第13話
短いですがキリが良いのでここでいったん切ります。
契約を交わしたときも、妹を探すのを禁止したときも、表情を崩さなかった。
だから、納得しているものと思っていたのだ。
人前で無理やり精霊を呼び出して、妹を探して欲しいと懇願するほどだとは思っていなかった。
そういえば、妹が見つからないと聞いてからは食が細くなっていたな・・・と今更ながらにカイルは思い出していた。それもこれも自分の感情さえろくに分からなくなっているからだとは思うが、自分にもどうしようもないものはどうもしようがない。
あの時、風の精霊の王が現れたとき、自分も見惚れたのは確かだ。
精霊の姿を見れるものは少ないし、低級精霊ならいざしらず、上級精霊ともなれば見れるものはいない。それなのにレティシアはいとも簡単にやってのけた。
わざわざ自分達に見せ付けるようにして・・・・。
風の精霊の王が去った後、宴は当然ながらお開きとなった。
カイルを始め側室達も貴族も、あの場に居た者達はみな呆然とするしかなかったのも原因の一つと言えるだろう。
妹の場所や、精霊とのやり取りのこと、魔法のこと、レティシアに聞きたいことはたくさんある、だがその前に・・・・。
思考を止め顔を上げると、目の前には後宮の扉が見えた。
白く巨大な扉には様々な花が繊細に彫られ、一つの芸術品の様だった。後宮において唯一の扉であり出入り口である扉はすでに開け放たれており、カイルと新しく側室となったレティシアを向かいいれるために側室や後宮に勤める女官や侍女が整列していた。
後宮入りの儀式のために
『とっくに後宮で暮らしているというのに・・・』そうは思うもののこれも仕方のないことと諦める。
「これより後宮に新しい側室を迎える。」
その宣言と共に、一歩下がった場所にいたレティシアを振り返った。その瞳は宴での出来事を忘れたように凪いでいる。一瞬だけ視線を合わせたレティシアは、その場に膝をつき頭を垂れた。
「エンフェライエル公爵令嬢、レティシア・デ・エンフェライエル。」
レティシアが顔を上げ、また視線が重なる。吸い込まれそうな瞳が自分だけを見ている。
それだけのことに、何故か胸が締め付けられるように痛んだ。
「後宮に室を賜ることが出来るのは清き処女だけ。汝は自身の体の清きを誓えるか。」
「はい。」
「国のためを思い、国のために尽くすを誓えるか。」
「はい。」
「・・・・そして、私に尽くすを誓えるか。」
背後の側室や女官、侍女達のざわめきが聞こえた。本来後宮入りの際に誓うのは二つ。最後の誓いは誰にも問うたことはない。
『自分に尽くしてくれるか』と。
何故こんな問をしたのか自分でも分からない。だが口をついて出てしまったのだ。
しばしばレティシアと見詰め合う。
「はい、誓います。」
と、そうレティシアは返した。側室として尽くすのか、月光の民として尽くすのか、それとも彼女自身として尽くしてくれるのか、真意はその瞳からは読めないけれど・・・。
「ならば、今この時より汝はレティシア・リ・デ・エンフェライエルと名を改めよ。後宮に室を賜るを許す。」
「ありがとうございます。」
そう言ってレティシアは叩頭する。
側室を表す「リ」の名を与えたが、もちろん後宮入りの儀式はこれだけで終わりではない。
そう、いうなれば今日は式がないだけでカイルとレティシアの結婚式なのだ。
その夜なのだから、当然初夜が待っている。
見直しとかあんまりしなかったので書き直すかもしれませんが、あしからず。