表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/112

第4話 とりあえず剣が欲しい



「……とりあえずさ」


 紅葉の偵察待ちながら、俺は木に背中を預けて座り込んだ。


「武器欲しいよなぁ。ちゃんとしたやつ。剣とか」


 手元の木刀を見る。


 さっきまでの俺なら、木刀でも十分だった。

 でも、さっきのフォレストウルフとやり合ったせいでよく分かった。


(これ、本気で噛みつかれたら折れるやつだ)


 現代日本の稽古用だから当然なんだけどさ。


「剣かぁ」


 結衣が俺の隣に腰を下ろした。

 足を投げ出して、空を仰ぐ。


「秋人くん、やっぱり刀っぽいのがいい?」


「そりゃ剣と魔法の世界って言ったら“剣士”と“魔法使い”の二択だろ。

 俺、どっちもやりたいからずっと悩んでたんだよなぁ」


「欲張り?」


「夢は大きく」


 冗談みたいに言いながらも、心のどこかではかなり本気だった。


 この世界には、本物の魔物がいて、魔法があって、ステータス画面まである。

 なら──剣だって、本物を振り回したい。


「結衣は、どうするんだ?」


「私は……」


 結衣は、自分の手を見下ろした。


「本当は薙刀がいいけどね。さすがに、この世界に“薙刀ください”って言って通じるか分からないし」


「槍とかなら、ワンチャンあるんじゃない?」


「そうだね。柄の長い武器なら、なんとかなりそう」


 結衣の薙刀さばきは、正直、俺よりよっぽど様になっている。

 長物を持たせたときの安定感がすごい。


「結衣に軽いロングスピアとか持たせたら絶対強いよな……」


「なにそれ、ちょっと楽しそうなこと言ってる」


 くすっと笑う結衣。


 こっちのテンションが少し上がると、向こうも連動して上がる感じがして、ちょっと安心する。


「紅葉はどうするんだろうな。素手であれだけ強いし」


「そこなんだけどね、秋人くん」


 結衣が、じとっとした目で俺を見る。


「山城さん、絶対もう何かしら持ってると思う」


「え?」


「さっきの動き。完全に“丸腰”の動きじゃないもん。

 あれ、いつでもどこからでも何か出せる人の構え方だよ」


「そんなこと分かるの?」


「武道してるとなんとなくね」


 結衣は、少しだけ身を乗り出して囁いた。


「秋人くん。ジャージって、隠しポケット作り放題なんだよ?」


「やめろ、想像し始めたらキリないやつだそれ」


 その時だった。


「──戻った」


 頭上から声が降ってきた。


 見上げると、大きめの木の枝の上に、紅葉がちょこんと座っていた。


「いつの間にそこに……」


「さっきから、いた」


「気配なさすぎんだろ」


 木からするすると降りてくる紅葉。

 地面に降り立つと、土埃一つ上がらない。忍者ってレベルじゃない。


「どうだった?」


 結衣が尋ねると、紅葉は指を二本立てた。


「二つ、分かった」


「お、情報」


 一応、俺もそれなりに真面目モードに切り替える。


「北のほう。森を抜けた先に、煙が見えた。細い、たくさん」


「煙突……かな?」


「たぶん。村か、町」


 心底ほっとする単語だった。


(よかった……マジで完全未開の地とかじゃないんだ)


「もうひとつは?」


「東のほう。森の奥。焚き火の煙と、鉄の匂いがした」


「鉄?」


「血と、汗と、鉄の道具の匂い。多分、人間」


 結衣が、きゅっと表情を引き締めた。


「どっちかっていうと、村より先にそれ、確認した方がよさそうだね」


「そう?」


「秋人くん。森の中で焚き火してて、血と鉄の匂いって、だいたい──」


 結衣は、木の根っこを指でなぞりながら言った。


「狩人か、冒険者か、盗賊か。三択だよ」


「3つ目だけ外れろ」


 俺は即答した。


 盗賊パーティにいきなり遭遇とか、さすがに初日からヘビーすぎる。


 紅葉が、少しだけ考え込む。

 それから、俺に視線を向けた。


「……武器、欲しい?」


「はい欲しいです」


 即答した。


「ちゃんとした剣、持ってみたい。木刀じゃなくて」


「結衣も?」


「できれば長物がいいかな。槍か、棒でもいいけど」


 二人の答えを聞いて、紅葉はこくりと頷く。


「じゃあ、少しだけ東に寄り道」


「やっぱ行くんだ、そっち」


「もし、悪い人たちだったら」


 紅葉の目が、すっと細くなる。


「武器、もらって帰ればいい」


「言い方が物騒なんだよなぁ」


 でも、現実的だった。


 誰かから買うにしても、まずはお金がいる。

 この世界の通貨単位すら知らない今、交渉するのは無理ゲーだ。


(……ごめん、見知らぬ誰か。悪い人であってくれ)


