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敏捷値が高い=強い(旧題ランゲージバトル)  作者: また太び
1章 ランゲージバトル
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颯太の願い

「最高級ギルド建設券か……」


「ギルド建設券が入っていたなんてね」



噴水の広場で颯太は草むらに仰向けに寝ながらストレージに入っているギルド建設券を眺める。



「お~い!ジュース買って来たぜ」


「あぁ、ありがとう」


「レーナちゃんも」


「おお!タツヤは気が利くね~」


「いい加減混沌よ、我の腹でFDを弄るのはやめろ」


「言っても無駄ですよ。諦めなさいな」


「だって、ボルケーノはぽかぽかしててあったかいんだも~ん」


「むぅ……」



ボルケーノは抵抗するのを諦めたのか、目を閉じて寝てしまった。

アルテミスは木の下で颯太達を見守っており、レーナはいつも通りボルケーノのお腹の上でごろごろしている。



「ちょっとお前ら来いよ!」


「ん?なんだ?」


「ダンジョンクリアして疲れているんだけど」



噴水から近くの掲示板までタツヤに連れてこられた二人は掲示板に人盛りが出来ているのに気付いた。



「なんだ?新しい運営の発表か?」


「いえ、それはないと思うわ。大体運営の発表って木曜日の17時頃だったはず」


「ちなみに今の現在時刻は夜の11時だ。何が書いてあると思う?」


「いや、分からないから聞いたんだろ」


「まぁ来てみろって」



タツヤに強引に腕を引っ張られると颯太は掲示板の前にまでやってきた。



「おい、宝の地図ダンジョンのクリア者だってよ。それも3人で」


「え?こんなにレベル低いのにか?」


「あぁ、この掲示板に載っているって事は未踏破だったんだろ?」


「あれ?これ俺の名前……タツヤも香織さんも…」



隣の方から聞こえるプレイヤーの声に導かれるように颯太は掲示板に載っている3人の顔を見た。



「それにこのプレイヤー混沌使いだぜ?よく味方殺さなかったな」


「何でも今回の混沌は人を殺さないらしい。今日俺あそこの噴水の広場で集まっているの見たからな」


「それマジかよ」


「あぁ、そこの人によく似た――――へ?本人?」


「あ、どうも」


「こ、混沌使いだああああ!?」



颯太が掲示板を見ながら隣の声に反応すると周りの人盛りは一気に颯太から離れる。



「未踏破ってここに載るんだな。少し恥ずかしい気もするが」


「お前よく平気でいられるな……」


「まぁ気にしても仕方ないからな……それに比べればレーナはどれだけ悲しい思いをしてきたか……」


「そうだよな……レーナちゃんはただ遊びたかっただけなんだよな…」


「言っても仕方ないさ。行こうぜ、タツヤ」



見るべきものは見た。

颯太が帰ろうとすると人は彼を避けるように道を開ける。その光景を見たタツヤは許せなかった。



「こんの!!お前らな!!!混沌混沌好き勝手言いやがってよ!!レーナちゃんは悪い子じゃねえ!お前らが怯えたりするからあの子はあの子は……!!!!普通に遊びたかっただけなんだよ!!あんな小さな子供をよってたかって人殺しの神器とか色々よ!!!お前ら恥を知れ!!後な―――」


「タツヤ!もういい……ありがとう…」


「くそが!!!」



タツヤの叫びは颯太によって止められた。

一瞬タツヤは颯太の制止を理解出来なかったが、彼の心情をくみ取り、言葉を吐き捨てて颯太と一緒に去って行った。





「兄さん……私からも礼を言うわ………颯太くんの代わりに言ってくれて…」


「俺の腹の虫が収まらなかっただけだ」



それを聞いていた颯太は目頭を押さえて立ち止まった。



「おいおい、どうしちまったんだ?」


「いや、タツヤも変わったなって。出会った時こそはレーナを警戒していたけど、すぐ打ち解けてくれて、今では俺の代わりに怒ってくれた。俺は本当に良い友達に巡り合えたよ」


