表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
5章 青の領域と赤の領域(続)
105/172

遊園地計画

「さてと、俺の目的もはっきりした。尾崎やエニグマン達のことはクレアさんに任せよう」



クレアを外まで見送って戻ってきた颯太はグラスを片付ける。



「レーナ、確か午後から千草ちゃんが来る予定だったな」


「あ……そうだった」


「お前の傍にいてやりたいのも山々なんだが、俺もちょっと午後は家を空けなくちゃならなくてさ」


「あれ?どこか行くの?」


「あぁ、ちょっと香織さんとな」


「ふ~ん……珍しいね。颯太、香織のこと苦手なんでしょ?」


「…まぁ、でも最近は前に比べて普通に話せるようになったから大丈夫」


「大丈夫って……――――とりあえず了解したよ。だから、こっちのことは気にしないで」


「あぁ、すまないな」



颯太は洗ったグラスを乾燥機にセットしてスイッチを押した。



「颯太ってなんで香織のこと苦手なの?前のワタシは颯太に近寄る女の人全員毛嫌いしてたから、尋ねなかったけど、私は違うからちょっと気になる」


「ん~……香織さんの真面目さかな…」


「真面目さ?」


「香織さんは曲がったことが嫌いで、とにかく少しでも曲がったレールを見つければすぐ修正しようとするような真面目な人なんだ。俺は中学時代暗い雰囲気で過ごしていて、周りとの接触も求めてなくてさ、腫れ物を触るような目で見るのならほっとけって思ってた」



颯太は台拭き用のタオルでキッチンを綺麗にしていく。



「そんな中で香織さんは何とか俺をクラスの雰囲気に馴染ませようと奮闘してて何度も俺に話しかけて来ていたんだよ。それがもう当時の俺は鬱陶しいとしか思ってなくて、何度も話しかけてくる香織さんのことを嫌いってほどじゃないが、苦手と思ってしまったんだ。だから、それを今も引きずっているのかな」


「なるほどね。軽いトラウマ化していると」


「そうだな。最近はランゲージバトルを通して少しはマシになったが、それでも今も香織さんの目を見て話せない」


「うわぁ……それ、香織知ったら泣くよ…」


「だろうな…だから、このことは誰にも言っていないし、内緒だぞ?」


「分かっているって。それじゃ詩織のことはどう思ってるの?」


「詩織?詩織か……詩織は俺が見たことがないタイプだな。俺の偏見かもしれないが、ゲームに打ち込む女子って珍しい気がするんだ」


「まぁ確かに珍しいタイプではあるね」


「あそこまで話が通じた奴は初めてだったし、俺の知り合いにもあれほどのゲーマーはいない。だから、そうだな。簡単に言うと一番話しやすい相手かな。クレアさんは対等じゃないし、むしろ尊敬の念を持っている。ユキナは言わずとも、伊澄さんはぶっちゃけ何を考えているのか分からない」


「ふ~ん。んじゃ、颯太と一番仲がいい女子は詩織か。なるほどね」


「なんだ、その分析は……おい、分かっていると思うが」


「言わないってば!これは私の心の奥底にしまっておく」


「ならいいが……」



颯太はタオルで手を拭くとリビングへ戻り、ソファにどっかりと座る。



「この際だから聞くけど、颯太って誰か好きな子とかいるの?」


「え!?な、なんでそんなこと聞くんだよ!」


「うわ、颯太顔真っ赤~」


「う、うるさい!」



テレビを点けた颯太にレーナがさりげなく尋ねると颯太は顔を真っ赤にしてソファから落ちそうになる。



「……で、いるの?」


「はぁ……いるけど、いないことにしている」


「え?どういうこと?」


「レーナ、自分の記憶を振り返って傍から見た皆の様子はどうだ?」



颯太は突然真面目な表情になり、レーナにそんなことを聞いてきた。レーナは彼の言葉が理解出来なかったが、とりあえず皆と過ごしてきた記憶を参照した。



「………たのし…そう?」


「そうだ。俺はさ、中学時代色々なネトゲに手を出してきて何度も同じ場面を見たり、聞いたりしてきた」


「……?」


「ネトゲにそういう恋愛感情を持ち込むとほぼ確実に仲間との関係性が崩れるってことだよ。今まで仲が良かったフレンドが急にあるプレイヤーとくっつくと話しかけずらくなったり、誘いずらくなる。そんなの気にしなければいいじゃん、と思えばいくらマシか。でも人間っていうのはそこまで出来てねえんだ」