 心の中で最低な祈りをしつつ、俺たちは東へ向かうことにした。


◇ ◇ ◇


 しばらく森の中を歩いていると、確かに匂いが変わってきた。


 煙の匂い。

 それと、肉の焼ける匂い。

 金属の匂いも、ほんのり。


(バーベキューなら平和なんだけど)


 木々の間から、ちらちらと炎の光が見える。


 紅葉が、ぴたりと足を止めた。


「ここから先、私が見る」


 声を潜める。


「二人は、ここで待ってて」


「一人で大丈夫?」


「大丈夫。一人の方が、見つかりにくい」


 そう言うと、紅葉は地面にしゃがみ込んだ。


 影が伸びる。

 木々の影、石の影、俺たちの影。

 その中のひとつに、紅葉の足がすっと溶け込んだ。


「……っ」


 目をこすったけど、錯覚じゃない。


 紅葉の身体が、影に沈んでいく。

 あっという間に、地面から上半身だけになって、最後は頭まで消えた。


「え、なに今の」


「スキルだね」


 結衣が、ステータス画面をちらっと見る。


「《影走り》。説明、“影を媒介にした短距離移動”って書いてある」


「想像以上にそのまんまの能力だった」


 ゲームだったら、即採用レベルの便利スキルだ。


 数分。


 風の音と、遠くの笑い声だけが聞こえる時間が続いた。


 やがて──足元の影が、ふくらむように揺れた。


 そこから、紅葉がぬるっと出てくる。


「ただいま」


「おかえり!?」


「……どうだった?」


 俺と結衣が同時に聞く。


 紅葉は、いつもの調子で淡々と答えた。


「四人。男。たぶん、冒険者」


「盗賊じゃなさそう?」


「服装はバラバラ。武器も、剣と斧と槍。焚き火囲んで、肉食べてた」


「普通にパーティだね、それ」


「盗賊の可能性は?」


「荷物の置き方が雑じゃない。見張りも一人、ちゃんと立ってた」


 紅葉の分析力が地味に頼もしすぎる。


「でも──」


 そこで、紅葉の目が少しだけ鋭くなった。


「装備、ボロボロ。剣、刃こぼれ多い。槍、折れかけ。盾、穴空いてる」


「……それはそれで不穏だな」


 結衣が眉を寄せた。


「強い魔物か、何かと戦って、ボロボロになったあとってこと?」


「多分」


 紅葉はこくりと頷く。


「あと──」


 少しだけ言いにくそうに、前置きしてから続けた。


「腰に、マナポーション。多分、高い」


「それは盗らないであげような?」


 つい前のめりで釘を刺す。


 紅葉は、きょとんとした顔で首を傾げた。


「盗らない。ちゃんと、“取引”する」


「……取引?」


「秋人の魔法、見てもらう。結衣の戦い方も。多分、それだけで価値ある」


 なるほど、そうきたか。


 俺たちにとっては初めての“冒険者的な出会い”だけど、向こうからしたら「変な三人組」だ。


 木刀とジャージと道着。

 異世界の住民から見たら、間違いなく怪しい。


「ちゃんと名乗って、普通に話せる相手か試してみて、それからだね」


 結衣が言う。


 俺も頷く。


 女神の世界で生きるって決めた以上、最初の“人間との接触”は失敗したくない。


 俺は木刀を握り直した。


「じゃ、とりあえず──」


 深呼吸する。


「“この世界の人間”に、挨拶しに行きますか」


「剣、もらえるといいね」


「物騒な前提で話進めるな」


 そう突っ込みながらも、心のどこかで期待している。


 ちゃんとした鉄の剣。

 結衣用の槍か、棒。

 紅葉用の……まあ、暗器はもう持ってそうなんだけど。


「そういえば紅葉さ」


 歩き出しながら、ふと思い出して聞いてみた。


「今、武器ってなに持ってんの?」


 紅葉は、当たり前みたいに答えた。


「小太刀一本、短剣二本、苦無六本、手裏剣十六枚。煙玉五つ、閃光玉二つ、ワイヤー二巻き。あと、毒針少し」


「フル装備じゃねえか!!」


 俺と結衣の声が見事にハモった。


「どこにそんなに入ってるの!?」


「ポケット」


「ポケットの意味とは」


 ジャージのどこにそんな収納スペースがあるのか、真剣に謎だ。


 結衣が、じとっとした目で紅葉のジャージを眺める。


「ねえ紅葉さん。今度、収納の位置、女子だけにこっそり教えて」


「いいよ」


「ズルい女子会するな!」


 俺だけ情報からハブられている理不尽に文句を言いながらも、

 心のどこかではちょっと安心していた。


 この世界がどれだけやばくても。


 こいつらと一緒なら、なんとかなるかもしれない。


 そんな予感が、少しだけ強くなっていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