「へっ!今更水臭いこと言うなよ!俺達でレーナちゃんの悪夢を消し去ってやろうぜ!」


「あぁ!レーナが皆に好かれるようなゲームにするんだ」


「私も忘れてしまっては困るわ」


「委員長もよろしくな」


「こ、こっちの世界では下の名前で呼びなさいよ」


「悪い悪い。香織さんもよろしく頼む」


「ええ、協力させて貰うわ」



颯太はストレージからギルド建設券を取り出すとその手に握る。



「俺、ギルド立ち上げる!」


「ホントか!そう言うと思ったぜ!」


「いいね。何て名前にするの?」


「そ、それはまだ考えていないが……」


「もう颯太くんって勢いばかりなんだから。兄さんと同じね」


「だから気が合ったんだよ!なぁ?ソウタ!」


「まぁな。ギルド名は明日中までには考える。今日は切りもいいし、解散しよう」



噴水の広場にまで戻ってくると颯太は皆にそう告げた。



「私も疲れちゃったから、丁度いいわ」


「そうだな。よし!おやすみだ!ソウタ!」


「おう。二人ともおやすみ」


「じゃあね、颯太くん。明日また学校で」


「あぁ、香織さんもまたな」



二人は笑顔でログアウトして行った。

また一人残された颯太もログアウトすべく草むらで寝ているレーナを起こす。



「レーナ、帰ろう」


「うにゅ……うん…」


「今日は頑張ったな。寝るのは俺の家に帰ってからだ」



目をこすりながらレーナは立ち上がり、颯太の手を握った。



「ログアウト!」



颯太とレーナは無事部屋に戻ってくると、レーナをベッドに寝かせる。

いつの間にかレーナの寝る場所が自分のベッドになってしまった事に颯太は苦笑を隠せない。


レーナは人付き合いが全然分からない子供同然だ。

だから、人を痛めつけることでしか自分の存在を知らせる事しか出来ない。

誰も教えてくれなかったのだ。


颯太はレーナにたくさんの事を教えたいと思っていた。

今日彼は彼女の色々な素顔を見る事ができ、彼女にもやっぱり怒られると悲しんだり、人の顔から感情を読み取ったりすることが出来た。

これは素晴らしい発見だ。まだ彼女はやり直せる。彼女の心に住むドス黒い闇を取り除いてあげることが出来るんだと。颯太は確信した。



「レーナ。俺がお前を救ってやる。俺の願いはお前を救う事だ」


「颯太ぁ……」



颯太に似せて作った抱き枕を幸せそうに抱えて寝ている彼女に彼は強く誓った。




「うい~っす」


「よう、颯太。身体は元気そうだな」


「あぁ、おかげさまで元気だ。二人には迷惑をかけたな。俺を運んでくれてサンキュ」


「全くお前が倒れたって委員長が血相変えて言うもんだから驚いたぜ」



角刈りのゲーム友達である本田ともっさり髪型の上条がゲームをしながら話しかけてきた。


颯太は椅子に座ってゲーム機を取り出して何をしようか悩んでいると、FDにメールが来た事を知らせるバイブが鳴って颯太はFDを取り出した。



「なにそれ?機種変したの?」


「あぁ、二つ持つようにしたんだよ」


「見たことない奴だけど」


「俺が作った」



二人に適当に答えながら颯太はFDを確認した。

そこには『カオリ』と書いており、颯太は頭を抱える。


『颯太くん、ギルドなんて名前にするの?』


タツヤはともかく、何故同じ学校の学年の同じクラス内の人間にメールを飛ばすのだろうか。



「なぁ、少し聞きたい事があるんだが、例えば同じクラスにいる人間に対してメールを飛ばすってのはどう思う?」



わざと香織に聞こえるように喋ると彼女はぎくりと背筋を伸ばす。



「ありえないわ。そのまま直接喋ればいいと思うけど」


「俺もそう思うぜ。つか、メアド知っている関係なら普通に喋れね?」


「だよな、俺もそう思う」



颯太は腕を組んでうんうん頷いていると雲一つないいい天気なのに颯太に影が差す。

