表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/112

第104話 再出発と、背後にあるもの



 朝は、静かに来た。


 焚き火の跡はきれいに消し、

 地面に残った足跡も、最低限だけ整える。

 誰かに教えられたわけじゃない。

 自然と、そうしていた。


「……行こ」


 アキトの一言で、三人は立ち上がる。


 昨日までと同じ装備。

 同じ隊列。

 でも、空気は少しだけ違っていた。


◇ ◇ ◇


 街道は、昨日よりも静かだった。


 森のざわめきはある。

 鳥の声も聞こえる。

 けれど――

 人の気配が、妙に薄い。


「警戒、続けよう」


 ユイが低い声で言う。


「昨日の件で、

 向こうもこちらを“把握”したはずです」


「同意」


 クレハは、少し前方の高所を移動しながら応じる。


「見られてる可能性、高い」


「盗賊ギルド?」


「それだけじゃない気がする」


 その言葉が、

 妙に引っかかった。


◇ ◇ ◇


 数時間進んでも、

 魔物も盗賊も現れない。


 静かすぎる。


(嵐の前、ってやつか)


 アキトがそう思った時――

 クレハが、ぴたりと止まった。


 枝の上から、手で合図。


 ――“後ろ”。


 アキトとユイが、自然に歩調を落とす。


 振り返らない。

 気づいていない“ふり”をする。


「……いる?」


「うん」


 クレハの声は、ほとんど風に紛れる。


「距離、遠い。

 数は一。

 動き、盗賊じゃない」


「……追跡?」


「観察」


 短い言葉が、

 状況をはっきりさせた。


◇ ◇ ◇


「どうする?」


 小休憩を装って、

 アキトが低く聞く。


「放っておく」


 即答は、ユイだった。


「こちらに敵意があれば、

 とっくに仕掛けてきています」


「様子見か……」


「ええ。

 そして多分、“報告役”」


 誰に、とは言わなかった。


 言う必要もなかった。


◇ ◇ ◇


 クレハが、少しだけ進路を変える。


 街道から、ほんのわずかに外れる。

 遠回りでも、

 見通しのいい場所を選ぶ。


「逃げ道、確保」


「了解」


 言葉にしなくても、

 三人の動きは揃っていた。


 ――昨日、決めたからだ。


 無理はしない。

 深入りしない。

 危険なら、逃げる。


◇ ◇ ◇


 夕方、

 小さな村が見えてきた。


 ラグナスまでは、あと一日。


「今日は、ここで泊まろう」


 ユイが言う。


「夜営より、

 人のいる場所のほうが安全です」


「賛成」


 アキトも頷く。


 村に入る直前、

 クレハが一瞬だけ振り返った。


 森の奥。


 何かが、

 “距離を保ったまま”止まっている。


「……まだ、いる」


「追ってきてる?」


「ううん」


 クレハは首を振る。


「ついてきてる」


 その違いが、

 不気味だった。


◇ ◇ ◇


 村の宿で部屋を取る。


 食事は素朴だが、温かい。

 久しぶりに、人の生活の匂いを感じる。


「……こういうの、忘れそうになるな」


 アキトが呟く。


「普通の夜」


「忘れちゃだめです」


 ユイが、静かに言う。


「私たちが守ろうとしているのは、

 こういうものなんですから」


 クレハは、黙って頷いた。


◇ ◇ ◇


 その夜。


 アキトは、なかなか眠れずにいた。


 窓の外は静か。

 星も見える。


(ついてきてる“誰か”……)


 盗賊でもない。

 魔物でもない。


 ――もっと、

 厄介なもの。


 目を閉じる直前、

 ふと思う。


 昨日まで、

 俺たちは“襲われる側”だった。


 でも今は、

 観察される側だ。


 強くなった証拠かもしれない。

 同時に、

 面倒な世界に足を踏み入れた証でもある。


(……それでも、進む)


 決めたから。


 帰るために。

 善良でいるために。

 そして、生き残るために。


 夜は、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