表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

月兎と蟹々の国

作者: 塵芥 庵
掲載日:2026/04/17

月にウサギはいなかった。

ただ、蟹がいた。


蟹たちは言葉が使えなかった。

コミュニケーションを取る為なのか、ハサミをカチカチ鳴らしていた。


最初は私たちも戸惑った。

コミュニケーションはできないし、なんたって蟹だ。

食べ物にしか見えない。

ただ、よく見てみると結構気持ちが悪い。

タカアシガニに近いのか、足がとにかく長い。


月には彼らの家や、謎の建造物があった。

意外と建物は大きくて、人も入れるぐらいだ。

そんな見た目は蟹の未知の宇宙人。

私たちは彼らと接触することにした。


最初の会合は上手くいかなかった。

こちらの船長が話しかけてみたが、

蟹たちはハサミを鳴らすばかりだ。

船員の1人は

「モールス信号じゃないか?」

なんて言ったが、見当違いだった。


結局その日は、リーダー格であろう大きな蟹が仲間を連れて帰ってしまった。


私たちは宇宙船の中で話し合った。

「言葉が通じないんですよ?」


「いや、こちらの言葉はわかっているかもしれない。」


「蟹ですよ?」


「じゃあ、地球の蟹として考えるか。」


私たちは蟹たちに餌をやる方向にシフトした。

「餌」というより、「貢ぎ物」と言うべきだろうが、この作戦は成功だった。


餌をやった日から、蟹たちは私たちに心を開いたのか、街を案内し始めた。

ただ、どれが何の建物かは全くわからない。

蟹たちは説明しないし、またハサミを鳴らしている。

街を歩く中で気になったのは、蟹たちの様子だ。

彼らは働いているように見えなかった。


私は船員と

「意外と楽園はこういうのかもね」

なんて笑いあっていた。




街を案内されていく内に、蟹たちは街の中で1番立派な建物に私たちを連れて行った。

建物の壁には絵が書いてあり、なんだか見覚えのある構図だった。

絵には蟹の進化や、文明の変遷が描かれていたが、なんだか絵本のようだった。

しかし、どうにも低い部分に描かれていて、

ひどく見づらいものだった。


結局、彼らは宇宙人なのか?

それとも地球の蟹が進化したのか?

私たちの疑問は解消されなかった。


建物の奥。

一際立派な扉があった。

蟹がハサミを数回鳴らすと、扉はゆっくりと開いた。

そして、奥には数十匹のウサギがいた。


ウサギたちは静かにこちらを見ていた。

そして、蟹はハサミを鳴らした。

すると、ウサギたちが一斉に動き始めた。

ウサギ同士が組体操のような動きをしたり、

宙返りのような技も披露した。


船員たちで、顔を見合わせている内に、

扉はゆっくりと閉まり始めた。


その後、私たちは一度自分たちの宇宙船に戻った。


あのウサギは何だったのか。

結局蟹たちは何がしたいのか。

扉の動力は?


色々話し合ってみたが、何もわからない。

言葉は違うし、彼らは餌を持っていくだけだ。

彼らが私たちに何か差し出すこともなかった。


私たちの宇宙船には機械の音だけが響いていた。


そんな中、1人の船員が口を開いた。

「あの建物…蟹には立派過ぎじゃないですか?」


船長は首を振った。

「仮にも宇宙人なんだ。

地球の蟹と一緒にしてはいけない。」


ただ、蟹の文明にしては不自然な点が多かった。


本当にあのハサミで建物が作れるのか。

それに蟹たちが働いている様子もない。


「なんか観光地みたいじゃないですか?」

1人の船員が言った。


「あるじゃないですか。観光で稼いでいる地域」


誰かが「確かに」と呟いたが、

観光地の蟹というのもよくわからなかった。

地球人以外のお客さんが来るのか?


結局、私たちは船を出した。

月には蟹がいた。

ウサギもいた。

それが今回の結果だ。

報告書にも、交流不可能と記載した。


船員の一人は「蟹語辞典でも作るか」と言ったが、誰も反応しなかった。

たぶん作らないだろうな。

というのをみんなわかっていた。


地球に帰った後、私は無性に蟹が食べたくなった。

月の蟹のことを思い出していたわけではない。

ただ、蟹が食べたかった。

どうやら他の船員も同じ気持ちのようで、

帰還祝いも兼ねて、高級料亭に行くことにした。


高級店となると、最初に食材を紹介してもらえるらしい。

まずは生きた状態の蟹を見せてもらった。


ザルの上の蟹は、

ハサミをパチンと鳴らした。

帰還を祝ってくれてるのかな?

まぁ、月の蟹とは関係ないけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