気になって顔を上げるとそこには香織が立っていた。



「ごめんなさいね颯太くん!!」


「ごふうッ!」


「ふん!今度は避けられなかったわ」



窓側の席に座っている颯太は香織のミドルキックを鳩尾に喰らってしまった。



「く……ッ!や、やっぱり……」


「やっぱり?なに?」


「俺は委員長が苦手だ…」


「苦手で結構!」


「や、やめ!冗談だ!あ、今日は白か」


「殺す!!」



踵落としに垣間見えたオアシス。

だが、次の瞬間颯太は水も何もない灼熱の砂漠にラクダから転落した。



「つまり、この図形は―――って颯太くん。先生の授業つまらない?」


「いえ、とっても楽しいのですが、先ほど委員長からミドルキックと踵落としを頂いてそのダメージが残っているんです」


「なんだか分からないけど、聞いているようならここやって貰おうか」


「ええ、まぁ……小町先生の授業は楽しいですからね」



数学だけは得意な颯太はチョークを持つと、式と回答欄に答えを記入する。



「正解!流石ね、颯太くん」


「颯太は数学だけ見ればクラストップだからな」


「他は全然ダメだけどね」



自分の席に座ると隣に座る上条が話しかけてきた。



「平均点以上は取っているじゃないか。本田なんか散々だし」


「学年最低の本田はともかく、学年トップの上条には敵わないよ」


「あはは、僕はやる事をやっていない親がね」


「なるほど」


「颯太く~ん!お話やめてね。先生、困っちゃうから」


「すみません」



何故自分だけ怒られるのか分からないが、こういうのはすぐ謝るのが良いとお決まりである。



颯太は自分の最前列に座る香織を見た。

香織は学年の平均から見ても可愛い方だ。実際このクラスでは一番だし、結構彼女のファンは多いらしい。

だが、恋愛とか恋人とか、そういう浮ついた話は一切出てこない。



「なぁ…上条」


「なんだい…?」



小町に気付かれないように二人は小声で喋る。



「委員長の兄貴って…この学校にいるか…?」


「いるよ……3年2組の道草 竜也たつや先輩。もう部活は引退したけど、前まではライフル射撃部の部長だったんだ…」


「あぁ…それで腕がいいんだな…」



全く学校に興味がなかった颯太は今更のように学校の近況を知る。



「サンキュ」


「あいよ…」



颯太は小町の話を聞くふりをしながらFDを操作して香織にメールを送った。


『委員長の兄貴ってここの学校だったんだな』


至極どうでもいい話を送りつけると香織はびくっと背筋を伸ばした。



「どうかしたの?香織ちゃん」


「い、いえ!」



それを見た颯太は悪い顔をした。


『あいつ、優等生だから授業中は本当に電源を切ってやがるのか……でも、FDに電源を切る機能はない!』


香織は一度鞄を見たが、自分の携帯は電源を切っていた事を思い出し、颯太を睨んだ。


颯太はそれを涼しげに躱しながら、更に送りつける。


『そう言えば今日の学食日替わりなんだっけ?』



「ひうっ…!」



彼女の身体が震える。

一体どこにしまっているのか分からないが、颯太は段々面白くなってきた。


『レーナ、まだ起きてこないんだよね』


「あっ…!」


『つか、顔赤いけど大丈夫か?』


「うっく…」


『俺の今日の晩飯なんだと思う?』


「はぁ……」


『そんなに授業中FD触りたくないのかよ』


「うぅう…!せ、先生!と、トイレ行ってきます」


「行ってらっしゃい?」



顔を赤くした香織は教室を出て行った。

何だか可哀想に見えた颯太は、彼女の事が気になりだし。



「先生、俺もトイレに」


「そうね。さっきから酷い顔しているし、保健室行って来てもいいよ?」


「あ、いえ、トイレで大丈夫です」



颯太は香織を追って教室を出て行く。



