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妹のともだち

武 頼庵(藤谷 K介)様が主催されている「すれ違い企画」の参加作品です。

 ほんの一瞬の出来事や、ふとした時に出た言葉。普通なら絶対に自分が言わないことを何故かその時には言ってしまっていたり。人間の感情、特に恋愛感情ってむずかしい。というかよくわからない。


 それは僕が24歳になったばかりの冬の出来事だった。


「今度、京都でライブやるんですけど…リョウくん、よかったら来てくれませんか?」


 僕がその時働いていた職場で、3歳上の男性だった。名前は今田くん。見た目はものすごく真面目そうな、音楽なんて決してやっていなさそうな先輩。歳上なのに、歳下の僕にも敬語だった。先輩は2人でHIPHOPをしていた。ユニット名は「スルメ」だ。


「あ、はい…その日はなんもないんで、行けそうやったらいきますよ。誰か呼んだほうがいいです?チケットノルマとか」


 その頃はもうバンドは解散していたが、何年か前に僕も社会人バンドを少しだけやっていて、ライブハウスで何組か出演するブッキング形式というライブによく参加していたのだ。スルメが単独ライブはしないだろうと思っての質問だった。


「あっ、もし友達も一緒に来てくれたら。そしたら凄く嬉しいわぁ〜!人数わからなかったら当日でも大丈夫やから、来る時にメールもらえますか?」


「はい、わかりました。ほな来週楽しみにしてます」


 そう言ったものの、僕は友達があまりいなかった。そういう時によく声をかけるのは…3つ下の妹だった。名前はマツリ。


『来週京都で友達がライブするんやけど、よかったら一緒に見に行かへん?友達もライブ好きそうな子おったら誘ってくれたらありがたい』


『えー…まぁ、わかったわ』


 なんか乗り気じゃないような返事だったけど、結局友達を2人連れて、一緒に行ってくれることになった。



◇ ◇ ◇



 ライブはそれなりに楽しかった。妹の友達の1人は途中で体調が悪くなってしまって帰ったが、妹とその友達と、あと今田くんと僕の4人で軽くご飯がてら打ち上げに行くことになった。今田くんの相方は明日仕事があるとかで、先に帰った。


 妹とその友達のカヨちゃんがカラオケに行きたいというので、ご飯もしっかり食べれて、お酒も少し飲めるカラオケBOXに入った。


「リョウくん、妹さんとか、お友達も一緒に来てくれてありがとうございます。嬉しかったです」


「ううん、全然ええですよ。凄く楽しかったし。ああいうHIPHOP縛りのブッキングもたまには楽しいですよね」


 で、途中で今田くんも明日仕事だからと帰り、次の日休みだった、僕と妹とカヨちゃんが残った。ご飯食べて少しお酒も入った勢いもあって、結局朝までカラオケBOXで過ごし、始発で帰ることになった。


 京都からの帰りの電車の中。カヨちゃんが妹にこそこそ話している。そして、妹が僕に言う。


「カヨちゃんがあんたの番号教えてほしいってさ」


 まぁまぁ妹は僕に偉そうだ。これは今に始まったことではない。


「あ、そうなん。まぁ別にええよ」


 妹と高校の時の同級生だったというカヨちゃんは今どきのような20代の女性の派手さはなく、むしろ大人しい感じの女の子だった。肩までの髪の長さで、前髪は作らず横にピシッと分けている感じ。きっちりしている子というイメージだった。


 僕は女の子に対して特に慣れていることはなく、かといって全く女の子知らずということもない、まぁ経験という意味では普通くらいだったんじゃないかな。カヨちゃんも僕に好意があるという素振りでもないし、僕からも妹の友達という感じで。特に進展はなく2週間ほどが過ぎた。


『ご飯、よかったら行きませんか?』


 ある日、カヨちゃんからメールが来た。


『うんうん、ええよ~』


 特にすることもなかったのでカヨちゃんと2人で仕事上がりに待ち合わせて、飲みにいくことになった。僕とカヨちゃんの住んでいるところのだいたい中間地点くらいの駅前で集合して、居酒屋に行くことになり、待ち合わせ場所で待っていると、カヨちゃんが来た。


