第106話 帰還――迎える者たち
ラグナスの城壁が見えたとき、
アキトは無意識に、深く息を吐いていた。
高いわけでも、派手なわけでもない。
それでも、何度か死にかけた今となっては――
あそこは“帰る場所”だと、はっきり分かる。
「……着いた」
ユイの声も、少しだけ緩んでいる。
クレハは何も言わないが、
歩幅がわずかに軽くなっていた。
◇ ◇ ◇
門番のグレンが、三人に気づいて目を見開く。
「お、おお!?
戻ったか!」
「無事です」
アキトが答えると、
グレンは安堵したように笑った。
「ニナさんの荷は?」
「護衛完了。
後でギルドに報告します」
「了解だ。
……しかし」
グレンは三人を見回し、
少しだけ表情を曇らせた。
「雰囲気、変わったな」
言い当てられて、
アキトは苦笑する。
「色々、ありました」
「だろうな」
深くは聞かない。
それが、ラグナスの流儀だった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドは、相変わらずの喧騒。
掲示板の前で依頼を吟味する冒険者。
カウンターで揉める新人。
酒の匂い。
――日常だ。
「おかえりなさい!」
受付のミリアが、
三人を見つけて声を上げた。
「無事でよかったです。
……でも」
少し間を置く。
「王都絡み、
何かありましたよね?」
この人も、察しがいい。
「報告、お願いします」
◇ ◇ ◇
奥の応接室。
ボルグが腕を組んで待っていた。
「戻ったか」
短い一言だが、
そこに含まれる安堵は大きい。
ユイが、報告を始める。
護衛依頼の完遂。
盗賊の襲撃。
魔獣使いとブラッドベア。
王都ギルドへの引き渡し。
そして――
エルステッド家の名。
ボルグの表情が、わずかに険しくなる。
「……やはりか」
「ご存知なんですか?」
アキトが問う。
「噂程度だ」
ボルグは低く言う。
「王都の貴族の中でも、
きな臭い名前だ」
椅子にもたれ、息を吐く。
「だが、
お前たちはよくやった」
「C級としては、
十分すぎる成果だ」
褒め言葉。
だが、手放しではない。
「その代わり」
視線が鋭くなる。
「目を付けられた」
室内の空気が、少し重くなる。
◇ ◇ ◇
「今後の方針は?」
ボルグの問いに、
アキトは一拍置いて答えた。
「しばらくは、
ラグナス周辺の依頼を」
「賢明だ」
即答だった。
「王都で派手に動くには、
まだ早い」
ミリアが、メモを取りながら言う。
「でも、
今回の件で評価はかなり上がってますよ」
「指名依頼、
増えると思います」
ユイが、小さく頷く。
「選びます」
「それでいい」
ボルグは笑った。
「逃げる判断ができる冒険者は、
長生きする」
◇ ◇ ◇
ギルドを出ると、
昼のラグナスは、いつも通りだった。
市場の声。
鍛冶場の金属音。
子どもたちの笑い声。
「……戻ってきたな」
アキトが呟く。
「はい」
ユイが答える。
「ここから、また積み上げましょう」
クレハは、空を見上げる。
「でも、
前とは同じじゃない」
「分かってる」
アキトは頷いた。
もう、
何も知らない新人じゃない。
それでも――
この街で、
また一歩ずつ進む。
善良でいようとするために。
帰るための旅を続けるために。
ラグナスは、
静かに三人を迎え入れていた。
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