こんなに仲良しなんだもん。この仲を引き裂くことなんて絶対にさせない…」
「12月まで残り半分を切った。もっと腕を磨かなきゃ…」
「私も協力するよ。颯太くんがランゲージバトルの覇者になるために」
「ありがとう、香織さん」
この2人の笑顔が消えてしまわないように颯太は誓いをより一層強いものへと昇華させた。
「来たか」
「こんばんは、クレアさん」
ランゲージバトルにログインした颯太はレーナと共にギルドのアジトに訪れていた。ギルド内にはクレアの他にも詩織や香織、そして竜也とユキナもいたが、滉介だけはログインはしているものの行きつけの酒場にいるらしい。
そして颯太ははしゃぐ竜也達に軽く挨拶をしながら奥のバーのようなカウンター席に座ってお酒を飲むクレアの隣に座った。
「で、成果の方は?」
「私の恩師の部屋には尾崎に関わる研究資料は少なく、分かった事と言えば尾崎はこの仙台に住んでいたそうで私の恩師の教え子だったそうだ」
「教え子ですか……それなら彼が関心を持っていた、または研究していた資料か何か残されているのでは?」
「そうだと思って私も調べたのだが、残念ながら彼に関する研究資料は見つからなかった。言ってしまえば証拠隠滅をされたかもしれない」
「…確かに尾崎はランゲージバトルの開発者にしてその幹部でしたからね。その辺はトップシークレットなのでしょう」
「結局私は振り出しに戻ってしまった。どうやらまた大学の教授達に話を聞いてくるしかないようだ」
「レーナの話に寄れば尾崎は大体その頃は20代後半から30代前半と言ったところでしょう。そうなるとランゲージバトルが出来たのが50年から60年前……80歳越えですか……もし尾崎のことを知っている教授がいるとすれば…」
「……尾崎と共に大学を通っていた同期の者に会えるかどうかだな」
「なかなか厳しい確率のような気がするけど…」
「そうだな。いたとしてもその人が教員を目指している確率は更に低い」
「尾崎と同様に自分の研究所を持っているのならば話は別だ。まぁ何とかしてみせるさ」
クレアは少し疲れている様子でため息をつきながらグラスを片手で持ち上げて揺らす。
「余り根詰めて倒れたりしないでくださいね」
「分かっているとも。ただ成果の少なさにガッカリしているだけだ」
「颯太~何話しているの?」
「ん?」
そこへ詩織がやってきて颯太は振り返る。
「ちょっとクレアさんに調べものを頼んでいてさ。それを聞いていたんだ」
「成果のなさにガッカリしていたのだよ」
「クレアさんお疲れの様子だね」
「あぁ、久しぶりにやる気を出したら空回りをした。で、今はその空回りをした分の息抜きだ」
「ま、そういうことだ。それでどうした?」
「ちょっと話があって…」
「ん……?あぁ…その件か」
詩織は香織とユキナと談笑する竜也にちらりと視線を送ったことに颯太は気付き、椅子から降りる。
「ちょっとティアと話して来ます」
「うん、分かった」
「あぁ、了解だ」
颯太はそう2人に告げると詩織を連れてアジトの外に出た。
「ん?ティアと颯太はどこ行ったんすか?」
「2人なら少し話があるらしく、外に出て行ったよ」
2人が出て行ってから数分後に竜也が2人がいないことに気付き、クレアに尋ねると彼女は酒を飲みながら答えた。
「………」
「香織?顔、強張っているよ?」
「え、え?そうだった?」
「うん。窓の外じっと見つめて」
「………私、嫌な子だな…」
「香織?」
「あ、ううん!何でもない!それで今日は何しようか」
「ん~?まぁいっか。うんとね、そろそろユキナもテイムモンスターほしいな~って思うんだ~」
「あれ?ユキナちゃんまだだったんだ」
「そうなんだよね~。だからさ、ユキナに合うモンスター分からないから香織も一緒に考えてよ」
「うん、いいよ」
「………」
香織は笑顔でユキナに答えて、今は何も考えないことにした。そしてその妹の様子を竜也はどこか悲しげな表情で見ていた。
「ここらへんでいいか」
