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月の娘、太陽の王妃  作者: 如月 四季
月光の民の娘
7/19

閑話

ガルシア皇帝視点でお送りします。



正直、期待はしていなかった。





月光の民を望む国民や魔術師は数多くいたが、魔法が得意な種族だけあって、結界でも張っているのかほとんど目撃情報はなく、魔法を使って探らせてもほとんど成果はなかった。だから小国の公爵の元に居るという噂を聞いた時も、ただの噂だと思ったのだ。





しかし噂の信憑性が上がり真実を確かめに小国へ赴くと、噂は真実だった。





しかも月光の民の娘はあと一週間で王宮に上がるという。公の地位を得てしまうと厄介だ。おいそれと側室に出来なくなってしまう。だがまだ間に合う。小国の王といえど、もともと気が弱い王を説き伏せるのは簡単だったし、すぐ娘を預かっているという公爵家へ行くことになった。公爵の娘であるパトリシアに会えるのがよほど嬉しいのか、やれパトリシアは美しいだのパトリシアは素晴らしいだの自慢話をされたが興味はなかった。俺が迎えに行くのはパトリシアではないし、美しかろうが美しくなかろうが娶ることはすでにガルシアでは決定事項だからだ。












公爵邸で初めて月光の民の娘を見たとき、目を見張った。本当に、黒髪黒目だった。





だが公爵令嬢とこの国の王の話を遮ったとき、月光の民の娘と目が合った、娘の方も目を見張ってこちらを見ていた。俺は自分の容姿がどういうものか良く分かっている。初めて会った者が大抵こういう反応をすることも分かっていた。


娘が固まっているのを見ながら、俺のほうは落ち着きを取り戻していた。改めて見てみると、娘の方もきれいな容姿をしていた。月光の民にだけ許された闇色の髪と瞳に先に目がいってしまうが、メイドの制服を着ていても溢れ出るその神秘的な美しさは、確かに人の目を引き付けるものだった。ただ、少し痩せすぎなのがさらに目を引いたのも事実だった。良く見るとサイズの合っていないメイドの制服から見える手は荒れているし、腕には痣も見える、黒い大きな目は隈で縁取られていて、顔色は白を通り越して青白い。いったいどんな扱いを受けていたのか、その姿を見ただけで分かるというものだ。



娘と同じく目を見張ったまま固まっていたパトリシアが、何を勘違いしたのかキンキン高い声で話しているのも相まってイラついてくる。月光の民の娘とこの国の契約については聞いていたが、衣食住を保障するという言葉は飾りかと詰め寄りたいのを我慢する。この娘が王宮に上がり、この国のために使うであろう魔法の対価になっているとはとても思えない。



だいたい、この手の女は嫌いだった。『甘やかされて育った礼儀と世間を知らないお嬢様』まさにそんな感じだ。自身の後宮の女も似たり寄ったりだったが、良くこの国の王はこんな女を・・・などと不敬なことを考えていたが、小国とはいえ相手は公爵令嬢だ、理性を総動員して挨拶をし、月光の民を迎えにきたことも改めて伝えた。









が、何ておめでたい頭なんだ。



人の話は聞いていないし、自分がガルシアの王妃になれると勘違いし一人で盛り上がっている。誰が王妃と言った!そもそも俺が迎えに来たのは貴様じゃない!その怒りは、自身の名前を呼ばれたとき、爆発した。自分では気が長い方だと思っていたが、そうでもないのかもしれない。






思えば、最後に自分の名前を呼んだのは誰だったのか。信頼できる側近や幼馴染も、即位し皇帝となった今では名前では呼ばない。大切な人にこそ呼んで欲しいのに、己の名前を呼ぶのはいつも厚かましい女や取り入ろうとする者たちだけだ。






だから俺は自分の名前を呼ばれるのが嫌いなんだ!






怒りのままに月光の民を攫うように公爵邸から連れ出した。娘は妹がどうとか言っていたがそちらはもう別に手配済みだ。だがそれを知らせる前に、契約を結ばなければならない。


ガルシアには、月光の民が必要なのだから。













結果から言えば、比較的スムーズに契約までこぎつけた。月光の民の娘には半ば脅しのようになってしまったが、決して悪い条件でないことは良く考えればすぐ分かる。

契約の要の妹も、もうじきガルシアの騎士たちが保護し、少し遅れるが帝国まで連れてくるだろう。その後は田舎の教会にでも移ってもらい、ひっそりと暮らしてもらうつもりだ。


すべてはこちらの思い通りに進んでいる。

あとは魔力うんぬん等の原因と純血の月光の民の娘さえ見つかればこの娘も開放してやれるし、月光の民の村を作ってやれば妹共々幸せに暮らせるだろう。


そう思っていた。








だが、娘の暗い瞳が気になった。契約の羊皮紙に署名をしながら瞳を合わせた時、ランプの明かりに煌めく瞳には、さまざまな感情が表れていた。

悲しみ、憎しみ、憂い、その他色々な暗い感情。





こんなに暗く、複雑な色の瞳を見たことはない。

皇帝として多くの者と係わっているうちに、瞳から感情を読むのが得意になっていたが、読みきれない感情だった。

ただ、『この娘は一人だ』と強く感じた。

幼い頃から紆余曲折はあったものの、幼馴染や側近といった周りの者に恵まれていた俺は、一人だと感じたことはほとんどない。

一人だと感じたことがほとんどないからなのか、そう感じたのだ。



そして瞳の一番奥には、絶望が見えた気がした。




だからいつの間にか口にしていた。






「お前は、私が守ると約束しよう」と。





今日から娘は、ガルシアの民になるのだ。

俺の民は、俺が守る。














そう、この時は本当にそう思っていたのだ。

だが今思えばこの頃から、この闇色の瞳に俺は深く囚われていた。


女として愛するようになるとは、思ってもみなかったのだ。

皇帝の一人称は俺でした!!

私にしようか迷ったけど紛らわしいかなと思いまして。そして私は男らしい男の人が好きなので!(って私の好みは関係ないんですけど・・・)



次は場面が飛んでガルシアの後宮に入ってからの話になると思います。


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