第12話
カイルが出てこない・・・。
今回は風の君のターン!!だから!
銀色の髪を煌かせ、ゆったりと歩いてきた人物、いや、精霊は、レティシアを見つめて微笑んだ。
そして、レティシアもそれに答えるように微笑んだ。
「僕の月。久しぶりだね。何でずっと呼んでくれなかったの?」
『風の精霊の王』が言った。顔は笑顔だが声には少しの不満が滲んでいる。どうやら少し拗ねているようだ。
「ごめんなさいシエル。でも、王たるあなたをそんなに頻繁に呼ぶわけにもいかないわ。」
「つれないね。昔はいつも呼んでくれたのに。僕だけじゃなく、みんなそこだけは一致しているんだよ。幼い頃の君のほうが素直だったし、ずいぶん甘えてくれて、そこが可愛かったのに。」
その言葉を聞いて、今度はレティシアが眉を顰め拗ねた顔をした。
だが『風の精霊の王』シエルはレティシアとは逆にとても嬉しそうに笑った。
「もちろん、今も君は可愛いよ。僕の月。ところで、今日は何かあったのかな?他の人間が居る前で僕を呼ぶなんて。まあ誰が居ようと僕は気にしないけど。君は気にしていただろう?」
そう、人前でレティシアは精霊を呼んだことはほとんどなかった。今はレティシア自身の強大な魔力を放出しているため、レティシア以外にも精霊達が見えているが、もともと他の人間達に精霊は見えない。レティシアが一人で喋っているように見えるだけだ。月光の民ということを隠して町に住んでいたときも変な目で見られた。人々は精霊たちがいくら身近にいようと気付かない。「人に気付いてもらえない」それだけで、精霊たちは傷ついているというのに・・・。
レティシアにとって精霊は友達であり家族だ。だが多くの人は精霊の存在を近くに感じなくなり、居ないものだと信じ込み、精霊を信じる者を馬鹿にする者までいる。そんな者たちに親切に精霊達を会わせる訳がないし、精霊たちとの大切な時間を邪魔されたくない、そうレティシアは思っていた。だから精霊と人前で話したりなどしないし、呼んだりもしない。
「本当は、こんなところで呼ぶつもりじゃなかった。でも、隠れて呼んでもシエルの魔力は大きくて、この王城の結界を、誰にも気付かれずに通るなんて無理でしょう?私は陛下に妹を探すのを止められた。だから私は動けない。だから、シエルに頼みたいの。」
「誰にも気付かれずに通るのが無理だからって、こんなに大勢の前で紹介してくれるなんて・・・・。そんなに焦ってたの?周りを気にする余裕がないほど。」
そのシエルの言葉に、レティシアの顔が歪んだ。悲しみと苦しみを混ぜ合わせたような、今にも泣きそうな顔。その表情を見て、シエルは苦笑しながらレティシアを抱きしめた。
「君は周りを気にしすぎなんだよ。もっと皇帝や周りのものなんて気にしないで、思う通りにすればいいのに。でもそうだね、君が背負うものは大きすぎる。それを支えるのは僕たち精霊には難しいのかもしれない。でもね、僕の月。それでも僕たちは、少しでも君の役に立ちたいんだ。君のことが大好きだから。だから、『頼みたい』じゃなくて昔みたいに言ってごらん?」
「・・・・・」
「昔は、可愛くおねだりしてくれたじゃないか。」
それでもしばらく、レティシアは沈黙を貫いていた。本来なら、『風の精霊の王』たるシエルに何の見返りもなく『おねだり』なんて出来る立場ではないのかもしれない、でも、今は・・・。
「お願い、天つ空。私の光を探して。居場所を教えて。まだ近くにいるうちに。早く・・・早く会いたいの。」
レティシアの顔が泣きそうに歪む。それは、ずっと願っていたことだった。会わなくなって何十年と経つわけではない、でも、会いたい。
この広間に現れてから笑みを崩さなかったシエルが目を見開いて驚いた顔をした。
「そう、そんなに会いたかったんだね・・・・。それにしても、本当に君はおねだり上手だね。僕の真名を呼んでくれたのはいつ振りだろう?」
そう言ったシエルは、頬を紅潮させ、嬉しそうに笑った。一度レティシアを強く抱きしめてから体を離したシエルはレティシアを見つめる。
「本当はおねだりなんてしなくても願いは何だって叶えてあげるけど、やっぱりおねだりされたほうが良いよね。あとでみんなに自慢することにするよ。さて、じゃあ君の妹を探そうかな。きっと誰か他の精霊が隠してるんだと思うけど、僕たち風の精霊は騙せないからね。」
そう言ってシエルはおもむろに誰も居ない空間へと声を掛けた。
「聞いていただろう?僕の月のお願い事だよ。我が眷属の名に懸けて、月の妹君を探しておいで。」
その瞬間、暴風が吹いた。呆然としたままだった広間の者達は突然の暴風にドレスや髪を抑えたりと忙しい。目も開けられぬほどの暴風が吹いた後、広間の者達が目を開くと、そこに居たのはレティシア一人だった。何がなんだか分からぬまま、広間の者達は再び呆然とするしかなかった。
次回はカイル視点で書こうかと思います。
今回全然描写がなかったので・・・。