「まだ、そんな遠くに行っていないと思うが……いたいた」



早歩きでトイレに向かう香織を見つけた颯太は走って彼女の隣に並ぶ。



「な、何よ」


「いや、俺もトイレだけど」


「………FDに送って来たの…颯太くんでしょ…」


「ん?まぁな。なんだ?竜也だと思ったのか?」


「そうじゃないけど…」


「大丈夫か?顔赤いぞ」


「だ、誰のせいで――――」


「ん~?さぼっている生徒でもおるんかの?」


「や、やば!三影爺さんだ…!」


「巡回に来てたの!?」


「とりあえずこっちだ!二人一緒にいるのを見られたらまずい!」


「あ…!」



颯太はトイレまで距離がある事をすぐに知り、空き教室に香織と一緒に入る。

外から丸見えなガラスになっているため、颯太は香織を自分に抱き寄せてドアの前に座る。



「そ、颯太くん」


「しっ!」


「ん~?ここらへんから聞こえたんじゃがのう……わしも耳が遠くなったもんじゃ」



スリッパの音が通り過ぎて行く音がして颯太は安堵の息を漏らす。



「委員長、もう大丈夫―――あ」


「あの…颯太くん」



反射的に抱き寄せたとは言え、颯太はセクハラをしてしまった。



「わ、わりい!ごめん!すぐ離れるから!」


「あっ!」



しかし、突然の左目の痛みで調子が狂ってしまった颯太は、足がもつれて香織を押し倒す態勢になってしまう。



「いっつ…!レーナか…?今の痛みは…」



毎回レーナが起きると同時に襲ってくる目の痛み。



「あ………やべ、ホントごめん!」



鼻先にグーを覚悟した颯太は香織から離れるため起き上がろうとしたが、香織が颯太の首に腕を回してガッチリホールドしているため起き上がれない。



「え?委員長さん?」


「香織って呼んでよ……」


「あ、はい。香織さん、あのこれはどういう事でしょうか…」


「分からないの?」


「いや、えっと……分からないのと言われても、これはあれですよね。ゲームだとこのままあの流れになるわけで」


「私はいいよ……颯太くんがFDで私にメールを送って来た時からなんだか変な気持ちに…」


「お前一体どこに入れていたんだ………」


「え?なに?」


「い、いや何でもないです、はい」



10秒くらいだろうか。無言の時間が続くと香織は首に回す手の力を強くして颯太の顔を一気に引き寄せた。



「えッ!?ちょ、お前!」


「私は………」


「い、いいのかよ。その、俺なんかで」


「う、うん…」



恥じらう香織が愛しく思わせた。

颯太は香織を自分のものにしたい支配欲に刈られる。


生唾を飲み、颯太は香織に顔を近づけ、そして――――



「や、やっぱりダメ!」


「え!?ちょ!」



香織は起き上がって颯太を突き飛ばした。

突き飛ばされた彼は空き教室の教卓に頭を強くぶつける。



「ご、ごめんなさい!」



香織は顔を真っ赤にして教室を出て行ってしまった。



「や、やっぱり委員長は苦手だ……かっくり…」



颯太は白目を向いて気絶したのであった。

VRMMOネタって結構新鮮ですよね。

私がこのブームが来たなって感じたのはSAOでした。もっとも、その頃は小説家になろうなんてものも知らず、その頃からVRMMOネタはもっとあったのかもしれません。

皆さんが思う自分だけのオンラインゲーム。タイアップして欲しいアニメ、こんなシステムだったらもっと面白そうだ。こんなの来たらもっと戦術が広がるのになぁとか色々な思惑があったのかもしれません。

私自身5年くらい続けているオンラインゲームがありまして、5年たってもまだ足りないなって感じる部分はあります。

もしかしたら私が書くこの話しが、自分が理想とするオンラインゲームなのかもしれませんね。

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