竜也の悩み2
そしてその頃詩織と言えば、詩織もランゲージバトルの世界にいた。
「竜也さんはいるみたいだけど、他の皆はやっぱりいないね」
「ここ最近竜也殿はよくこの世界にいる」
「……竜也さん、思い悩んでいるよね…」
詩織は琥太郎と共に露店を見て回りながら竜也の現状について話す。
「何か助言が出来ればいいのだが、今の彼に何を言っても苦痛としか感じられないだろう…」
「颯太に相談しようかな…」
「それがいい」
「んじゃ、ちょっとFDでメールするね」
「あぁ、分かった」
いつも一緒にバカ騒ぎをする竜也だからこそ彼の様子が気になる詩織は、ポケットからFDを取り出して颯太にメールを送った。
「何とか場所を取れたな」
「レーナさん千草ちゃんはキッズエリアにいるけどね」
現在颯太と香織はイベント会場の観客席に座っていた。位置的には真中の方で、舞台が見えないこともない微妙な距離だった。
レーナと千草は子供達のために設けられたキッズエリアと呼ばれる舞台の正面に座っており、カッパを着ながらきゃっきゃと千草と一緒にこれからのイベントを楽しみにしている様子だった。
「ん…?」
颯太はそこで携帯ではなくFDが振動したことに気がつき、携帯が入っていない逆側のズボンのポケットからFDを取り出した。
「どうしたの?」
「詩織からだ」
「詩織さん?」
「……………――――香織さん、最近家での竜也はどうだ?」
「兄さん?普通だよ?普通にテレビ見たり、ゲームしていたりとか色々」
「………そうか」
「兄さんがどうかしたの?」
「いや、竜也が普通ならそれでいいんだ」
颯太の言葉が理解出来ず首を傾げる香織から視線を外して颯太は額に眉を寄せる。
「………」
そして颯太はFDのタッチパネルを素早く操作して詩織宛てにメールを打ち、それを送信した。
「あ、颯太からの返信が来た」
「何と言ってきた?」
「………今度竜也と話してみるって」
「恐らく一番の親友である颯太殿ならば竜也殿を救えるだろう」
「そうだといいね……やっぱり竜也さんは笑っていた方がいいもん…」
「そうだな」
詩織は颯太の返信を見ながら悲しげな表情を浮かべて語り、それに琥太郎はゆっくりと頷くのであった。
「颯太くん……どうしたの?顔、怖いよ」
「……あぁ、悪い。少し考え事をな」
イベントが終わり、文字通りびしょ濡れになった颯太は香織に選んで貰ったマリンアイランド限定のTシャツに着替えながら、先ほどの詩織とのメールのことについて考えていた。
「詩織とのメールのこと?」
「………まぁ、な」
「兄さんは普通だよ?どうしてそこまで気にするの?」
「少し嫌な予感がしてさ」
「嫌な予感?」
レーナと千草を呼んで店を出た颯太と香織は、楽しそうに談笑する2人に気付かれないように前方を見て歩きながら話す。
「今竜也は思い詰めている。自分が覚醒能力に至らないことに」
「え?でも、私だってまだよ?」
「そうだな。詩織も滉介も香織さんもまだ覚醒能力には至っていない。でも、そう思わせてしまったのは俺のせいだ」
「颯太くんのせい?きっとそれは違うわ」
「………竜也と俺がクレアさんと伊澄さんに鍛えられていることは知っているよな」
「ええ、レギュンを倒すためでしょう?」
「あぁ、そうだ。それで竜也は以前にレギュンを倒すためには覚醒能力に至らなければならないって言っていたんだ。その時の俺は竜也の言葉に頷いてしまった。それから俺はあっさりと覚醒能力をものにし、まだ能力すらも全然解放していない竜也によりプレッシャーをかけてしまった」
「………」
「竜也は俺以上に頑張っている。だからこそ、その成果が出ないことに悩み、思い詰めていたんだ。その事は俺も前々から知っていたし、焦らず自分のペースでやった方がいいと声をかけていた。実は伊澄さんにもそのことを話していて、竜也のケアを頼むと頼んでいたんだ」
颯太達はイルカのショーが始まるまで少し休憩するため、マリンアイランドの中央に位置する巨大な噴水場に来ていた。
早速他の子供達に混ざって水で遊び始めたレーナと千草をベンチに座りながら眺める颯太と香織の表情は浮かない。
「俺から声をかけてもそれは逆効果でしかなかったからな」
「え?」
「いくら対等に話そうと思っても男の俺から話せば何を上から目線に、と見えてしまうもんなんだ」
「それは思い過ごしじゃ…」
「中学時代の陸上部の同級生にそうハッキリ言われたからな。まぁ、竜也がそんなことを思うような奴ではないことくらいは俺にも分かる。でも、余りしつこく言うとそれは返って余計な気遣いになってしまい、鬱陶しいと思うようになる。だから、俺はこれまで竜也には最低限の言葉しか投げかけず、彼自身の力でいつかいつもの竜也に戻ると思っていたんだが……」
「それで詩織のメールに繋がるのね…」
「あぁ、そうなる。竜也は俺が思っている以上に悩んでいた。ランゲージバトルはゲームだが、俺達はリアルを知っている。だからこそそこにゲームには本来いらない現実世界の人間関係が生まれ、余計な感情を抱くようになってしまう」
「余計な感情…?」
「……嫉妬などとかな。普通のネットゲームならば笑って吹き飛ばせるようなことなんだがな」
「…………」
颯太からそれを聞いた香織は下を向いてしまった。彼女にも思い当たる節があるのだろうか。
