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第64話 オークキングと、届かない背中



 オークキング討伐作戦の日は、やけに空が澄んでいた。


 砦の中庭には、鎧の音と怒鳴り声と、緊張を誤魔化す笑い声が渦巻いている。

 騎士団、上位冒険者たち、そして──リゼさんやドルガンさんのような“別格”まで揃っていた。


「……マジでお祭り状態だな」


 砦の壁の上から見下ろしながら、俺は思わずぼそっと呟く。


「お祭りっていうか、“討ち入り前の本隊”って感じだけどね」


 隣でユイが苦笑した。


 クレハは壁にもたれながら、いつも通りの無表情で、でも瞳だけはじっと下を見ている。


◇ ◇ ◇


「秋人たちの配置は──ここだ」


 作戦会議で、ボルグさんが地図を指しながら言った。


 ラグナスの森。

 その奥に赤い大きな丸。「オーク村」の印。

 そこから四方に伸びる線のうちの一本の先、小さな丘に丸印が付いている。


「本隊は、正面からオーク村に突っ込む。

 リゼ、ドルガン、騎士団主力……上位ランクはそっちだ」


「俺たちは……」


「“逃げオーク”の迎撃と、周辺の村や道の警戒だ」


 ボルグさんの指が、小さな丘の印をこんこん、と叩く。


「ここは、オーク村と砦とミルダの“中間点”だ。

 森を抜けたオークが、勢いのまま街道に出てこようとしたとき、

 真っ先にぶつかる位置になる」


「……要するに、“こぼれ球拾い”ですね」


「悪く言えばな」


 ボルグさんがニヤリと笑う。


「よく言えば、“本隊の背中を守る場所”だ」


 その言い方が、妙に腹に落ちた。


「“オークキングと殴り合う”のは、お前たちの仕事じゃない。

 だが、“オークキングから逃げた連中を通さない”のは、お前たちの仕事だ」


「はい」


 俺は、素直に頷いた。


(……正面は、まだ無理だ)


 でも、その“外側”なら、きっと出来る。

 そういう実感が、ミルダの一件で少しだけ増えていた。


◇ ◇ ◇


 そして今、俺たちは──その丘の上にいる。


 砦から少し離れた小高い丘。

 木と岩に隠れながら、森の奥を見下ろせる位置だ。


 俺とユイとクレハ。

 それから、砦側から数人の騎士と、補助に中堅冒険者が数名。


「ここからだと、オーク村の方角、よく見えるね」


 ユイが遠眼鏡を覗き込む。


 森の向こう。

 木々の隙間から、薄く立ち上る煙が見えた。


「……あそこが、“巣”」


 クレハが、空気の匂いを嗅ぐように、鼻をひくつかせる。


「血と煙と、獣の匂い。

 昨日のより濃い」


「昨日のオーク村観光は、まだ“入口”だけだったからな……」


 俺は剣の柄に手をかけながら、喉が乾くのを自覚した。


 丘の少し下では、騎士たちが小さな陣を組んでいる。

 「逃げオークが来たとき、ここで迎撃する」という形だ。


「……始まるぞ」


 騎士の一人が、森の方を見つめながらぽつりと言った。


◇ ◇ ◇


 最初に聞こえたのは、遠くで鳴る角笛の音だった。


 低く、長い音。

 それに続いて、いくつもの金属音と咆哮が、森の奥から響いてくる。


「うわ、もう“戦ってます”って音だね」


「“始めますよー”の合図が角笛で、“始まりましたー”が今の音な」


 冗談っぽく言ってみたけど、喉は少し震えていた。


 しばらくすると、森のあたりの空気そのものがざわめき始める。


 鳥が一斉に飛び立ち、

 小さな獣が森の反対側へ逃げていく。


「魔力、揺れてる」


 クレハが、珍しく自分から口を開いた。


「たぶん」


「分かるの?」


「“魔力の気配”、がドルガン達とちょっと似てる」


 それは、実力者達がもつ魔力や気配なのかと思う。


「ユイ、遠眼鏡貸して」


「どうぞ」


 ユイから遠眼鏡を受け取り、森の奥を凝視する。


 ──見えた。


 木々の間に、ありえないほど太い影が動くのが、ちらちらと映る。


(……デカッ)