「あぁ……そういうこと…」


「こんなことレーナの前でしか言わないが、正直男だけの方がどれだけマシだったか分からんな」



颯太はそう言うと顔をテレビに向けて『もうこの話は終わりだ』という意思表示を見せた。それ以上、レーナは彼に話しかけることは出来なかった。





「それじゃ、戸締りしっかりしろよ」


「は~い。颯太も気をつけてね」


「あぁ、それじゃ行って来る」



颯太は13時になると香織と通話しながら家を出て行った。





「………」


「颯太くん!ごめん、待った?」


「ん、いや、そうでもない」



颯太は待ち合わせの仙台駅に着くと、それと同時に香織が走って息を切らしながらやってきた。



「あはは、今日も暑いね」


「30℃だってさ。それじゃ、行こうか」


「うん」



スマホを閉じた颯太は香織を連れて仙台駅を出た。



「それで颯太くん、今日はどうしたの?」


「今月もう少しでバイトの給料が入るから、そろそろ遊園地の計画を練らなきゃって思ってさ。香織さん、行くって言っただろ?」


「あぁ、そうだったね」


「どこの遊園地行こうか迷っていてな。こういうのは1人で悩むより香織さんの相談したほうがいいと思って」


「候補は決めているの?」


「2つほど」



信号を渡り、街並みを見ながら颯太と香織は歩く。2人とも目を合わせず、お互い景色に目をやっている。



「ここ入ろうか」


「あれ、ここって…」


「前、クレアさんが紹介してくれたんだ」


「あ、そうなんだ。ここ、結構女子の中で人気のカフェなんだよ」


「へえ、クレアさん何でも知っているな」


「ホントだよね」



カランと店のベルを鳴らしながら中へ入ると、店員が出迎え颯太は『禁煙席2名で』と言って店員に案内された椅子へ腰掛ける。



「とりあえずこのブレンドアイスコーヒー2つ。香織さんもそれでいいよな?」


「ええ、それでいいわ」


「はい、かしこまりました。少々お待ちください」


「颯太くん、慣れてるのね」


「クレアさんの真似をしているだけなんだけどな」


「颯太くんってクレアさんと休日結構会っているの?」


「ん?あぁ、そうだな。何かと相談することが多いし、それにあの人俺の家にしょっちゅう来るからな。この前は母さんと買い物に行っていたっけ」


「家族ぐるみの仲なのね…」


「まぁあの人は人に好かれる性格をしているから、自然とうちの家族に溶け込んでいるんだよな。父さんもこの前クレアさんとゴルフの話で盛り上がっていたし」


「え?クレアさんゴルフするの?」


「クレアさんがお世話になっていた大学の教授の趣味がゴルフで、クレアさんが小さい頃度々ゴルフに連れて行かれたらしい。そこからハマって、たまに行くそうだ」


「多趣味なのね……ホント何でも出来るって感じ…」


「何でも出来るだろうな」


「お待たせしました。当店オリジナルブレンドコーヒーのアイスが2つですね」



そこへグラスに水滴がついてきんきんに冷えているアイスコーヒーが来て、颯太と香織は1度会話を中断する。



「ご注文は以上ですね。では、ごゆっくり」



女性の店員は営業スマイルを浮かべてからその場を立ち去った。



「……うまい」


「ホントおいしい…」


「えっと、それで本題に移るけど、今挙げている候補はさっきも言った通り2つ」



香織は颯太がバッグから取り出したファイルを手に取り、中から印刷した遊園地の資料に目を通す。



「あ、ここ最近オープンしたばかりの……えーと…マリンアイランドっていうんだ…」


「そこはよくCMでもやっているとこだな。レーナが釘付けになっていたところだ」


「こっちは……昔からある定番のドリームランドね。ここは私も何度か行ったことあるわ」


「俺もある。結構前からある遊園地だが、今年工事が終わり、新しくオープンしたそうだ」


「へえ、変わったんだ?あ、確かに広くなってる」


「広さ的に言えばドリームランドだが、マリンアイランドは従来の遊園地にはない水族館を取り入れた新しい遊園地でな。まるで、海の中にいるような感覚が味わえるらしい」


「ホントだ。魚の水槽の中に出来たチューブの中を通るジェットコースターなんかあるわ」


「もちろんイルカのショーやペンギンと触れ合える場所なんかもある。普通魚って大きな音には敏感だと思うんだが、どうやら相当凄い防音ガラスっぽいな」


