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第71話 パーティ名と、王都行きの切符




「先生役として一緒に行ってあげようか?」


 リゼのその一言で、俺とユイとクレハは同時に固まった。


「リゼさんが……いえ、リゼが一緒に?」


「うん。どうせ王都に行くなら、ついでに“教えながら”のほうが楽しいでしょ?」


 銀色の髪を揺らしながら、リゼはさらっと言う。


「もちろん、決めるのはあなたたちだけどね。

 行くかどうか。――で、どうする?」


「……行きたいです」


 気づいたら、口が先に動いていた。


「危険はあると思うけど、それでも“見てみたい”です。

 王都のことも、自分たちの実力がどこまで通用するかも」


「私も」


 ユイが続ける。


「せっかくの機会ですし、“ここで怖じ気づいてたら、いつまで経ってもラグナスの中だけ”かなって」


「クレハも、行きたい」


 クレハは短く言う。


「ニナの荷物、守る。

 秋人とユイが行くなら、一緒に行く」


「ふふ、いい返事」


 リゼが、どこか嬉しそうに目を細める。


「じゃあ、あとはギルドとニナとで細かいところ詰めましょうか。

 ――会議室、空いてる?」


 入口の方を振り向くと、ミリアさんが「はいはい」と手を挙げた。


「今ならボルグさんもいるし、ちょうどいいわね。

 全員まとめて話し合いしましょう、王都行き大作戦会議」


◇ ◇ ◇


 ギルド奥の小さな会議室。


 簡素な木の机を挟んで、座っているのは――


 ギルドマスターのボルグ、受付のミリアさん、商人のニナ。

 それから、Sランク魔法剣士リゼ、そして俺たち三人。


 こうして並ぶと、急に場違いな気がしてくるから不思議だ。


「じゃ、状況を整理しようか」


 ボルグさんが、机の上の地図を指でなぞる。


「ニナのキャラバンが、王都ラグナシアまで荷を運ぶ。

 通常の護衛に加えて、ラグナス支部として、秋人たち三人を正式に“同行護衛”として出す。

 それで合ってるな?」


「はい」


 ニナが真剣な顔で頷く。


「通常なら、砦経由で他の護衛も雇うけど……

 今回は“特に大切な荷物”があるから、ラグナス支部としても信頼できる人にお願いしたくて」


「その点は、俺たちも同意見だ」


 ボルグさんが腕を組む。


「お前たちはミルダの件でも十分に働いてくれた。

 長距離護衛の経験を積ませる意味でも、適任だと思う」


「ありがとうございます」


 頭を下げると、ボルグさんは「ただし」と言葉を続けた。


「王都までの道は、ラグナス周辺の依頼より一段階危険だ。

 盗賊もいれば、大型の魔物も出る。

 それに――“人間同士の揉め事”も多い」


「……人間同士、ですか」


「商売と金と、見栄と欲。

 そういうものがごちゃ混ぜになってる場所だってことさ」


 ボルグさんは少しだけ苦い顔をした。


「だからこそ――」


「だからこそ、私が一緒に行くってわけ」


 リゼが、さらっと横から入る。


「王都までは、私も用事があるからね。

 ちょうどいいから、“先生として同伴”って扱いにしましょ。

 そっちのほうが、ギルドも安心でしょ?」


「まったく、勝手に話を進めてくれる」


 ボルグさんは肩をすくめた。


 だが、その顔は止める気はなさそうだ。


「Sランクのリゼが一緒に行くなら、この上ない護衛だ。

 ……ただ、その分、お前たち三人にも求めるものは大きくなるぞ」


「覚悟は、しておきます」


「うむ」


 ボルグさんは満足そうに頷き――ふと、表情を少し砕いた。


「それから、もう一つ。

 王都行きの前に、決めておかなきゃならんことがある」


「決めておくこと?」


「お前たち三人組の――パーティ名だ」


「パーティ名?」


 思わず聞き返す。


 ミリアさんが、くすっと笑って補足した。


「王都のギルド本部に正式に登録されるときにね、

 “個人”だけじゃなくて“パーティ単位”で扱われることが多いのよ。

 王都側の書類にも載るし、商会の推薦状にも名前を書くでしょ?」


「“ラグナスの無名三人組です”じゃ、ちょっと締まらないからねぇ」


 ニナが冗談めかして言う。


「今までみたいに“秋人たち三人”って呼び方でもいいんだけど、

 どうせなら、ちゃんと名前付けたほうがかっこいいじゃん?」


「かっこいい……」


 と、言われると、ちょっと弱い。


「もちろん、パーティ名なんてなくても依頼はこなせる。

 だが、これから先も一緒にやってくつもりなら、

 “外に出したときに通りがいい名前”はあった方が楽だ」


 ボルグさんが説明してくれる。


「王都の連中は、お前たちの名前や顔なんて知らん。

 だが、“どこの誰が護衛についていたか”は、覗き込むように見てくるものだ」


 リゼが、少しだけ懐かしそうな顔で頷く。


「若い頃はね、“名前だけ先に有名になったパーティ”もたくさん見たわ。

 中身が追いつかないと痛い目見るけど、

 “名と実力が揃ってるパーティ”は、やっぱり覚えられやすいのよね」


「……なるほど」


 名前。

 それは、責任と誇りに直結する。


 俺は隣の二人を見る。


「ユイ、クレハ。どう思う?」


「賛成。

 どうせなら、“わたしたちらしい名前”がいいな」


 ユイは少し考える顔をしたあと、言葉を続ける。


「“守る”とか、“線”とか、“境界”とか……

 私たち、そういうところに関わってきた気がするし」


「ミルダの線の話とか?」


「うん。ミルダの線もそうだし、

 “ラグナスと森の境界線”とか、“村とオークの間の線”とか」


「クレハは?」


「秋人とユイが決めるなら、それがいい」


 クレハはいつも通りそっけない……ようで、

 でもその目は、ちゃんとこっちを見ている。


「でも、“守る”って入るの、クレハも好き。

 “守りたい場所”、増えたから」


「……」


 胸の奥が、じんわりと熱くなった。


(守りたい場所、か)