 普通のオークの倍はある。

 粗末な鉄の鎧を体中に巻きつけ、

 手には丸太みたいな棍棒。


 それが“わらわら”じゃなくて“どっしんどっしん”と動いているのが、

 遠目からでも分かる。


「あれが、オークキング……」


 思わず、声に出していた。


「でかいね」


 ユイが、遠眼鏡なしで目を細める。


「村、一撃で踏み潰せそう」


「現に、そういうこと出来るやつだ」


 背後から、聞き慣れた声がした。


「リゼさん……!」


 振り返ると、壁にもたれていたエルフの女剣士──リゼが、軽く手を上げた。


「見物席はどうかしら?」


「いや、見物というか……」


「ちゃんと仕事もあるのは分かってるわよ」


 リゼは、森の奥をちらりと見てから、にやりと笑った。


「“今から行くから、目を離さないでね”って意味で、挨拶に来たの」


「挨拶が軽い……」


「こういうのは軽いくらいがいいのよ。

 重い顔で行ったら、帰ってくるの面倒くさくなるもの」


 そう言って、肩の上で軽くストレッチをする。


「秋人」


「はい」


「“自分たちが行く場所”と、“まだ行けない場所”って、ちゃんと区別出来てる?」


 不意に、核心を突くようなことを聞かれて、言葉に詰まる。


 けど、すぐに答えは出た。


「……はい。“まだ行けない場所”です、オーク村は」


「いい返事ね」


 リゼは満足そうに微笑んだ。


「でも、“一生行けない場所”だとは思わないこと」


「……!」


「“今はまだ、絶対無理”。

 でも、“いつかは分からないけど、いずれ届くかもしれない”」


 リゼは、森の奥に目をやる。


「あたしがSランクになったときも、

 昔眺めてた強い人たちの背中って、そんな感じだったわ」


「リゼさんにも、そういう人いたんですね」


「そりゃいるわよ。

 自分だけが特別なはずないでしょ?」


 そう言って、くすっと笑う。


「じゃ、行ってくるわね。

 “逃げてきた子分たち”は、任せたわよ」


「はい!」


 今度は迷わず、しっかり頷いた。


 リゼは、ひらひらと手を振って丘を降りていく。

 その背中が、森の影に溶ける直前──


「秋人」


 振り返りもせず、声だけ置いていった。


「ちゃんと見ておきなさい。

 “今のあたしたちの戦い”も、“今のあなたたちの戦い”も」


「…………はい」


◇ ◇ ◇


 しばらくして。


 森の奥のざわめきが、ひとつの咆哮に変わった。


「グオオオオォォォォ──!!」


 耳がおかしくなるような声。

 それだけで、丘の上の空気が震えた。


「……っ!」


 思わず耳を押さえかけたところに、

 淡い光がふわりと包む。


「《サウンド・シェルター》」


 ユイが、あらかじめ準備していた小さな防音結界を展開してくれていた。


「これで“鼓膜破壊”は防げるはず」


「助かる」


 それでも、胸の奥が震えるような咆哮だ。


(Aランク魔獣……)