「最近のガラスは凄いよね。戦車に撃たれても大丈夫っていうんだから…」


「手甲弾は無理だが、普通の榴弾なら防ぐだったか」


「お値段はびっくりだけどね」


「あぁ、俗に言う―――でも、高いんでしょう?って奴だ」



颯太の言葉が少しつぼったのか香織は上品に手を口に当ててくすくすと笑う。



「ま、とにかく今日はこの2つを決めたくて香織さんを呼んだんだ。レーナには当日まで秘密にしたいからさ」


「うん、分かった。レーナさんには秘密にしておくね――――そうね、私は……マリンアイランドがいいかなぁ…」


「マリンか」


「自分の意見になっちゃうけど、私ならここに行って見たいかなぁ…って」



ぼそりと『颯太くんと…』なんて聴こえたが、颯太は聴こえていないフリをした。



「まぁレーナも気になっていたところだしな。えーっと、入場券はいくらだったかな」


「6500円ね。アトラクション料はないみたい」


「ん、まぁそんなもんか」



颯太は携帯を取り出して電卓アプリを起動する。



「交通費やら昼飯やらレーナのアイスやらお土産やらを考えると4万は欲しいところか」


「間に合いそう…?」


「最悪母さんと父さんに援助して貰うから問題ない。でもまぁ、間に合うと思うけどな」


「良かった…」


「あぁ、香織さんの入場券も買うから、香織さんは買わなくていいぞ」


「え!?いや、悪いよ!だって、こっちは無理やり着いていくんだし、それくらい出させて」


「格好つかないだろ。レーナと自分だけ出して香織さんだけ自腹だなんてさ」


「ううん、いいの。そんなことで颯太くんの株が下がるわけじゃないし」


「いいからいいから」



颯太はそれ以上香織に耳を貸さず、メモ帳を取り出してボールペンを走らせ始めた。



「もう……いいって言ったのに…」


「家庭教師のバイト結構金入りが良くてさ。それに俺、あんま出かけたりしないから金は余っているんだ」


「でも、悪いよ…」


「俺の顔を立てると思って納得してくれ。入場券だけだから、あとは自分の金な?」


「ええ、そこはもちろん」



ひとしきりメモ帳に何やら書いていた颯太はメモ帳から顔を上げた。



「で、日程はどうしようか。バイトの給料が入るのは30日だ」


「明日か。それじゃ、8月ならいつでもいいよ」


「人が多い日は避けたいな……まぁ、夏休みで人を避けるなんて話は無理なんだが」


「そうよね。それに、今ちょっと調べたけどマリンアイランドで夏限定のイベントをやっているらしくて、大盛り上がりみたい」


「それは丁度いいな。どんなイベント?」


「水ぶっかけられるらしいよ」


「なんだそのイベントは……でも、涼しそうなイベントだな」


「だからカッパの売り上げが凄いみたい」


「事前準備と行きたいな。俺はどうでもいいが」


「え?風邪引いちゃうよ?」


「暑いからすぐ乾くだろ。もしびしょぬれになったらマリンアイランド内の衣類店でシャツでも適当に買えばいい」


「そういう問題なの…?」


「そういう問題だ。んじゃ、いつでもいいのなら8月初めでいいか?」


「8月1日?いいよ」


「よし、決まりだな。待ち合わせは7時仙台駅前だ」


「え?そんな早く?開園は9時だよ?」


「いや、早めに行って並んでおこう。人気のアトラクションは混雑するから、早めに乗ったほうがいい」


「颯太くん、思考がガチだね…」


「普通じゃないか?せっかくの遊園地なんだ。待ち時間だけが長かったなっていう思い出で終わらせたくない」


「そうだね……うん、分かったわ。7時仙台駅前のステンドグラス前で?」


「あぁ、そこでいい。それで7時15分発のマリンアイランド行きバスに乗る」


「もう把握しているんだ」


「大体調べはついている。で、到着は45分ごろだったか。まぁ、入場券を買って並んで8時かな」


「なんだか中学生の修学旅行の時の颯太くんみたい」


「ん……あぁ、あれは暇だったからな。それに香織さんたち、遊ぶことばかりで電車の時間を把握してなかったじゃないか」


「あ、あれは歩美が…」


「歩美さんか……歩美さんとは同じ陸上部だったな……競技こそ違っていたが。今も陸上を?」


「ええ、走り高跳びを」


「なるほどな……」



