第4話
ガルシアの事情説明。何かうまく説明できていない気もするのですが・・・。それは作者の力不足です、はい(汗
精進します。
途中で休憩を挟みながら走り続け、今日の宿に着いたのは、あたりが薄闇に包まれてからだった。休憩と言っても、私を馬車から降ろすときは魔力を封じる魔法をかけられ、魔封具を着けた上でだった。まるで犯罪者だ。いくら魔封具の見た目がアクセサリーといえども、無理やり魔力を封じられるのはやはり気持ちが良いものではない。
宿に着いた時も、休憩時と同じように魔法をかけられ魔封具を着けられた。言われるままに夕食を食べ、湯浴みをし、そしてやっと、皇帝との話し合いの場が設けられたのだ。私はそれまで、一言も喋っていなかった。早朝からの出来事に怒りたいところだが、実際は疲れていたのだ。馬車の旅は肉体的にも疲れるものだし、自身に起こった出来事を思い出すだけで精神的にまいってくる。だが、とりあえずガルシアの目的を明らかにしなければ、と私は気持ちを切り替えた。
「まず確認したい。お前は月光の民で間違いないな。」
最初に話し始めたのはやはりガルシア皇帝だった。公爵邸ほど豪華ではないが、品が良い調度品からするに、この上級宿の部屋の中でも良い部屋なのだろう。その部屋のソファにテーブルを挟んで向かい合わせに座り、皇帝が言った。
それにしても、何を言い出すかと思えば今更な質問だった。私の黒髪黒目を見れば子供でも分かる。だから頷くことで答えた。
「ならばお前にやって欲しいことが三つある。もちろん、報酬は公爵と同じく妹の保護だ。」
どうやら残念な陛下は契約のことまでペラペラと喋ってしまったらしい。これでは私は心臓を掴まれたのと同じだ。言いなりになるしかない。断ったら妹がどうなるのか想像もつかない。むしろ契約が破棄になったも同然の今、妹はどこにいるのだろうか、無事なのか、そればかりが頭をまわる。だが話は始まったばかりだった、それもひとまず置いておかなければならない。
「一つ目は側室として後宮に上がること。」
「なぜですか?」
間髪いれずに聞き返した。長い間迫害してきた種族を後宮に入れるなど、ガルシアの民が受け入れるはずがない。だが、答えは意外なものだった。
「民が望んでいる。」
その答えにはさすがに目を見開く。
「お前は、最近強い魔力を持った魔術師が減っているのを知っているか?精霊の声を聞くどころか、存在を感じられる魔術師や人も減っている。だからなのか、月光の民の力を民は望んでいる。強い魔力、精霊を感じるどころか見ることが出来る力をな。」
「勝手な!あなたたちは、その力が怖くて追い出したくせに!」
「勝手なことは分かっている。だが、我がガルシア帝国は魔法大国だ。魔術の衰退は国力の低下を意味する。お前も知っているだろう?ガルシアがあるからこの大陸は平和を保っていられる。我が国が睨みを利かせていなければ、周辺諸国は100年前の大戦のように、すぐに戦を始めるだろう。そうすれば困るのはお前も同じのはずだ。戦が始まれば、お前たち月光の民は真っ先に兵器として利用されるぞ。」
「あなたの側室になったからといって、何も変わらない。」
「分かっている。民は月光の民の力を得たと安心はするだろうがそれだけだ。根本的な解決にはならない。だからお前には、なぜ強い魔力を持つものが減ったのか、精霊の声が聞こえないのは精霊が減ったからなのか、そういった原因を調べて欲しい。それが二つ目だ。」
側室になるのは表向きということだ。一時しのぎと言えど、確かに民は安心するのだろう。『自分たちは大丈夫だ』そう思いたいがゆえに。だが原因の究明は困難に思えた。だいたい、ハッキリとした原因があるなら、すぐに分かりそうなものだからだ。分からないということは、それだけ複雑な理由があるのだろう。私に出来るのか?そう思った。
「三つ目は・・・・純血の月光の民の娘を探すことだ。もし見つけたら、最初の二つは免除し、お前を自由にしてやる。月光の民が安心して暮らせる地を用意してやろう。」
息が止まるかと思った。「なぜ・・・」と呆然と呟かれた疑問に、皇帝は親切にも答えをくれた。
「純血の月光の民は月の色の髪と瞳。つまり銀色の髪と瞳だ。魔術に詳しい者には周知の事実。どうせ妻に迎えるならより強い魔力を持つ純血がいいと思っている。」
「・・・・・私に、仲間を売れと?」
まさか純血の月光の民のことがそんなに知られているとは知らなかった。
だがそんなことよりも、悲しみで胸が潰れそうだ。
「売れと言っている訳ではない。王妃として丁重に迎えることを誓う。純血の娘を一人王妃に迎えられれば他の月光の民は純血だろうと自由に暮らすことを許す。ただ、王妃として迎えた者には王妃としての勤めは果たしてもらうことになるがな。」
ガルシア皇帝の話は、確かに月光の民としては魅力的なのだろう。王妃を立派に勤め上げれば、それだけ月光の民への周辺諸国の対応も良くなるだろうし、何より月光の民として暮らせる地をもらえるのだ。王妃としての勤めには、もちろん強い魔力を継ぐ子を産むことも入っているだろうが、王妃として誰か一人を差し出すことができれば、妹と二人、穏やかに暮らすのも夢ではなかったのかもしれない。
だが、遅すぎたのだ。
すべては後の祭り。
今更土地をもらったところで、暮らす月光の民は自分と妹しかいない。
そう、もう二人しか残っていないのだ。
魔法や精霊を使って、何度も調べた。
何度やっても同じ、二人だけだった。たった二人。
もう、月光の民は自分と妹だけになってしまったのだ。
そして、月光の民として暮らす土地をもらうために必要な純血の娘は、
私しかいないのだ。
次は月光の民の事情を書こうかなと思っております。
そしてその次の回はガルシアに到着する予定(早