表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/112

第110話 間に合った、その代償




 廃城の中は、冷え切っていた。


 石の床。

 崩れた天井。

 人が使わなくなって久しいはずなのに――

 空気だけが、異様に澱んでいる。


「……奥」


 クレハが、短く告げた。


 忍術で刻んだ追跡の印が、まだ生きている。

 それがなければ、ここまで辿り着けなかっただろう。


「罠、多い」


「突破できる?」


「……やるしかない」


 返事はそれだけ。


 次の瞬間、影が跳ねた。


◇ ◇ ◇


 結界。

 使い魔。

 魔族配下の下級存在。


 数は多くない。

 だが、一つ一つが重い。


「前に出ます!」


 ユイが霊槍を振るう。

 浄化の光が走り、魔物が消える。


「右!」


 アキトの声に合わせ、クレハが死角へ滑り込む。

 拘束忍術。

 一瞬の隙。


 アキトの刀が、正確に走った。


 ――倒せる。

 だが、楽ではない。


(……消耗が早い)


 アキトは、はっきりと自覚していた。


 ここは、

 C級の戦場じゃない。


◇ ◇ ◇


 広間に辿り着いた瞬間、

 三人は息を呑んだ。


 魔法陣。

 血と光が混じった、不快な紋様。


 その中心に――


「……クラリス!」


 淡い光に包まれ、少女は宙に浮いていた。

 目は閉じられ、呼吸は浅い。


「間に合った、か」


 低い声が響く。


 影から現れたのは、ムル。


 そして、その背後。

 空気そのものが軋むような圧。


 ――魔人。


 姿ははっきり見えない。

 だが、“いる”。


「返してもらう」


 アキトが言った。


 声は震えていない。


「ほう」


 ムルは興味深そうに目を細めた。


「随分と、踏み込んだな」


◇ ◇ ◇


 戦いは、最初から噛み合わなかった。


 ユイの支援魔法は弾かれ、

 クレハの拘束は引き裂かれる。


 アキトの刀は、

 届かない。


「……っ!」


 ユイが弾かれ、壁に叩きつけられる。


「ユイ!」


「だ、大丈夫……!」


 だが、その声は強がりだった。


 クラリスの魔力が、

 目に見えて削られていく。


(このままじゃ――)


 その瞬間。


 アキトの内側で、

 何かが――開いた。


◇ ◇ ◇


 世界が、歪んだ。


 音が遠のき、

 血の流れがうるさくなる。


(……来るな)


 そう思ったのに、止まらない。


 正体不明の“何か”が、

 仲間へと流れ込む。


「……っ!?」


 ユイの霊槍が、

 今までにない輝きを放つ。


 クレハの動きが、

 明らかに“速すぎる”。


 アキト自身も、

 体が軽い。


 ――限界が、消えた。


「これは……」


 ムルの表情が、初めて変わった。


「神代……?」


 その一瞬の動揺。


 逃さない。


 三人の攻撃が、重なる。


 魔法陣が軋み、

 儀式が乱れた。


◇ ◇ ◇


 ――だが、長くは続かない。


 頭が割れるように痛い。

 視界が揺れる。


(……もたない)


 アキトがそう悟った瞬間。


 天井が、吹き飛んだ。


「――遅れてごめんね」


 夜空を背に、

 一人の女が降り立つ。


 リゼ。


 その存在だけで、

 空気が変わった。


「……ちっ」


 影が、明確に後退する。


「今日はここまでだ」


 ムルが、苛立ちを隠さず言う。


「儀式は――半分、成功した」


 次の瞬間、

 長距離転移の魔法陣が展開される。


「また会おう」


 その言葉を残し、

 魔族たちは消えた。


◇ ◇ ◇


 静寂。


 崩れた広間で、

 アキトは膝をついた。


「……クラリス」


 リゼが素早く彼女を抱き留める。


「生きてる。

 でも……魔力を、かなり持っていかれてる」


 ユイが駆け寄る。


「治せますか……?」


「今は、眠らせるしかない」


 その声が、遠く聞こえた。


 アキトの視界が、暗くなる。


(……助けた、よな)


 そのまま、

 意識が落ちた。


◇ ◇ ◇


 勝ったはずだった。


 クラリスは戻った。

 魔族は撤退した。


 それでも――


 誰一人、

 安堵の表情を浮かべる者はいなかった。


 夜明け前の廃城に、

 重い沈黙だけが残っていた。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