真・暗黒大陸
「あれ?ティア、イメチェンしたのか?」
「ん、ちょっとね」
ランゲージバトルにログインして皆が集合するのを待っていると、竜也が少しだけ格好が変わった詩織の姿に疑問に思ったのか、服について尋ねた。
「ふ~ん?なかなかいいと思うぜ」
「あ、そう?颯太はどう思う…かな?」
「颯太も褒めてくれると思うぜ。なんつうか、カッコいいって言葉が似合うよな。ティアの服は」
遠くでいつも通りお互い難しい顔をしながら話し込んでいるクレアと颯太を見て、ちょっとだけ自分の服を見る。
改造してから若干琥太郎にも変化があり、苦無がレーザー苦無になったりとニンジャってなんだっけという感じになっている。
「ふふ、目指せクールビューティーですよ。竜也さん」
「クールビューティーは無理じゃないか?だって、クレアさんみたくなるって事だろ?お前のキャラからして難しいような…」
「む……な、なれるはずだよ!」
「いや、無理だろ」
「こ、滉介!?」
「そうね。あなたは皆を盛り上げるムードメーカーが一番似合っているわよ。下手に背伸びしていいことなんてないわ」
「お、来たか。滉介とリーナも」
「あと来てないのは?」
「うちの香織とユキナと伊澄ちゃんだな。香織はもう少ししたら来るって言ってた」
「なるほど。で、颯太とクレアはいつも通りか」
「あぁ、一体いつも何を話しているんだろうな。あの2人」
「詮索しないほうがいいわよ。どうせロクなこと話してないんだから」
「ますます気になるじゃねえか……」
「やめといたほうがいいよ。かなりマジな話しているっぽいし」
「ま、ちゃんとリーダーの役割を果たしてくれれば俺は文句は言わん」
「そうだね。颯太とクレアさん、なんだかんだでちゃんと仕事してくれるし」
「ごめん!皆遅れちゃった!」
「…セーフだった…」
そこへ謝りながら香織といつも通りの伊澄が現れた。
「これで後はユキナだけか。昨日クレアさんにこっ酷く怒られたからな~。来るか?」
「え?クレアさん怒ったの?」
「あぁ、颯太とティアは知らないんだったな。あの後ログアウトした2人の捜索を諦めた俺たちは戦場に向かったんだが、そこで暴れまわっているユキナを見つけてな」
「戦争中にも関わらずユキナを捕まえてクレアさんが説教したんだ。それでユキナは泣きながらログアウトしてしまってさ、それっきりなんだ」
「そうだったんだ……来てくれるといいね…」
「そうだね……ユキナちゃんも大事な仲間だもの…」
「そいつはもうおっかなかったぜ。見てる俺もびびっちまった」
「流石氷の女帝と呼ばれるだけあるな……」
「あ、颯太とクレアさんが来るよ」
その情景を思い出す竜也と滉介は頷きあい、そこで颯太とクレアがこちらに来ていることに気付いた詩織が2人のほうへ向く。
「ユキナが来てないな。まぁ、当然か」
「ユキナは少し頭の中を整理する時間が必要だと思いますよ」
「うむ、そうだな」
「で、皆。キャンプの予定日が決まった」
その言葉に皆の顔色が変わる。
「私が皆から聞いた日をまとめ、空いている日を見たところ8月15日と16日と17日が空いている。そこでその日に2泊3日のキャンプを予定しているわけだが、それでいいか?」
「おおお!構わないっすよ!うし!遂に決まったか!」
「大丈夫ですよ。楽しみだなぁ…」
「キャンプか……初めてだな…」
「なぁに滉介、ガラにもなく緊張しているの?」
「楽しみ……あ、蚊の対策しなくちゃ…」
「キャンプか。我も初めてだ」
「私の料理の腕を存分に振るおう」
「私は2回目ですね。でも、仲間同士で行くキャンプもまた違ったものとなるのでしょうね」
