第6話
またちょっとレティシア視点かも・・・。
ガルシア皇帝の後宮にてレティシアに与えられた部屋は、後宮の入り口に程近い身分の低い側室が住まう場所だった。といっても、居間と寝室、浴室や侍女部屋があって何不自由なく過ごせるし、何より広く豪華な部屋だった。
どうやらこの部屋には女官や侍女数人と住むらしい。「らしい」とはそう皇帝から説明されただけだからだ。どうやら皇帝陛下の側近である宰相様が連れてきてくれるらしい。何の後ろ盾もない私のために、陛下はエンフェライエル公爵という方に後見を頼んだそうだ。公爵様はとても頭の切れる方で、現役を退かれた今も王宮や政治に対する影響力は大きいとか。そんな公爵様の1人息子が宰相であるノアティード様らしい。しかも何と恐れ多いことに、女官と侍女は宰相様が手配してくださったとか。いくら多くの国民が月光の民を望んでいるといっても、納得していない者はいるらしい。その者たちを牽制する意味でも大事な事だと言っていた。
昼過ぎにガルシアに着き、後宮にあるこの部屋まで皇帝自らが案内してくれたのは良いが、いつの間にかソファーに座って寛いでいる。色々な説明をしてくれたのは嬉しいが、この部屋に来るまでにぞろぞろと引き連れていた近衛の騎士達は部屋の外で待機しているし、話が終わった今、部屋は沈黙が支配していた。
コンコン
そろそろ沈黙が限界を迎える頃、部屋の戸が鳴った。皇帝が入室を許すと1人の男性と3人の女性が入ってきた。4人は陛下が座るソファーの横に立った。
「紹介しよう。宰相のノアとお前の女官と侍女だ。」
陛下の紹介をかわぎりに自己紹介が始まった。
「初めてお目にかかります。宰相のノアティード・ド・アレヴァンティと申します。伯爵位を賜っております。こちらの者達はみな私の家のものです。月光の君の側には信頼できる者をと思い、選んだ者たちでございます。どうぞ使ってくださいませ。」
宰相様は女性3人を目で示しながらさらに紹介した。宰相様はブラウンの髪に緑の瞳と良く見かける色彩だったが、細い銀フレームの眼鏡をかけた理知的な方だった。
「初めまして月光の君様。私は本日より女官としてお仕えさせていただきます。エリア・ル・フラーレンと申します。」
「同じく、侍女としてお仕えさせていただきます。リリ・ラ・ベルと申します。」
「リリと双子のルル・ラ・ベルと申します。同じく侍女としてお仕えさせていただきます。」
エリアは群青色の髪と濃紺色の瞳の優しげな女性だった。女性としては身長は高めだが、そんなことが気にならないくらいの美人だ。リリとルルはまったく同じ顔で、薄い水色の髪と濃い紫の瞳の可愛らしい少女達だった。3人とも笑顔で私に笑いかけている。
それが、何故か分からなかった。
笑顔を向けられたことなんてほとんどなかったから。
だから怖い。
優しくしないで
優しくされたら、挫けてしまいそうになるから。
やっぱり短くなってしまった。