颯太はそこで頬杖をついてカフェの窓から見える外の景色に目をやった。何気なく中学時代の話をしてしまった香織は『やってしまった』と思い、顔を沈ませる。



「他の奴らは何しているんだろうな…」


「え?」


「俺と一緒に走っていた奴は何をしているんだろうなって」


「部活友達…?」


「あぁ……でも、俺は妬まれていたからな」


「妬まれていた?颯太くんが?」


「口にこそ出さなかったが、俺に期待していた監督の贔屓をあいつらは妬んでいた。あの頃の俺は正直結果を出せないほうが悪い、努力をしないほうが悪いと思っていたから何とも思わなかったが、足をやってから急にあいつらが優しくなってさ」


「………喜んだのね…」


「そうだ。見舞いに来る部活仲間のあいつらの心がよく見えた。贔屓されていたから天罰が下ったと。でも、俺は天罰だとは思っていない。あんな環境で続けるくらいだったら足をやって正解だと思っている」


「颯太くん…」


「どうせこの先、高校で陸上を続けたとしても同じことが続くと目に見えていたからな。監督の期待を裏切って悪いと思っていたが、今はこれでいいと思えるようになったよ」



あの頃の彼とは見違えるほど曇りない綺麗な目をしていた。



「それにあんな陸上を続けていればレーナや香織さんと知り合うことも出来なかった。ホントやめて正解だったよ」


「颯太くん、もう屋上に行かない?」


「行く必要がないな。あれは、クラスの雰囲気に耐えれなくなって逃げた場所だったし、今は自分の居場所をちゃんと見つけている」


「そう」


「歩美さん、レギュラーになれているんだろ?」



「ええ、走り高跳びのエースだそうよ」


「相変わらずだな。ホントあの性格が羨ましい」


「え?」


「俺はメンタルが弱かった。だから、そういう嫉妬の眼差しにも耐えられなかった。でも、歩美さんは違う。あんなに後輩や同じ学年の仲間の尊敬と信頼を勝ち取る同級生を俺は知らない。歩美さんはこの先もずっとあの明るい性格で突き進むだろうな。困難を困難と思わない。凄い才能の持ち主だ」


「颯太くん、歩美のこと知っていたの?中学の時は誰も知らないって感じだったのに」


「知っていた。でも、喋ったことはない。あっちも俺のことを認識していただけで、話す機会がなかっただけだ。今度聞いてみたらどうだ?きっと俺が知らないことも喋ってくれるはずだ」


「颯太くんも知らないこと?」


「俺の部活中の姿や、周りからどう思われていたこととか。俺はそういうの興味がなかったからな」


「歩美も興味ないと思うけど……そういう話し…」


「歩美さんと俺は変なところで似ているな。こう言っちゃなんだが、どっちも運動馬鹿だからな」


「言えてる。あ、でも颯太くんが馬鹿ってわけじゃないよ!」


「どうだろうな」



慌てて言い直す香織を見て颯太はその日初めて笑った。



「それじゃ、8月の1日に」



カフェを出た2人はその場で解散しようとしていた。



「あの……颯太くん」


「ん?」


「この後暇?」


「ん~……」



颯太は家に置いてきたレーナのことが心配になったが、千草と仲良く遊んでいることだし、邪魔するのも悪いと思った。



「大丈夫だけど」


「やった…!それじゃ、もう少し遊んでいかない?この前オープンしたジェラードのお店に行きたいんだけど」


「いいよ。それはどこにあるんだ?」



香織は小さくガッツポーズをすると颯太と一緒に歩き出した。



「表通りよ。並んでいるかなぁ…」


「可能性は高い。今日は暑いしな」



颯太は暑さでだるそうに答え、香織はそんな彼の顔を見ながら幸せそうに歩くのであった。

5月も終わり、これから梅雨に入っていきますね。どうもまた太びです。

5月だというのにこの暑さは何なんでしょうね。この調子で行きますと7月8月は地獄になりそうです……あぁ…電気代がやばい……。



さて、今回はかなり久しぶりな組み合わせでした。最近はもっぱら颯太×クレアまたは颯太×詩織だったので、颯太×香織は相当久しぶりな気がします。

ん?もしかすると大分前にやったレーナの髪飾り購入編以来かな………


ちなみにこの作品ではメインヒロインの定義が怪しいです。一応私の中ではダブルメインヒロイン的な感じで詩織と香織なんですが………

そしてサブにクレアと伊澄が来るわけです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