「よしよし、クレアさん。皆大丈夫そうですね」
「あぁ、ならこの日に出発するとしよう。皆、事前に親に話しを通しておけよ」
『はい!』
クレアの言葉に皆は元気よく返事し、颯太はまるで引率の先生みたいだなと思った。
「どうして15日16日17日なんすか?」
「ん?それは私の仕事が入っていてな」
「あれ?クレアさんモデルの仕事は休んでいたんじゃ?」
「他のモデルの子の代わりとして出るのだ。あと、事務所の社長から泣きつかれてな。数本仕事をこなしてくる」
「社長から泣きつかれるって……あなたの扱いはどうなっているのよ…」
「それだけ事務所に貢献しているってことだろ?凄いことじゃないか」
「そうでもないさ。では、そろそろ開戦だ。最後まで手を緩めず全力で行くぞ」
ぞろぞろと移動を始めた臨時拠点のプレイヤーに混じって颯太達も出発した。
『レーナ、初めての実戦となるが、大丈夫か?』
『だ、大丈夫…』
『もし私が無様なサポートでもしたらすぐに代わるから颯太は気にしなくていいよ』
『あなたは出てこないで!もう、すぐ隙あらば出てこようとするんだから』
『お前ら仲良くしろよ………―――えっと、新しく覚醒した能力だが、これは?』
『あ、はいはい!ワタシが説明するね!』
『なッ!?ちょっと!私がするんだってば!』
『ちょっと引っ込んでて』
『え!?きゃああああ!』
『………おい…』
『んじゃ説明するよ』
『お、おう…』
『聖への執着は混沌の使用による怨念や呪詛の精神破壊を軽減するものだよ』
『ん?それは相手もか?自分もか?』
『自分限定。つまり、暗黒大陸使用時に受ける混沌を軽減するってことだよ』
『んじゃ何か、使用回数が増えたってことでいいのか?』
『そだね。無条件で出せるようになった代わりに24時間のクールタイムがついたけど』
『暗黒大陸の発動時間は?』
『5分。混沌の雨も降らせられるよ』
『え?勢力戦で使ったら無条件で勝てるんじゃ…』
『でも、敵味方関係ないから。まぁ、でも?颯太が皆殺したいと思えば―――』
『あ、ダメだこれ。はい、ロックロック』
無双できるかと思えばそうでもなかった。
『んじゃ、混沌の雨はロックしておくね』
『あぁ、頼む。end of chaosは?』
『えんど おぶ かおすは使用できるよ。でも、使ったら結界が解けるからね?』
『そこは分かっている。なら、ほとんどの機能が使えそうだな』
『そだね。クールタイムがついただけ』
『他は?それだけか?』
『聖属性弱点が消えたことと、筋力ステータスがAランクに上がって現在の颯太のステータスに筋力が20%上昇されたよ』
『おお、それはいいな』
『こんなもんかな。ちなみにこれは暗黒大陸を発動させて結界が消えると、それと同時に聖への執着の効果も切れるから気をつけてね』
『了解。サンキュ、レーナ』
『うん、それじゃ頑張って』
ふっと頭の中で何かがいなくなるような感じがしたと思えば、また新しい気配が戻ってきた。
『今度会ったら覚えてなさいよ!あのレーナ!』
『お、戻ってきたか』
『で、説明は?』
『全部聞いた』
『むきー!!』
怒り方がリーナそっくりなのがまた姉妹だと自覚させられた。そして颯太はそんな怒っているレーナをなだめながら戦場へと向かうのであった。
「昨日はどこまで攻めたんです?」
「拠点の外壁に張り付く赤側のプレイヤーを引き剥がしたくらいだ。どうも決定打に欠けてな」
「クレアさんならすぐ倒せるでしょうに…」
「どうもユキナに説教してから気が乗らなくてな。ほとんど竜也達に任せていたのだ」
「サボったんですね」
「耳が痛い」