「その他にもブラックリストに入れるなりして『はい、さよなら』とすればいいが、ランゲージバトルはそうはいかない。VR技術のレベルが上がるほどそれはより現実性を増し、リアルと全く遜色のない世界を生み出す。本来ゲームとは娯楽だ。その娯楽にも対立関係で悩み、苦悩するなど全く本末転倒もいいところだな」
颯太はそこで笑顔で手を振るレーナに手を振り替えして笑顔を浮かべる。
「香織さんは何も言わず、いつも通りの姿で竜也と接してくれ。妹の香織さんが心配すればそれこそ竜也は致命的ダメージを負ってしまう。少し言い過ぎかもしれないが、それくらいの気持ちを持っていてくれ」
「…分かった」
「本当に何故ランゲージバトルなんてゲームを作ったんだろう……」
颯太は空を仰ぎながら誰に言うわけでもなく、独り言のように呟いた。
そしてイルカのショーを見終わった頃にはもう時計は16時を回り、颯太達はお土産を買うためにお店が固まったストリートに隣接するお店を片っ端から訪れていた。
「父さん達には無難にクッキーとかバウムクーヘンらへんでいいか」
「颯太!私あれが欲しい!」
「え!?あのでかいぬいぐるみか!?お前値段見ろ!!」
「えええ!?ダメなの!?」
「ダメに決まっているだろうが!」
「こんな小さいキーホルダーみたいなぬいぐるみも1000円するの…?」
「遊園地は大体そういうもんだよ。お金勿体なかったら私が買ってあげるよ?」
「流石にそれは悪いわ。買って貰ったら何のために自分のお金を持ってきたのか分からなくなるもの」
「そっか。んじゃ、余り無駄遣いしないように計画的にね?」
「ええ、もちろんよ」
必死にぬいぐるみの交渉をするレーナとそれを全く受け付けない颯太。そして千草と一緒にお土産を見て回る香織。
先ほど颯太と香織はあくまで今日はレーナと千草を楽しませるために来た、ということであれ以降一切その話題を封印していた。何より、そんな気持ちを抱えたままこのひと時を過ごしたくなかったのである。
「ダメだダメだ!他のものにしろ!」
「ううう!颯太、混沌流すよ」
「おま!?そっちのレーナか!だがそんなことをされても財布の口は開きませんよ!」
「ケチ!」
「ふん、何とでも言うがいい」
「ノロマ!ゲームオタ!幼女趣味!童貞!!」
「バカ!なんて口走るんだ!!周りに人がいるんだぞ!」
颯太はとんでもないことを口走ったレーナの口を慌てて塞ぎに掛かる。だが、きっちりと周りの人たちには聞こえていたみたいで、颯太を変な目で見てくる。
「この野郎…」
「ふふん、男女平等の世界なんて一生来ないんだよ」
青い瞳のレーナは若干病んでいるような笑みを浮かべて颯太を見つめる。
「お前の身体の所有権は赤い方だろ?あんなぬいぐるみを買ってもお前が触る機会なんぞロクに思うがな」
「別に?あっちの私が寝ている間は身体の所有権が放棄されるから、ワタシのしたい放題なんだ」
「あ?たまに夜中物音がするのはお前のせいか!!」
「あれ、バレてた?」
「たまに俺の布団に潜り込んで来るのは単に赤い方のレーナの寝相が悪いからだと思っていたが、お前のせいか!!」
「うん、そうだよ。寝ている時の颯太は無防備だからね。色々遊んでいるの」
「な、何をしているんだ……うわ、急に寒気がしてきたぞ…」
「颯太とレーナ何してるの?」
そこへ千草と香織がやってきてレーナはさりげなく目を閉じると、次にはもう赤い瞳に戻っていた。
「あ、いやレーナが余りにもあのぬいぐるみをねだるもんでさ。少し言い聞かせていたんだ」
「あはは……流石に学生には少し高いよね」
何の話?という言葉が出かけたレーナの首に颯太は香織たちにバレないようにチョップを炸裂させて、レーナは思わず『うっ!』と言葉に詰まる。
『な、何するの!?』
『いや、いいからお前は黙っとけ』
『え!?な、なにそれ!ちょっと理不尽すぎるよ!?』
まだガミガミ脳内で抗議してくるレーナの無視して颯太は立ち上がる。
「2人とも買うものは決まったのか?」
「ううん。ここは主にぬいぐるみしか置いてないようだし、次のお店行こうかなって」
「そうだな。いつまでもここにいるとまたレーナが騒ぎそうだしな」
「私そんなに騒がないよ」
「どうだろうな」
あっちのレーナは知らんが、と颯太は小さく漏らしてお店を出た。
ドーモ。ミナ=サン。また太びです。
さて、今回と前回に続いて竜也の悩みについてでした。
大体もうこの作品の終わりはもう想像できていて、あとはその間の話を構成していくだけなんですよね。
やっぱり小説を書く上で必要なことってゴールが見えているか、だと思います。
ゴールが見えていないとエンドレスになりますからね(終わりがなく、ダラダラと続いていく小説)。
そういうのは本当ならば設定段階で決めるものなんですが、勢いで書いてしまうことが多いものでして、書いて見て『あれ?これどう終わらせればいいんだろう』ということになることも多々あります。
王道なストーリーほどゴールを設置しやすいですね。例えばファンタジー系とすれば勇者の主人公がいて、なんだかんだで仲間と共に魔王を打ち倒す、と。
なんてシンプルなストーリー設計でしょうか。まぁそういうシンプルで分かりやすいものを王道と言いますからね。
で、最近は王道を書いてもいまいちしっくり来ないことが多いので、その王道に+αをするのが主流になっていますね。当たり前ですが。
しかし、その+αによって王道から大きく外れて執筆者自身も終わらせ方が分からず、エンドレスになるわけですね。
もうβとかγとか色々ついていそうですよね。そこまで来ると。