「そうだね」
颯太と詩織は中央エリアにある噴水場に来ていた。2人は坂の芝生に腰を下ろし、颯太は口を開いた。
「竜也のことは、俺も前から知っていた」
「多分香織とユキナちゃん以外は皆分かっているよ」
「だろうな。それに本人もそのことを痛いくらいに分かっているからこそ口を挟みづらいんだ」
「じゃあどうするの…?」
「………現状維持…と言うしかないような…」
「颯太、今日のメールで竜也さんと話すって言ったよね?」
「……でも、今の俺が竜也になんて言えばいいんだ……焦るな、自分のペースでやればいいって言えばいいのか?んなこと何度竜也に言ったか分からないし、あいつ自身も聞き飽きているさ」
「だからってこのまま放置しておくの?なんだか今の竜也さんを見ていると不安になってきちゃうんだよ…」
「それは杞憂じゃないのか…?」
「そうだと思いたいけど…でもなんか不安でさ…」
「上っ面のセリフを並べたところで竜也の心には響かない。竜也の悩みの深さは本人にしか分からないんだ」
「…………ねえ颯太、ここ最近皆なんか変だよ。勢力戦始まる前までは皆ランゲージバトルを楽しんでいたのに、この世界の秘密をより深く知ってからおかしくなっちゃった…」
「………ティア…」
「ゲームって楽しむためのものじゃないの…?」
「………」
颯太の胸に詩織の言葉が突き刺さった。本来ゲームとは楽しむためにあるもので、颯太もそのゲームの楽しさに人生を救われたと言っても過言ではない。
だからこそ彼女の言葉が胸に突き刺さった。でも、颯太は――――
「ティアの言うことも最もだ。でもな、今回ばかりは遊んでいられない。俺はレーナを救うために全力でこのゲームを勝ちに行く」
「………それはあたしに話せないこと?」
「………ごめん…」
「………そっか」
「これを話したらティアが危ないんだ。だから、話せない……本当にごめん…」
「……分かった…でも、竜也さんのことは解決してあげて」
「あぁ…」
詩織は静かに立ち上がるとその場を去っていった。
「………」
颯太は芝生に仰向けになって倒れた。周りのプレイヤーは楽しそうに談笑しながら広場を歩いて行く。それに比べて自分を何故こんなにも楽しくなさそうにしているのだと自分に問いかけてしまう。
レーナのためにと誓いを立てたとは言え、もし自分が何も知らずにこの世界を詩織達とプレイしていたのなら――――
「どうなったんだろう……」
言葉が口から飛び出していた。
楽しくこの世界を歩いていただろうか。毎日飽きるほどクエストを回してアジトでぐったりしていただろうか。
そんなことをふと思うと颯太はため息が零れた。
「これが終わったら………終わったら…兄貴の会社でランゲージバトルでも開発して貰うか?」
果たしてそんな開発費が出るのか分からないが、颯太はこの世界を1人のプレイヤーとして楽しみたいと思った。
エラーで後書き頑張って書いたのに全て消えて落ち込んでいるまた太びです。
はぁ……少し萎えちゃってますが、本編の方に少し触れて後書きを終えたいと思います。
今回で遊園地編は終わりで、これからキャンプ編ですね。
キャンプと言えば私は過去に6回ほど行っていますが、キャンプはいいですよ~。
やってみたいけど難しそう、テントってどうやって立てるの?何を持っていけばいい?という疑問が色々沸いてきて行きたいと思うだけで終わってしまいますが、意外と手ぶらでも何とかなるものです。
常設テントやそこのキャンプ場からバーベキューセットを借りたり出来ますし、手軽にアウトドアを楽しめます。
まぁ場所によりますが、大体のところは貸し出しをしているので、荷物いっぱいになりそう、とか思う必要などないんですよ。
今度の夏、私は友人らと共にキャンプに予定でして、親がいない友人らだけのキャンプに少しわくわくしています。
海が近いので釣りも出来ますし、森林にはカブトムシなどの昆虫もいるそうです。
童心に返れるのもキャンプならではなのではないでしょうか?