 普通のオークとは、明らかに違う。


 遠目でも分かるほど、周囲のオークが一瞬“強化された”のが見えた。

 色が濃くなったようにすら見える。


「キングの咆哮で、群れが一時的に強くなるタイプだね」


 ユイが、エルナから聞いた知識を思い出しながら言う。


「群れの士気と魔力を底上げする……

 厄介なボスだ」


 森の中で、一瞬だけ“こちらにも分かるレベル”の光が弾けた。


「来た」


 クレハが、ぽつりと呟く。


 オークキングに向かって、

 光の線が、いくつも走っていった。


 斬撃の軌跡。

 魔法の光。


 それが交錯し、

 木々がまとめて薙ぎ払われていく。


「……何あれ」


 思わず、素直な感想が漏れた。


「“あれがSランク+Aランク+騎士団主力の本気の一部”だよ」


 ユイも、遠眼鏡を覗きながら呟く。


 オークキングの振り下ろした棍棒が、地面を叩き割る。

 土と岩が弾け飛び、近くの木が根こそぎ持ち上がる。


 その一撃を、

 ボルグさんらしき影が真正面から受け止めていた。


「……え?」


 遠目すぎて細かくは見えないけれど、

 明らかに“人間サイズの何か”が、オークキングの棍棒を止めている。


「あれ、ボルグさん……ですよね?」


「だろうね」


 ユイが苦笑気味に言う。


「『若い者の前で格好つけたい』って言ってたし」


「聞きたくなかった情報が増えた」


 ボルグさんがオークキングの注意を引き付け、

 その側面にリゼの光の斬撃が走る。


 鎧の一部が、ばらばらと剥がれ落ちた。


 その合間を縫うように、

 ドルガンさんらしき黒い影が足元に張り付き、

 膝裏や腱を削っている。


(……速い)


 遠目でも、動きが追えない。

 「そこにいたはずなのに、もう別の場所にいる」みたいな動きだ。


「クレハ」


「なに」


 クレハは、黙ってその戦いを見ていた。


「“忍びの完成形”ってああいうやつ?」


「分からない」


 クレハは首を小さく振った。


「でも、“あれが今のドルガン”なら──

 今の私は、“ほんの入口”」


「……だよなぁ」


 俺も、オークキングの棍棒をいなすボルグさんと、

 その隙間を縫うリゼの魔法剣を見ながら、

 同じことを思っていた。


(あれと殴り合える自分を、

 今すぐには全く想像出来ない)


 でも。


(絶対無理だ、とも言い切れない)


 タツミの工房で、

 少しずつ刀の扱い方が分かってきたときみたいに。


 ミルダで、“守る準備”がちゃんと形になったときみたいに。


 いつか、何段階も何段階も積み重ねていけば、

 あの戦場の端っこくらいには立てるかもしれない。


「……って、感傷に浸ってる場合じゃないな」


 森の少し手前。

 別の方向へ“灰緑の点々”が走り出すのが見えた。


「逃げオーク?」


「うん。

 たぶん、キングの側にいられなかった弱い個体たち」


 ユイが、遠眼鏡を俺に渡す。


 森の奥から、戦場を迂回するように、

 数十体のオークが広がって走ってきているのが見えた。


「数は?」


「ざっと……二十?」


「丘のこっち側に流れてくるのは、そのうち何体かだな」


 騎士が、冷静に計算するように言う。


「だが、“何体か”でも通せば、その先に街道がある」


「つまり……」


「“こっちの戦場”、開幕」


 俺は、刀の柄に手をかけた。


◇ ◇ ◇


 逃げオークの一部が、丘の下の開けた場所へ流れてきた。


 数は八。

 武器を捨てて逃げ出すわけでもなく、

 「こっちは空いてる」とでも言わんばかりに走ってくる。


「ここ、通さない」


 クレハが、丘の斜面を見下ろしながら呟いた。


「罠、使える?」


「使える。

 “追ってくる型”じゃなくて、“逃げてくる型”の罠、試す」


「よろしく」


 ユイは後ろで支援の構え。


 騎士たちも、槍と盾を構えて前に出る。


「準Cランクの三人、および砦騎士隊、迎撃配置につけ!」


 誰かが号令をかけた。


(オークキングと殴り合うのは、あっちの人たちの仕事)


 俺は、遠くの光と影を一瞬だけ見てから、

 目の前の斜面に視線を戻した。


(俺たちの仕事は、“その外側を漏らさないこと”)