颯太の言葉にぎくりとクレアが反応し、珍しく汗を流しながら苦笑する。
「颯太くん、フォーメーションはどうしようか。今日は他の隊長さんたちと会議していないんでしょ?」
「あいつらと話したところで争いしか見えないからほとんど皆独断だな。いつも通り、香織さん、竜也、伊澄さんが後方支援で、俺、ティア、クレアさん、滉介、が前衛だ」
「了解。いつも通りやればいいんだね」
「でも、その前に試したいことがある。切り込むのはその後だ」
「ほう?颯太、何か考えがあるのか」
「ええ、ちょっと新技を」
「なにそれなにそれ!颯太何か新しいスキルでもとったの!?」
「お手並み拝見と行こうか」
「あぁ、ちょっと見ていてくれ」
興奮した様子で尋ねてくる詩織とにやりと笑う滉介に高揚する気持ちを抑えてそう返した。
「おお、これはまた最後だから人数揃えてきたな」
「レギュン達はいないみたいね…」
竜也が拠点を守るプレイヤーの数を見て驚き、香織がレギュン達を探すが見つけることは出来なかった。
「今頃あいつらはギルドのアジトで酒でも引っ掛けているだろう。いれば間違いなくメテオが降ってくる」
「それもそうですね…」
「さぁ、颯太。これからどうする?皆誰が行くのか困っているようだ」
「では、行きます」
颯太は鞘から新しい大剣を抜く。
「あれ?ちょっと大剣変わった?」
「2つ目の覚醒能力が覚醒したからな」
「え!?マジで!?俺まだ1個も覚醒してねえよ!?」
「俺もだ」
颯太の言葉に竜也は『ずるいずるい!』とまるで子供のように駄々をこね、滉介は少しだけ残念そうに語る。
「ふふ、では見せて貰おうか。君の力を」
「行きます!暗黒大陸!!」
颯太は天高く大剣を掲げると黒い稲妻が大剣に降り注ぎ、颯太は逆さに持ち替えて地面に突き刺した。
「うわ!?」
「きゃッ!」
詩織と香織の短い悲鳴と共に世界が塗り替えられていく。竜也達が目を開けると先ほどまで暑いくらいの太陽の光が消え、暗闇の大地が広がっており、空には満点の星空と淡くプレイヤーを照らす月の光があるだけだった。
「これ……颯太くんの覚醒能力…?」
『混沌の再来だ。だが、雨は降らないようだ』
『ふふ、あれは敵味方関係なしですからね。混沌なりの配慮でしょう。丸くなったものです』
『グルルル…』
1世代目2世代目は緊張感を高ぶらせ、ピリピリとしたオーラを放ち始める。
「レーナ!」
『うん!』
「ソードダンス!!」
何が起きているのか分からない赤側のプレイヤーの頭上の星空から流星のように色々な形の武器が降り注ぎ始めた。
「うわぁ……」
拠点に張り付くプレイヤー達が串刺しにされていく様子を見て詩織は思わず顔を背けてしまう。
誰もがその様子を固唾を飲んで見ており、赤側のプレイヤー達が蹂躙されていく様子をただただ傍観することしか出来なかった。
武器は拠点全体へ降り注ぎ、強固なバリケードも貫通して拠点内にいるプレイヤーすらも串刺しにする。
「拠点耐久20%破壊ってところか。颯太、どこまでいける?」
「あと2分間なので70%行けばいいです」
「そうだな。では、私も助力しよう」
クレアも氷の大剣を地面に突き刺す。するとソードダンスに混じって氷の剣も降り注ぎ始め、赤側のプレイヤーは逃げ惑うことしか出来なくなってしまった。
「レギュンのメテオも酷いと思ったけどよ、こっちも似たようなもんだよな」
「……昔の争いはいつもこうだったとガンドレアが言っている…」
『うむ。我らの戦いはいつもこんな感じだったぞ』
『その時代に生まれなくて正解だったな』
『琥太郎はいいかもしれませんが、その中に混ざっていた3世代目の私たちも酷かったんですよ。何度死ぬかと思ったか…』
