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貴族令嬢のたしなみ

貴族令嬢のたしなみ 第三話

作者: 宵代 月乃

「貴族令嬢のたしなみ」、「貴族令嬢のたしなみ 第二話」の続きです。まだお読みでない方はそちらから先に読むのがおすすめです。

「お父様?」


いま、ジャン=チャペルの目の前に座っているのは、チャペル家の三姉妹のうちでもっともジャンが恐れている娘、アイリーン=チャペルだ。

「おかえりなさい、予定よりとーーーっても遅かったのではありませんこと?」

「ア、アイリーン・・・。」

「うふふふ、出張先で、いくら、使ったの?」


にこにこにこにこ、口元は優しく微笑む。だが。・・・目が笑っていない。むしろ、据わっている。

実は、ジャンは出張先で少々お金を使いすぎてしまったのである。それにしても、情報が早い。


「わたくしたちが、慎ましくしとやかに節制し、お父様のお仕事に使うお金の工面をいたしましたのに・・・。向こうで、ずいぶんと楽しまれたようですわねぇ?」

「お、落ち着け、」

「わたくしは冷静です。」

アイリーンは、自由奔放なアリス、謙虚で優しいアンナとともに育った。長女なだけあってアンナとはまた別の意味でしっかりしている。将来は恐妻になりそうだ。

「さあ、そこに正座なさって?」

悪魔が、笑った。


アイリーン=チャペル、18歳は、才女だ。また、大人の落ち着きを感じさせる美少女。アリスの5歳年上の姉にして、アンナの二歳年上の姉でもある。彼女はただの綺麗で賢いご令嬢にも見える。事実、そう変わりはないのだが、彼女には変わった異名があった。

「教会の毒氷花」・・・。

父親としては非常に微妙だが、しょうがないのではないかと思う。


彼女は、賢い。そして、美しい。可愛らしいより、美しいのほうが似合う。だからといって妖艶な妖しい美女、というわけでもない。では、なぜ「毒氷花」なのか?


・・・、アイリーンは、賢すぎた。また、美しいため、たくさんの男がやってきた。あまりにも馬鹿すぎる男たちに幻滅し、アイリーンの来の武器・・・嫌味に磨きがかかった。ついでに男嫌いにも。

良く回る毒舌で求婚者をことごとく追い返す、チャペル・・・教会の冷たいの華。たしか、そんな由来だった。


以来、本の虫と化したアイリーンは、図書室を私室化して、屋敷敷地内から出ないご機嫌引きこもり生活をおくっている。彼女が外に出るのは、年に数回ではないだろうか?


アイリーンが引きこもっている理由は、それだけではない。むしろもう一つのほうが大きいだろう。彼女が13歳の時に起きたある事件。詳しいことはジャンも分からないが、アイリーンが失ったものについては知っている。

足、だ。その事件が起きてから、アイリーンは歩けなくなった。一時期は立つことさえ困難だったが、今では走れこそしないものの、歩くことならできるところまで回復した。医者は、心理的なストレスと言っていた。

だから、アイリーンは、体ではなく、その頭脳と知識で戦うのだ。


頭脳明晰で才色兼備、常に冷静沈着。知識も豊富で貴族にふさわしい優雅な立ち振る舞い。

だれもがアイリーンは素晴らしいというだろう。

落ち着いたアッシュブラウンの髪は軽いウェーブにゆれ、肩より少し長いところで切れている。理知的な瞳はチャペル家特融の若草色。心なしかアリスやアンナよりも濃く感じる。



アリスやアンナもそうだが、この家の娘は、皆緑を基調としたドレスを身に着けている。もちろん、アイリーンも。

例えばアリスなら、鮮やかな黄緑に濃い緑のチェックが入ったエプロンドレスのようなもの。フリルがたくさん、リボンも多くついている。子供っぽいのは否めないが、似合っているのも真実だ。ワンピースのように裾が短いのは、年齢とその行動力の高さからだろう。アリスはすぐにドレスをボロボロにする名人である。

アンナは、冬だろうが夏だろうが常にきちっとした長袖、襟も開きすぎない、裾長めのドレスを着ている。園芸や剣術など趣味の時間には、少しだけ裾が短くなったドレスだ。瑞々しい新緑のいろ。アリスより色はしっかりしている。また、さすがチャペル家の女、アンナは剣を扱うときもドレスだ。なのに大抵の男は彼女に負ける。ジャンは、アンナはもう少しおしゃれを楽しむべきではと思案している。まあ、今でも十分楽しそうなのだが。

アイリーンは濃い、深い深い緑だ。大人っぽい、しっとりとしたドレスは彼女にとてもよく似合っている。本を片手に紅茶を飲む姿は、優美としかいいようがない。まさしく、理想の淑女であり、姉だろう。


アイリーンは妹たちを溺愛している。いろいろ間違った常識も教えていそうだが、放任主義の母親に代わって世話などもよくしていた。

従って、姉妹の仲は良好なのである。


「・・・・・いいでしょうか?無駄遣いなど言語道断、次にやったらあの子たちにあることないことないことないことないことふきこみますからね。」

「分かった・・・。すまなかった・・。気を付ける・・・。」

「わかればよろしいのです。さて、お母様のところへ行ってらしたらいかが?」

「ああ、謝ってくる・・。」


三時間ほど説教をくらい、精神的ダメージが計り知れないほどボロボロの心で、ジャンは妻のもとへ向かった。



おねえちゃんへんです。

あたまいい、毒舌家。

かっこいいですーーー。

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