「ユイ!」


「《フィールド・プロテクション》!」


 淡い光の膜が、俺たちと騎士の前に広がる。

 遠目の大技は防げないが、突進の衝撃をある程度受け止めてくれる簡易結界だ。


「クレハ!」


「《影結び》」


 斜面を駆け上がってくるオークたちの足元に、

 いくつもの小さな影が貼り付く。


 それは完全に止める罠じゃない。

 “ほんの一瞬だけ、足を重くする”だけのもの。


 でも、斜面で走るときの“一瞬の重さ”は──


「グルッ!?」


 一体、二体と、足を取られて体勢を崩す。


 そこで待っていたのは、槍を構えた騎士たちだ。


「刺突!」


 何本もの槍が、一斉に突き出される。


 体勢を崩したまま突っ込んできたオークの腹や肩を、

 槍の穂先が貫いた。


「秋人!」


「分かってる!」


 俺は、槍の間をすり抜けるように前へ出た。


 斜面を登り切ろうとしている別のオークの足を狙い、

 一閃。


 膝と太腿をまとめて斬りつけ、

 体勢を無理やり崩す。


「グアァ!」


 倒れ込んだところに、騎士の槍と、

 ユイの《ホーリー・ショット》が突き刺さった。


 光の矢が、オークの目を焼く。


「今度こそ前だけ見てればいいから、

 後ろは見なくていいよ!」


 ユイの声が、騎士たちの緊張を少し和らげる。


「“前に来たやつ”を順番に倒す、それだけ!」


「心強いことを言う!」


 騎士の一人が笑い、

 槍を構え直した。


◇ ◇ ◇


 八体のオークを倒しきるのに、

 それほど時間はかからなかった。


 斜面という地形、クレハの罠、ユイの支援、騎士たちの槍。

 全部がうまく噛み合った結果だ。


「ふぅ……」


 息を吐きながら、俺は刀を軽く払った。


 血が飛び散る。

 もう、こういう光景にいちいち手が震えることはなくなっていた。


(慣れたって言うと、あんまりいい言い方じゃないけど……)