『はぁ、ほんとぶっ壊れ性能ね。これゲームとして成り立っているのかしら』
「1世代目、2世代目被害者の会だね」
神器たちが目の前の光景を見ながら昔は酷かった、自分だって酷い目にあったと語り始め、それを見た詩織は乾いた笑みを浮かべる。
「クレアさん、フィニッシュ行きます!」
「了解した!!ギル・ヨトゥンヘイム!!」
「End of Chaos!!」
クレアがその場で大剣を引き抜いて魔法陣を描き、そこへ氷の大剣を勢いよく突き刺した。
颯太は地面から黒い稲妻を纏った大剣を抜いて、大剣を胸の高さまで持ってくると左手で刀身を柄から剣先へと撫でるように稲妻を集める。
そして激しく放電する黒い稲妻を纏った左手を何もない虚空へ突き刺す。すると空間にひびが入り、颯太は素早く左手を空間から引き抜いて大剣を両手で持つとその空間のひびごと一閃した。
次の瞬間詩織は見た。クレアの魔法陣から巨大化した氷の大剣が神速の槍のように突き出して赤側の拠点を破壊し、次に黒い稲妻が視界を横切ったかと思うと写真を斜めから切ったように空間が裂けて、ガラスのようにバラバラと砕け散った。
「あ、元に戻った」
パリン―――!ガラスが砕ける音と共に視界は揺らいだと思うと、いつもの荒野が広がっており、詩織は顔を上げるとそこには頭を痛そうに抱えている竜也達の姿があった。
「颯太!クレアさんは!?」
「私と颯太はここにいるぞ」
詩織は振り返る。そこには大剣を握って赤側の拠点を見ている2人の姿があり、詩織は2人に歩み寄る。
「拠点は……あ…」
視界の先には颯太とクレアの猛攻を受けて今にも崩壊しそうな赤側の拠点があった。真正面から氷の大剣が突き刺さり、真横から空間断絶攻撃を受けて綺麗に両断されてしまっている拠点。
詩織は拠点耐久を確認すると、既に赤側の拠点は残り20%を切っていた。
「すっご……」
「ちなみにクレアさんはそれ普通のスキルだからな。それ連発できるっていうんだから恐ろしい人だ」
「はははは!なに、こんな大技滅多に使わないさ」
豪快に笑うクレアと少し疲れたのかため息を吐く颯太を見て詩織は、この2人がどれだけ格上の存在なのか知らされた。
『竜也、あの2人の一撃を目に焼き付けておけ』
「あぁ……しっかりと焼き付けたぜ」
『滉介、あなたも早くわたくしを使いこなしなさい』
「分かっている…」
「ガンドレア……あの2人に負けように頑張ろうね…」
『グルウ!』
『香織、あの人の隣に立ちたいのであればあなたも力を付けなさい』
「うん…!」
皆の視界には崩れそうな拠点に雪崩れ込む青側のプレイヤー達が見えた。
また太びです。
今回のお話は進化したレーナの力をお披露目するお話でした。前に颯太くんは1度だけ暗黒大陸を使いましたが、その後の後遺症がひどく、混沌の叫びにSAN値がだだ下がりでした。
でも、聖への執着によって軽減された真・暗黒大陸は本来の力を取り戻しました。
ですが、軽減なので表に出していないだけで颯太くんの頭の中は呪詛や怨念の声でいっぱいです(はぁと)
さて、クレアさんの新しいスキルがわかりましたね。
『ギル・ヨトゥンヘイム』
これは北欧神話に存在する霜の巨人が住む世界の名前からとってきたものです。
発動すると魔法陣が現れ、そこに腕や剣や体の一部を通すと巨大化するというものです。今回は大剣を通したので巨大化した大剣が赤側の拠点に突き刺さったという展開でした。
薙いだりすればもちろん巨大化した剣がその場を薙ぎ、まさに巨人の力を借りているようなスキルですね。
ではでは!




