第7話
何かもう誰視点なんだか分からなくなってまいりました(涙
後宮での暮らしは私には退屈でしかなかった。それに・・・・
「妹がいない!?」
それは、後宮に来てから一週間ほど経った頃だった。その間私はといえば『まだ来たばかりなのだからあまり動くのは良くない』とのことで、毎日毎日部屋で贅沢な格好をし、贅沢なご飯を食べては寝るを繰り返していた。そして私付きであるエリアとリリ、ララとは当たり障りのない関係を築いていた。何故か3人が3人とも友好的なのが気になるところだが、私が今一番気にしているのはそんなことじゃない。そんな贅沢なことばかりしていたからこんなことになったのだ。
妹がいなくなるなんて
「どういうことですか!?妹を保護してくれるのではないのですか!?」
「そのはずだった。お前を迎えに行くと同時にお前の妹の元に騎士を向かわせたが、そこにお前の妹はいなかったそうだ。」
淡々と陛下が言う。一週間も後宮で暇を持て余していた私の元へ何の用があるのかと思っていたら・・・。思わずソファーから立ち上がったが眩暈を感じて座り直した。
「どこに行ったかは?」
「その心当たりをお前に聞きに来たのだ。騎士達は手がかりも掴めずに帰ってきた。これ以上探しようがない。」
私は頭を抱えたくなった。心当たりなんてある分けない。帰る場所も、思い出の場所も私達には無いからだ。
ただ、考えなしにそんなことをする子ではないから、何か考えがあってのことだと思うが・・・。
それにしてもなぜ?
公爵邸に行く前、彼女の側にいるよう数人の精霊に頼んでおいたので滅多な事は起こらないとは分かっているが、行方が知れないというのがこんなに堪えるとは・・・。
「その様子では、心当たりは無さそうだな。今後も捜索はさせるが、何か思い出したことがあれば言ってくれ。」
それだけ言うと陛下は部屋を出て行った。
陛下が出て行ったとたん、私の側に寄ってきたのは私付きの3人だった。
「レティシア様、お気を確かに。妹君はご無事でいらっしゃいますわ。何と言っても月光の民の君なんですもの。」
「そうですわ。すぐ見つかりますわ。」
「我が国の騎士達は優秀ですもの。きっと見つかりますわよ。」
エリアを筆頭にリリとララが慰めてくれるが、それが今の私の癇に障った。
「私の妹は月光の民のハーフなの。魔法がほとんど使えないのよ。精霊が側に居るとはいえ絶対なんて無いわ!!何故絶対何て言い切れるの!?」
妹と離れて一年余り、一度も会えなくても大丈夫だったのは精霊を通してその存在を側に感じていたからだ。公爵邸にも魔法が使えない様結界が張ってあったりしたが、精霊の出入りまでは制限していなかった。それがこのガルシア帝国の王宮といったら、後宮を含め城全体に精霊の出入りが制限される結界まで張ってある。さらに目立ったことが出来ないこともあり、未だ精霊と接触出来ていなかった。その間にこんなことになっているなんて・・・・。思わず感情的になって最後の方は叫ぶように言ってしまった。
後悔が胸を締め付けるが、大して気にした風もなくエリアは言った。
「私も月光の民の血を引いております。でも血を引いているといっても私は魔法は使えません。でも昔からいくらいじめられても、大怪我をしそうな大事故にあっても、何かに守られているように私は怪我という怪我をしたことがありません。」
『月光の民の血を引いている』その事実に私は目を見開いた。
そう、いないことはないのだ、現に私の母も普通の人間と想いを交わし妹が生まれたのだから。何代前かは分からないがエリアの祖先にも月光の民と想いを交わしたものがいたのだろう。そして月光の民の血を引くと周囲に知られていてもここまで血を繋いできたのだ。
「私は、怪我をしなかったのは精霊様のおかげだと思っております。我が子爵家は月光の民の血を引くことを誇りに思い、月光の民と同じように精霊様を敬うようにと教えられ、季節の祭りや行事の折には精霊様に祈りを捧げていたからです。姿が見えなく、声が聞こえなくても、精霊様の気配は常に私達の周りにありましたから、すぐに分かったのです。私達は精霊に守られていると。」
「私達?」
私がそこで訝しげに聞き返すと、エリアはリリとララを見た。
「まさか!」
「はい。私とララも月光の民の血を引いております。エリア様と違って魔力は大きく魔法も使えますが。我が男爵家も、エリア様のご実家と同じく月光の民や精霊様を敬っております。そのおかげか公然と月光の民を敬っていると言っても、誰も怪我や暗殺等にあったことはございません。皆老衰で、天寿を全うして亡くなったと聞いております。」
「月光の民と情を交わしたと、一時爵位も剥奪され生活にも苦労したと聞きましたが、月光の民の力を望む声が出始めた頃に新たに爵位を賜りました。私達がこの城へ上がったのも、陛下の采配でございます。この先も苦労するであろう月光の民の姫君に、少しでも近しい者を・・・と。」
知らなかった。他の民と想いを交わした月光の民がその先どうなっていったかなんて。
どうせ子孫もろとも迫害されるに決まっていると思っていた。魔力や魔術師の衰退というきっかけがあったものの、皆幸せに暮らしたのだろうか?だからこうやって、エリアやリリ、ララがいるのだろうか?皆が皆幸せだったかは分からないが、そうであればいいと思った。
「レティシア様、必ず妹君にはもう一度会えますわ。精霊様が守ってくださいます。私達の実家にも探させますので、どうか元気を出してくださいませ。」
そうか、彼女達は仲間だったのだ。血は薄くなり、月光の民とは呼べないほどになっても、心は月光の民だったのだ。だから彼女達は私に優しい。仲間に優しくしない仲間はいない。
「妹が見つからないかぎり、落ち込んだままだと思う。でも、こうして月光の民の血を引くあなた達に会えたことを嬉しく思う。月光の民の心を継ぐ者がいることを、嬉しく思う。ありがとう。」
気が付けば、涙がこぼれていた。
世界に二人だと思っていた。実際、月光の民と呼べるのは私と妹だけなのかもしれない。
でも、月光の民の心を継ぐ人がいたなんて・・・。血を引いていること以上に嬉しい。
世界に二人だけじゃない気がした。
「そんな、お礼を言うのは私達ですわ。もう月光の民の君には会えないかと思っておりましたもの。精霊と心を交わし、自然を愛し、強大な魔力を誇る月光の民の君、レティシア様に会えたことは私達にとって最高の喜びですわ。ずっと、月光の民に憧れておりましたもの。」
エリアの言葉を受け、リリとララが頷く。
「私達は、いつでもレティシア様の味方ですわ。」
長い、長い後宮生活は、自分には辛いものになると思っていた。
居もしない純血の月光の民を探し続け、ずっとこの後宮に居るのかと思っていた。
でも初めて、この三人と一緒なら耐えられると思った。
徐々にキャラの気持ちを出していけたらと思います。