 でも、“やるべきこと”として受け止められるようにはなったと思う。


「後続は?」


 丘の上に戻りながら、クレハが森の方をじっと見つめる。


「今のところ、こっちへ向かってくる気配は薄い」


「なら、第一波はこれで終わりか」


 ユイが、胸に手を当てて息を整えた。


「こっちはこっちで、ちゃんと“戦場”だったね」


「そうだな」


 俺も、森の奥を見やる。


 オークキングの咆哮は、さっきより少し弱くなっている気がした。

 代わりに、リゼたちの魔力の光が、前より激しくなっている。


「……あっちは、今が本番か」


「こっちは、“一回目のテスト”は合格って感じかな」


 ユイが、少しだけ微笑む。


「魔物の数は向こうの方が桁違いに多いけど、

 “自分たちの持ち場を守る”って意味では、

 きっと同じことをやってるんだよね」


「うん」


 クレハが頷いた。


「リゼたち、“キングの足を止める役”。

 ボルグたち、“正面から殴り合う役”。

 ドルガン、“足元を削る役”」


 そして、と小さく続ける。


「秋人たち、“外側を漏らさない役”」


「……そうだな」


 それを口にされると、妙に背筋が伸びた。


◇ ◇ ◇


 どれくらい時間が経っただろう。


 咆哮と金属音が、少しずつ少しずつ減っていく。


 最後に、ひときわ大きな光の柱が、

 森の奥で弾けた。


 それから。


 空気が、すうっと軽くなる。


「……終わった?」


 ユイが、遠眼鏡を覗く。


 森の奥。

 オークキングの巨体だった影が、

 ゆっくり、ゆっくりと崩れ落ちていくのが見えた。


 その周りを囲んでいた光と影が、

 ひとつ、またひとつと消えていく。


「……倒したみたい」


 ユイの声は、小さいけれど、はっきりしていた。


「オークの巣、本隊はほとんど壊滅。

 後は、逃げ残りと巣穴の確認ってところかな」


「こっちに来る分は……」


「さっきの八体で、“第一波”は終わり。

 この感じだと、“第二波”もそこまで大きくならないと思う」


 クレハが、森の匂いを嗅ぐように深呼吸する。


「血と煙の匂い、少しずつ薄くなってる」


「……そっか」


 俺は、遠くの戦場に一礼した。


「お疲れさまでした、って感じだな」


「そうだね」


 ユイも、同じように頭を下げる。


「“オーク村を潰す役目”、しっかり果たしてくれたんだもんね」


「じゃあ、こっちは“最後まで漏らさない役目”、もう少し続ける」


 クレハの言葉に、自然と笑みが浮かんだ。


◇ ◇ ◇


 夕暮れ。


 森から、いくつかの影が丘のほうへ歩いてきた。


 ボロボロの鎧。

 血と土で汚れたマント。


 でも、その中に立つ姿勢だけは、まるで崩れていない。


「リゼさん!」


「ただいま」


 リゼは、片手を軽く上げて笑った。


「オークキングは?」


「ちゃんと首を落としてきたわ。

 “これでもう、あの村は立ち上がれない”ってところまでね」


「すご……」


 思わず本音が漏れる。


「そっちは?」


「逃げオーク八体、通さず撃退しました」


 ユイが、胸を張って報告した。


「村の避難も、全員無事に完了済みです」


「上出来ね」


 リゼは、素直にそう言ってくれた。


「“自分たちの持ち場を守り切る”ってのは、それだけで一つの仕事よ」


「……はい」


 嬉しくて、少し照れくさかった。


「秋人」


 リゼが、ふいに真顔になる。


「見えたでしょ。

 “今のあたしたちの戦い”」


「はい」


「どう思った?」


「……とんでもなかったです」


 正直に言う。


「でも、“絶対無理”とは、不思議とあまり思いませんでした」


 自分でも意外だった。


「今は全然届かないけど、

 何年か、何十年かかかってもいいから──

 いつかあの場に立ってみたい、って思いました」


 それが、今の偽らざる本音だった。


「いい顔ね」


 リゼは、にやりと笑った。


「じゃあ、あとは頑張りなさい。

 あたしの弟子志望なら、それくらいは目指してもらわないと困るもの」


「えっ、弟子志望っていつの間に確定したんですか」


「もう確定してるわよ?」


「話が早い!」


 思わずツッコんでしまった。


 ユイとクレハが、横でくすくす笑っている。


「ユイ」


「はい」


「支援と回復、今日よく回してたわね。

 “逃げる側を死なせない”って仕事、見事だったわ」


「……ありがとうございます」


 ユイが、頬を赤くしながら頭を下げる。


「クレハ」


「なに」


「罠と影の使い方、“逃がす罠”になってきたじゃない」


 リゼは、少しだけ目を細めた。


「ドルガンも、きっと同じこと言うわ。

 “殺す罠ばっかりじゃなくて、逃がす罠を覚えたのは大きい”ってね」


「……うん」


 クレハは、ほんのちょっとだけ口元を緩めた。


◇ ◇ ◇


 その夜。


 砦の中庭では、ささやかな「戦勝会」が開かれた。

 豪華ではないけれど、温かいスープと、少し多めの肉とパン。


 みんな疲れていたから、大騒ぎというより、

 しみじみと笑い合うような空気だった。


「これでひとまず、ミルダもラグナスも“オークの恐怖”からは解放されたわけだ」


 ボルグさんが、でかいジョッキを掲げる。


「森の掃除はしばらく続くが、

 少なくとも“あの村の王”は消えた」


「よかった……」


 ユイが胸を撫で下ろす。


「秋人」


「はい」


「お前ら、正式に“Cランク”に上げる話、ギルドで出てるぞ」


「えっ」


 思わず素で驚いた。


「今回のミルダ避難護衛と、逃げオーク迎撃。

 準Cで据え置くには、仕事の中身がちょっと重すぎる」


 ミリアが、ニヤニヤしながら近づいてきた。


「まだ書類は通ってないけどね。

 でも、“Cランク相当として扱っていい”って指示は、もう出てる」


「……そうですか」


 じわじわと実感が湧いてきた。


(準Cランクから、正式Cランクへ)


 ラベルが変わるだけじゃない。

 「任される仕事」と「期待される役目」が、少し変わる。


(オークキングには、まだ届かない)


 でも──


(“あの背中に並びたい”と思えるだけの場所には、

 ちょっとだけ近づいたのかもしれない)


 そう思えた夜だった。


つづく。

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