今、僕は何処にいるのか?
目が覚めた。有り得ないと思った。
僕は死んだはずだ、銃を撃っても生きていた時のために、銃を撃った後硫化水素を地下室の中に流すようにしていたからだ。
だから、まずここがどこであるかを調べなければならない。
四肢はある、服も着ている。だが、見えるものが変だ。ついさっきまで虹色の霧のようなものが見えたかと思えば暗闇になり暗闇になったかと思えば日の出が訪れる。というような調子で2秒~5秒くらいに一回は見える景色が変わっている。
というわけで、一度歩いてみることにした。幸いなことに歩く足もある。だから歩く、行先は勘だ。
そうして歩いているうちに街に着いた。建物はこれまでに見たことのない透明な素材でできていて、かろうじて何かがあるとわかる程度で建物の向こうも透けて見えるのに住人や家具は隠されているらしい。
光学迷彩の応用か何かだろうと使われている素材や技術などをあれこれ予想していると「こんにちは!あなたが本田孝介さんですね」と誰かが話しかけてきた。
「そうですが、あなたは誰ですか?」
「すみません、名乗るのが遅れました。私は神です」
突然の神宣言に僕は混乱していた。だから、こんなことを聞いてしまう。
「神だと言うのならその証拠を見せてください」
「証拠ねぇ、縫い目がない服とか?それとも君が封印したはずのものとかを出せば神だって信じてくれるかい?」
本当のことを言っている眼で神が聞いてきた。
「では縫い目がない服でお願いします」
「本当にそんなものでいいのかい?デパートで仕立ててもらった品だけど、今私が着ているものがそれさ」
見せてもらったが本当に縫い目などは付いていなかったし、これまた僕の知らない素材でできていた。じっくり研究したい衝動に駆られたが、今はそれどころではないのでここはどこかと聞いてみた。
「ここ?天国だよ。ついでに言うとここは天使区だね」
にわかには信じられない答えが返ってきたが、その言葉を信用すればほとんどの問題に片が付くことも事実だったため、次の疑問を言った。
「なぜ神ともあろうお方が僕に話しかけてくるんですか?」
「うん、それはね、君がイレギュラーだからだよ」
「どういう点がイレギュラーなんですか?割と大きい研究をして割と多くの人を殺しただけなのですが?」
ごく当たり前の質問だが、あえて聞いてみる。
「そこがイレギュラーなんだよ、君は最後に私の世界で何を発明した?」
「強化装甲ですが」
「そう、それはあと300年は発明されるはずのないものなんだよ。他にもステータスカードとかアイテムボックスとか私の世界では発明されるはずの無い物まで発明してくれてだ」
「君はいったい何年歴史を早めたと思う、測定不能だ。しかも、それらの軋轢によって引き起こされるはずの戦争まで何を間違えたのか君がその戦争の首謀者となるはずだった人物をすべて殺して、発生する前に終わらせたと来ている」
つまり、君はとんだ英雄というわけさ、と彼女は言った。
僕は知らないうちにとんでもない事をしてしまっていたらしい。
「さて、ここからが本題だ。君がそういうことをしてくれたので私はこの世界を一度巻き戻さねばならなくなった。まあ、君が首謀者全員を殺しておいてくれたおかげでこの作業も驚くほど楽に進んだわけだが、君をこの世界に生まれさせたのは間違いだったといってもよいわけだ。なので、これから君には別の世界に行ってもらう。もちろん直ぐにとは言わない、普通の魂がここにとどまっている時間だけはここにいてくれて構わない、あと、君が今まで得た功績もポイント化して渡してやろう。君の住んでいた住居もタダでつけておこう。処分にも手間のかかるものだからね。つまりだ、チートやって一か月自由時間やるから別の世界に行って来いというわけだ。わかったかな?」
「拒否権はありますか?」
「ある筈がないだろう」
「あと、君が行く世界にはステータスカードもアイテムボックスもある。だから、それらを使っていても怪しまれるようなことはないだろう。詳しいことはステータスカード内のヘルプに書いておいたのでそれを読め、では健闘を祈る。さらばだ!」
最後の言葉を言うが早いか、彼女は消えていた。