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マリンアイランド2

「………」


「あれ?なんでそんなに颯太集中しているの?」


「これから走って人気アトラクションの予約券を取ってくるんだって」



開園2分前、颯太は目を閉じて呼吸を整えていた。



「なんだかアスリートみたいね」


「颯太くん、中学時代は全国大会に出るくらいの陸上選手だったんだよ?」


「え!?颯太ってそんなに凄かったの!?」


「おい、お前ら。入場したらすぐ俺に入場券を寄越せ」


「わ、分かったわ」


「うん!」


「颯太くん、無理しないでね?」


「問題ない」



颯太は靴紐をきつく締めなおし、アキレス腱を伸ばす。



「本気ね、颯太…」


「颯太は変なところで本気を出すからね~」


「颯太くんらしいね」



そして―――



「皆さん!お待たせしました!押さずにゆっくり進んでくださーい!」


「いいか!千草ちゃん、レーナ、香織さんの順でゲートを潜り、潜ったらすぐさまパスを渡せるように準備をしておけ!」



颯太の鬼気迫る声に3人は頷く。



「おはようございます!ゆっくり進んでくださいね!」



そして千草が、レーナが、香織がゲートを潜り―――



「颯太!」


「颯太!」


「颯太くん!」


「任せろ!」



周りのお父さん達が我が子のために待ち構えていたマスコットキャラクター達にも目もくれず走って行く中で、颯太が遂にゲートを潜り、入場券を差し出す3人からそれを受け取り―――


ジャリ――――!!



「――――ッ!!」



大地を踏みしめ、そして颯太は走り出した。現役だった頃に比べてスピードは落ちているが、それでも颯太は誰よりも速く、凄まじい速さで周りのお父さん達を追い抜かしながらマリンアイランドを駆けて行った。



「すっご…」


「……颯太、本当に速いのね…」


「颯太くんは男子400mの中学生記録保持者だからね。たとえ足を痛めても身体が覚えている」


「でも、そんなに走る必要あるのかな?」


「ふふ、颯太くん実は誰よりもこの日を楽しみにしていたみたいだからね」


「颯太もまだまだ子供よね」


「言ったら拗ねちゃうから、言っちゃダメだよ?それじゃ私たちも行こうか」



3人でそんな颯太を笑いながら彼に指示されたアトラクションへ向かうのであった。






「あ、颯太が帰ってきた。おかえりー!」


「ただいま」


「颯太くんお疲れ様。はい、タオル」


「ちゃんと取れた?」


「もちろん」



列に並ぶ香織たちを見つけた颯太はチェーンを乗り越えながら3人に合流し、予約券と入場券をそれぞれに渡す。



「あとで乗りに行こうな。レーナ、凄い楽しみにしていただろ?」


「うん!なんかね、ゆっくりお魚見ていたと思ったら急にスピードが出てゴー!って行くらしいよ!」


「ふふん、楽しそうじゃない」


「12時前までの予約券だから、これ乗って他のもう1つ乗ったら行こうか」


「そうだね。このアトラクションも20分待ちだったから、もうすぐだよ」


「シューティングゲームなんでしょ?私こういうの得意だからね」


「レーナには絶対負けないわ」


「私だって負けないもん!」


「ははは、ちなみに隠し的とかあるそうだから、注意深く見つつも得点を稼いで行くんだぞ」


「スタッフレコードを塗り替えると景品が貰えるみたいだよ」


「お、そうなのか。なら、俺も本気にならざるを得ないな」


「覇王翔吼拳をつかわざ―――」


「おっと、レーナそこまでだ」


「もう遅いと思うけど…」



そんな話をしながら颯太達はネオンライトが光る暗い室内へと入っていく。中には待ち時間を飽きさせないように巨大な水槽の中で泳ぐ魚の様子を見ることができ、レーナと千草はガラスに張り付いて巨大なマグロやアジの大群を見て歓声をあげる。