「あっ、髪型少し変えたん?」


 カヨちゃんがいつもの横分けでなく、前髪を作って可愛らしくアレンジしていた。今まではおでこが出ていたので、すぐわかったのだ。


「あ、そうです。ど、どうですか?」


「うん、可愛いと思うで〜」


「ホント…ですか。よかった」


 なんか照れてるのか、カヨちゃんが顔を赤くしている。なんかそんな様子が可愛いなと思った。


 居酒屋は普通のチェーンの居酒屋に入った。2人ともそんなにたくさんは飲まないので、少し飲みながら適当にツマミを頼んだ。


「マチュのお兄さんは、歌上手いですよね」


「マチュってなんなん?妹?あとお兄さんてなんか呼び方くすぐったいやんね」


「えーと。でもお兄さんだし…あっ、カラオケは好きなんですか?」


「うんうん、カラオケというか歌うのは好きやで。カヨちゃんは音楽好き?」


 カヨちゃんはお酒に酔ってるのか、よくわからないけど早くも顔が少し赤くなっていた。


「はいっ、音楽は好きです!歌は下手くそなんですけどね…」


 居酒屋で少し飲んだあと、結局カラオケに行くことになった。明日は仕事だったから、1時間だけにした。割とカヨちゃんと好きな曲が似ていることに気づいた。そして、僕が歌うとカヨちゃんは凄く褒めてくれた。


「ありがとう、楽しかったやんね。また都合あったら行こうね」


「はいっ、またいきましょう!マチュのお兄さん…あ、えーと…リョウくん…」


「ん?どうしたん?」


「今日はありがとうございました。楽しかったです!」


 カヨちゃんは少しお酒に酔った顔で、それでも笑顔で言ってくれた。



◇ ◇ ◇



 ある日、いつもと同じように駅で待ち合わせてご飯に行くときだった。最近前髪を作ってたのに急いで走ってきたからか、前髪がいつもの横分けに戻っていた。で、着いてから自分で手鏡を見て気づいて、前髪を慌てて直していた。もしかしたら普段は前髪はいつものように横分けなのかもしれない。