 ラグナスも。

 ミルダも。

 これから行く王都だって、関わった以上はきっと“守りたい場所”になる。


「じゃあ、“守り”と“線”のイメージを入れたい、ってところまでは決まりだな」


 ミリアさんが面白そうに身を乗り出す。


「さ、秋人くん。パーティリーダーとして、一発かっこいい名前出してみなさいよ」


「え、俺が?」


「リーダー?」


「ちょっと待ってください、いつ俺がリーダーに」


「書類上は、もうずっと秋人リーダーで処理してるわよ?」


 ミリアさんが事もなげに言った。


「依頼報告のときも“代表”でしょ。

 “見た目ヤンチャで頭脳枠の男子一人+女子二人”パーティは、

 だいたい男子が書類リーダーになる運命なの」


「そんな雑な統計で決まってたのか……」


 ため息をつきつつ、俺は頭をひねる。


(守る。線。境界。

 フロンティアとか、ラインとか、そういう言葉が浮かぶけど……)


 この世界の言葉で、そのニュアンスをどう表現するか。


「……“フロンティア・ライン”なんて、どうですかね」


 ぽつりと、口から出た。


「辺境の線。

 ラグナスみたいな街や、ミルダみたいな村の“境界線”を守る、ってイメージで」


「フロンティア・ライン……」


 ユイが小さく復唱する。


「いいと思う。

 “前線”って意味もあるし、“新しい場所”って感じも入ってる」


「響き、好き」


 クレハも頷いた。


「“秋人たちの線”、って感じする」


「お前たちがそれでいいなら、俺からも特に異論はない」


 ボルグさんが笑う。


「辺境支部のパーティ名としては、悪くないどころか上等だ。

 “フロンティア・ライン”――

 ラグナス支部所属Cランク三名、と」


 ミリアさんが、書類にさらさらと書き込んでいく。


「これで王都ギルド本部にも、“ラグナス支部パーティ《フロンティア・ライン》”として名が通るわよ」


「なんか……一気に現実味が出てきましたね」


「名乗るたびに恥ずかしくないように、頑張るしかないわね」


 ユイがくすっと笑う。


「フロンティア・ライン、か」


 リゼが、どこか遠いものを見るような目で呟いた。


「いい名前ね。

 辺境で踏ん張ってる連中は、たいていこういう“線”の上で戦ってる」


「ありがとうございます」


「じゃあ決まり。

 王都行き護衛依頼――ラグナス支部パーティ《フロンティア・ライン》が受諾したってことで」


 ミリアさんが、ぱん、と手を叩く。


「詳細なルートと日程は、明日以降詰めるとして。

 今日はひとまず、“名前決まった記念日”ね」


「記念日って」


「大事よ? あなたたちのパーティが、“パーティとして歩き出した日”なんだから」


 言われてみれば、確かにそうだ。


 今までは、“たまたま一緒にいる三人”だった。

 でもこれからは、“名前を持った一つのパーティ”になる。


「……頑張らないとな」


 小さく呟くと、両側から声が返ってきた。


「うん、頑張ろうね、リーダー」


「リーダー、よろしく」


「……いつの間にそんながっつりリーダー扱いに」


「書類上はずっとって言ったでしょ?」


 ミリアさんのツッコミに、会議室が笑いに包まれた。


◇ ◇ ◇


 会議が終わり、俺たちが部屋を出たあと。


 会議室には、ボルグさんとリゼ、ニナだけが残った。


「――で、“特に大切な荷物”ってやつの話、してもらおうか」


 ボルグさんが、真剣な声で切り出す。


「わたしの口から言っていいの?」


 ニナが少しだけ表情を引き締める。


「もうリゼさんには伝えてあるけど……」


「ここにいるのは、ギルドマスターとSランクだけだ。

 隠す理由はないさ」


 ボルグさんが頷くと、ニナは小さく息を吐いた。


「――オークキングの、魔石。

 今回、王都のオークションに出すことになったの」


 その言葉に、薄暗い部屋の空気が少しだけ変わった。


「……やはり、か」


 ボルグさんが低く呟く。


「それなら狙う連中も出てくるな。

 盗賊ギルドあたりが動かない方がおかしい」


「だからこそ、秋人たちを“ただの護衛”で終わらせたくなくてね」


 リゼが腕を組む。


「実戦の場としては危険だけど、

 “ちゃんと大人が後ろにいる状態での大きな依頼”って意味では、悪くない」


「……その“大人”の一人としては、胃が痛い話だがな」


 ボルグさんが頭をかく。


「こっちからも、一枚噛ませてもらう。

 ――ドルガンに、影の護衛を頼むさ」


「もう話は通してあるわ」


 リゼが、さらっと言う。


「“あいつらには内緒でついてきて”って言ったら、

 珍しく渋い顔しながらも了承してくれた」


「過保護が過ぎるな」


「どの口が言うのかしら?」


 二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


「ま、いいさ」


 ボルグさんが、机の上の書類を指で軽く叩く。


「フロンティア・ライン。

 辺境の線を守る連中が、初めて王都の“線”に触れる仕事だ。

 ――せいぜい、でっかい経験を持ち帰ってきてもらおう」


 その言葉は、静かな会議室に、確かな重みを持って響いた。


つづく。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


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