「おっと、そうだった。母さんから頼まれていたんだ」


「なにが?」


「レーナ達の写真を撮って来いとな」



颯太はカメラケースから父さんの高そうなカメラを取り出し、レーナと千草を呼ぶ。



「写真撮るぞ~」


「お、ほいほい!」


「え?今?」


「あぁ、今。はいチーズ」


「め、目瞑ってなかったしら?」


「あぁ、大丈夫だ。ちゃんと撮れている」



颯太はカメラの保存データを見ながら千草にそう答え、安心した千草は再びレーナと共に魚の観察に戻った。



「颯太くんカメラ持つとお父さんみたいだね」


「自分でも自覚しているから言わないでくれ……―――――香織さんは、ここに来るときアルテミスや竜也になんか言われなかったのか?」


「ううん?アルテミスは気をつけてって言ってたくらいかな。兄さんにはここに来ることも言っていないから」


「そうだったのか。なら、お土産くらい買って行かないとな」


「うん。颯太くんもでしょ?」


「そうだな。家の分と上条たちの分か」


「上条くん達とはよく遊ぶの?」


「いや、最近になって初めて休日に遊んだよ。1年からの付き合いなのに、変な話だよな」


「上条くんは塾でしょ?あと残りの2人は部活だもん。なかなか予定は合わないよね。歩美も千代も陸上部とそのマネージャーだから予定が合わないことが多いんだ」


「レーナと出会ってから俺にも変化があったってことだな。自分でも驚いている」


「颯太くん、明るくなった」


「そうか?」


「うん、本当に」


「なら、レーナに感謝しなくちゃならないな」


「それが遊園地計画だったわけでしょ?」


「前はレーナにもっと人の世の娯楽や人との関わりを合いを知ってもらうために連れて来ようと思っていたんだが、見ての通りレーナは変わった」


「そうだね。前は何というか、混沌そのものって感じだったけど、今は見た目相応の女の子よね」


「あぁ、最初は本当に何かあればすぐ混沌を流し込んで痛みを与えるような子だったが、今はちゃんと自分の気持ちをコントロール出来ている」


『まぁあっちのレーナが出て来なければの話だが…』



と、内心で苦笑いをする。



「それじゃ今日の遊園地は?」


「レーナに思いっきり楽しんで貰えるように全力を尽くすのみだ」


「私も協力するよ」


「改めてお願いするよ、香織さん」


「うん!」



魚を見てはしゃぐレーナと千草を見ながら2人はそう協力し合うのであった。




「おっしゃー!乗り込めー!」


「乗り込むわよ!」


「走ると危ないぞ。それじゃ香織さん、千草ちゃんを頼む」


「うん、分かった」


「レーナは俺と乗るぞ」


「あいあいさ!」


「千草ちゃんは私とね」


「分かったわ!」



やっと順番が回ってきたことにレーナと千草のテンションは最高潮へ達し、レーナは早く早くと颯太の手を掴んで急かす。



「レバーは自動で下がりますので、そのまま触れずにお待ちください。なお、お荷物のほうは乗っている最中に落としてしまうことがありますので、事前に足元へ置いておくようにしてください」


「だってさ、レーナ」


「はーい!」



スタッフの気の良さそうなお兄さんがそう説明し、レーナと颯太はバッグを足元へ置く。



「それでは行ってらっしゃ~い!」


「行ってきまーす!」



最後に説明を終えたスタッフがにこにこと笑顔を浮かべながら手を振るとレーナも手を振り返して出発した。



「颯太、このボタンは?」


「これは回転できるボタンらしいな。これを押すと右、こっちを押すと左に曲がる」


「おお!面白いね!!」


「おい、コーヒーカップじゃないんだから余りポチポチ押すなよ」


「にゃははははは!おもしろーい!」


「…………って言った傍から!お、おい!やめるんだ!気持ち悪くなるだろ!」



ポチポチボタンを押し始めたことにより、乗り物が右へ左へと忙しく回転をはじめ、颯太は慌てて止めに入る。



「何をやっているのかしら…」


「あははは……」



その様子を後ろで見ていた千草はジト目で、そして香織は苦笑いをするのであった。






「行くぞオラアア!!」


「おっしゃああ!!」


「凄い気迫ね…」


「楽しそうだからいいんじゃないかな」



このアトラクションはキャプテンハットの財宝を他の海賊と取り合うというストーリーから成り立っており、的はもちろん海賊だ。

颯太が先ほど言った隠された高得点の的というのは、財宝を持ち逃げしようとしている小人海賊らしい。名の通り小人なので、的は小さく、更に物陰からひょっこりと顔を出している時と出していない時があるらしく、そこは運でカバーするしかない。