 そういう髪のなおすのとかを目の前でしてるのを見るのは初めてだったので、なんか新鮮だった。


 その日は2人で相談して、中華料理のチェーン店に行った。ご飯はパッと食べて、そのあとのカラオケを長めにしようとしたためだ。


「中華屋さんていっぱいメニューあるからいっぱい食べたくなるやんね〜」


「あっ、私も思う!もしリョウくんが良かったら、いくつか頼んでシェアしませんか?」


「おっ、いいやん。そうしようそうしよう。僕は天津飯と麻婆豆腐とレバニラ炒めと餃子食べたい」


 カヨちゃんが吹き出した。


「リョウくん、それすでに頼み過ぎ〜!あ、でも私もそれ全部好きだから、それでいいかも。あ、デザートに杏仁豆腐アンニンドウフ頼みたい、リョウくんは杏仁豆腐好き?」


「杏仁豆腐あまり食べたことないけど美味しいんかな?せっかくやし頼んでみよ」


 料理は全部美味しかったし、杏仁豆腐はとろっとしていて、味の濃い中華料理のあとにはちょうど良いさっぱりした味だった。


 中華料理を食べてお腹いっぱいになったあとに、いつものカラオケに行く。何曲か歌ったあとにカヨちゃんがふと話してきた。


「リョウくんって、すごく優しいですよね。カッコいいし歌も上手いし、マチュが羨ましいです」


「え。特に優しくないし、カッコいいなんて言われたこともないで。よう言われるんはやる気あるんか、って職場で言われる」


「それはおっとりしてるから、そう見えるだけかもですよね〜。私、今まで付き合ってきた男の人が自分勝手で偉そうな人ばっかりだったんです」


 そうだったんだ。カヨちゃんはおとなしそうで、きっと男の人が偉そうで自分勝手でも押し切られるような感じだったのかもしれない。


「そうなんやね。カヨちゃんは可愛いからモテるやろ」


「えっ!全然全然!それに可愛くないよ〜」


 カヨちゃんが顔を赤くしている。そして、僕の方を見た。


「わ、私。マチュに誘われて一緒にライブに行った日から、リョウくんのこと気になってて。こんな人と付き合えたらなぁ、って…」


 その瞬間、どうしようもなくカヨちゃんのことが可愛く思えたんだ。考える間もなく、カヨちゃんの顔に自分の顔を近づけた。


「リョ、リョウくん…さ、さっき餃子食べてしもたし、んと…」


「2人とも食べたからええよ。こっち向いて」


 カヨちゃんの唇はとても柔らかかった。その感触が気持ちよくて、つい長くそのままにしていた。そのあとも何度かキスをした。


 少ししてから、まだ少し顔を赤くしたままのカヨちゃんが、カバンを開けて言う。


「あ、リョウくん、そういえば前に家族で旅行してて。お土産に携帯のストラップ買ってきたんよ」


 カヨちゃんが小さい紙袋を出して見せてくれた。


「旅行いいやん。あ…でも携帯電話にストラップ付けない派なんよ…ごめん」


 カヨちゃんの顔が一瞬曇る。


「あ、そっか、そうやんね…付けてないもんね元々。じゃあ、友達か誰かにあげよかな」


 その時カヨちゃんの手に、小さい紙袋がもう一つあった気がしたが、よく見えなかった。


 またご飯に行く約束をしたが、結局それからお互いに連絡も少しずつ取り合わなくなって。そのうち僕の職場が異動になって、忙しくなったこともあってカヨちゃんとは自然に連絡を取らなくなった。



◇ ◇ ◇



 ある日、妹と飲みに行くことになった時に、急に言ってきたことがあった。


「あっ!リョウそういえば、カヨちゃんいじめたやろ!女の子泣かすとかサイテーやで、ホンマ!」


 僕の妹は兄のことを呼び捨てにする。


「え、泣かせたって、そんな自然に連絡取らなくなっただけやけど…なんかあったん?」


「せっかく買ってきたお土産をいらんって言われて悲しんでたで。お揃いにしようとしてたみたいやのに…女心わからん男はモテへんで〜!まぁもうええけどな」


 あ。あのストラップはお揃いにしようと買ってきてくれたんだな。


 僕は携帯電話はホントに何も付けない派なのだ。でも、もしお揃いで付けたいと言ってくれてたら、そこは違ったかもしれない。それを妹に言ったところで仕方ないことかな。


 何気なく僕が発したひと言が、カヨちゃんにしたら、拒絶のような、もしかしたらそんな気分にさせてしまったのかもしれない。


 ふとした瞬間のひと言や、何気ない行動で、人の心が変わることもある。


 あの時もし、僕がストラップを受け取り、付けていたら。今頃どうなっていただろうか。妹も含めてご飯に行ったりしていたんだろうか。


 そんなことは、確かめようもない。それに、確かめる気もない。ただ、心の中でだけぽつりとつぶやく。



 ごめんね、カヨちゃん。




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― 新着の感想 ―
逆パターン。Σ(-∀-;) 斬新ですねっ。 ゜+(人・∀・*)+。♪
すごい爽やかなスパ〜クリングウォ〜タァアァ〜な気分でしたが、気がついたら超辛口ジンジャーエールゥゥに変わっていました。 描写がリアルでもしかして実体験!?なんて思ってしまいました(゜Д゜) 現実恋愛の…
 悲しいけれど、リョウ君とかよちゃんはどちらが悪い、ではなく、相性が微妙に悪かったのだろうな、と思いました。多分、かよちゃんは「察してくれる男性」が理想なのだと思います。髪型の変化に気付いてくれるリョ…
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