「レーナ!右だ!」


「お!小人ちゃんやっちゃうよ!」


「え!?どこどこ!?」


「千草ちゃんあっち!こういうときアルテミスの鷹の目が役に立つのよね」



ボタンを押しながら片手持ちで銃を乱射する颯太達を見て千草はキョロキョロと颯太達が撃つ方向を見るが見つけられないらしく、そこで香織が指を指しながら正確な射撃を披露する。



「にゃはははは!!ほらほら!得点になっちゃえ!」


「ははははは!!このままスタッフレコードなんざ塗り替えてやるぜ!」


「香織!小人は!?」


「あそこ!ちょっと見えずらいけど、千草ちゃんなら出来るわ!」


「私の腕を舐めないことね!」



颯太とレーナの明らかなテンションの違いに周り客は流し目をしたりするが、2人は全く気にしていない様子でどんどん得点を重ねて行った。




「スタッフレコード更新おめでとうございます!」


「やったー!」


「よおおおし!」



乗り物から降りて真っ先にスタッフが拍手をしながら出迎えてくれた。颯太とレーナはガッツポーズし、スタッフから景品のストラップを貰おうと近寄るが――――



「あ、すみません。後ろの彼女さんの方です」


『え?』



レーナと颯太の声がはもった。



「わ、私ですか?」


「はい。見事な射撃でしたね。では、こちらの景品をお受け取りください」


「か、香織さんだと!?」


「ええええ!?」


「香織だったの?そんなに点数稼いでいた?」


「わ、分からないけど、稼いでいたみたい」



香織は驚きながらもスタッフからストラップを受け取って礼を言う。



「お2人も惜しかったですよ。あと数千点でした」



という言葉を聞きながらスタッフに見送られて4人はアトラクションを後にした。



「悔しいな~」


「あぁ、まさか香織さんに負けるとはな」


「香織凄いのよ。すぐ小人見つけるからあっちこっち撃ってたわ」


「まぁあっちの世界で狙撃手やっていればそうなるよな」


「伊達に狙撃やってないから」


「狩猟の神様の加護とかずるい!」


「ん?どういうこと?」


「まぁつまり香織さんは狙撃に関することならば誰にも負けないってことだ」


「あぁ、なるほど?」



いまいち要領を得ない千草に颯太は適当に説明をする。



「いつかリベンジと行きたいところだな」


「そうだね。次は負けないから、首を洗って待っているんだよ!」


「あ、うん。分かった、ちゃんと首を綺麗に洗っておくね?」


「その受け答えはどうなのかしら…」


「ねえ、颯太。次はどこ行くの?」


「ウォールフォールっていうアトラクションだな」


「え…?もう行くの?」


「ん?人気アトラクションだからな。早めに乗っておきたい」


「え?なになに?どこ行くの?」


「絶叫系だ。高いところからざぶ~んと」


「ひい!?」



颯太が手を使って説明してあげると千草は全身を震わせて数歩後ずさりする。



「なんだ~?千草ちゃんもダメなのか?」


「え~?千草ダメなの~?びびり~!」


「ち、違うわよ!いいわ!そんなの全然怖くないって所見せてあげる!」


「香織さん、無理なら待っていていいんだぞ?」


「うぅ……それはそれで嫌だからちゃんと行くわ……」


「よーし!どんどん乗っていくぞー!」


「ど、どんと来い!」


「時間どれくらいだろうな」


「うぅ……怖いよぉ…」



レーナは意気揚々と千草は緊張気味で颯太はいつもと変わらぬ調子で香織はこれからやってくる恐怖に落ち込んだ様子で次のアトラクションへ向かうのであった。

どうもまた太びです!


今回も前回に続いてマリンアイランド編ですね。

このアトラクションは知っている方は多いと思いますが、某夢の国にあるバズなんちゃらトイヤーのアトラクションから得たものです。

次の場所も分かる方には分かるアトラクションになっています。


ここの話は私が体験した遊園地の思い出+αという感じで作っていきます。出来るだけ皆さんに想像していただけるように頑張って書いていきますので、これからの展開にどうぞおつき合いください。

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