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国は安定し、大陸全土を見ても百年は大きないさかいが起きていない。
それでも五十年に一度、災厄がよみがえる。かつて地底に封じた魔の者が息を吹き返すのだ。
それを弱らせ、また封じる。
その力を持つものを、この世界では聖女と呼ぶ。
具体的には三年ほどかけて世界各地の神殿を回り、祈りを捧げていくことになる。
聖女は神託により決まる。特別な力を宿すのに、身分も血筋も関係ない。
一方の勇者は、聖女の護衛や案内役にあたり、その時の聖女を排出した国から地位や身分の高いものがつく習わしになっている。
今回は、ユーギリスが選ばれた。
リズ・バレンダインは商人の娘だった。
ふわふわと広がる豊かなブルネットに黒曜石の瞳をした、明るい娘。
人とのおしゃべりが大好きな子。
頭に思い浮かべれば、春先の小鳥のような声が聞こえてくる。
「私もあなたのことマリーって呼んで良い? ……ありがとう。ねえ、マリーの髪色って素敵よね。綺麗な夕焼け色だわ。私、夕焼けが好きなの」
観光地への遊行にでもいくような、青みがかったドレスとツバの広い帽子。たくさんの手土産と旅支度の荷物を従業員に運ばせてやってきた彼女は、談話室のソファに浅く腰掛け、王宮の設えを物珍しそうに見回していた。
「ありがとうございます。それで、聖女様。巡礼の準備の間に過ごしてもらう部屋なのですが」
「どこでも良いわ。私ね、これでもキャラバンに参加したことがあるの。どこでも寝られるのが特技よ。前に一回、うっかりして、道端で寝ちゃったこともあるくらい。困っちゃうわよね」
「そうですか。ご希望がなければ王宮の客間を利用いただくことになります。普段の生活のことは専任の侍女をつけますので、彼女にお尋ねになってください」
ぱっと白い指が宙を切る。嵌めた指輪がちかちかした残像を私の目に張り付ける。
なにかと思って彼女を見ると、好奇心旺盛な猫のような瞳孔がきゅうと広がっていた。
「マリーの部屋はどこ? ここだけの話にしてね、私、心細いの。ほら、私って商人の出だから、知らない人と話すの大好きだし、物怖じもしないじゃない。初対面ともなんでも話せちゃうっていうか。でも、作法に関しちゃ貴族様たちから見てどうなのかなって思うのよ。信頼できる人に教えてもらいたいの。マリーはしっかりしてそうだし、年も近そう。また会いに来て良い?」
「私は部屋にいないことの方が多いので、お相手するのは難しいかと。ですが、あなたの侍女のパロメ様も貴族の娘です。王宮に出仕して二年、朗らかな性格の良い娘なので、話し相手にもよろしいでしょう。作法についても彼女にお尋ねになってください」
「ほんとう、マリーってしっかりしてるのね。すごいわ。今いくつなの? あ、私は十六よ。そうだ、当ててあげようか。そういうのも得意なの……うーん、私よりもちょっとお姉さんかな。十九!」
「まあ、そんなところです……申し訳ありません、今は別の仕事もありますので、これで失礼します。パロメ様、お願いできますか」
城での一番はじめの案内役になったからか、聖女は私に友好的だった。
勢いある商人の娘として市井や流行に精通し、にこにこと笑う彼女は、生まれてこのかた王宮内でばたばたと慌ただしく生きてきた私では気後れを感じるくらいの生命力に満ち溢れている。
聖女は癒しと活力の力を備えているというし、そういうものなのかもしれない。
私は王子の小間使いらしく、見聞きしたありのままの彼女の姿をユーギリスとその側近たちに伝えた。明るく、元気で、話好き。
この時点で、上に姉君が三人と下に妹君が二人いるラディウスはかすかに顔を歪め、聖女の力に興味があると研究室から珍しく出てきたウルシェはあからさまに興味を失っていた。
ラディウスはそれでもうまく捌けるだろうけれど、ウルシェには酷かもしれない。頭の隅に置いておく。
ただ、軍の一部隊を率いる立場のラディウスと、学術分野の精鋭として国を挙げて取り組んでいる多くの研究に名を連ねるウルシェは、旅を余儀なくされる聖女と関わることは少ないだろう。
聖女の人柄も良さそうだったので、聖女の護衛はユーギリスと、補佐に大陸の文化や歴史に明るい文官のエルダがつく、予定どおりの手はずとなった。
あとは各地に赴いた時に、その土地での案内役を乞うことになる。
後々を思えば恐ろしい話で、当初は私もユーギリスの世話役として聖女一行に随行する案もあったらしい。
けれど実際のところ、私に命じられたのは、ユーギリスの仕事の管理と整頓だった。
もちろん、職務代行なんて大それたことはできない。王族にしかできないことは陛下が引き受けられ、その他に務めてきたことは役職もちの貴族たちで穴埋めだ。
ただ、私は常日頃からユーギリスの小間使いとして各所への伝書もしていたので、今進行していた議案や議題をおおむね把握している。
ユーギリスがいなくとも彼が携わってきた国務が滞りなく進むように、代替え要員の貴族たちと連携し彼らを助けよとのお達しだった。
正直にいえば、私はその仕事を舐めていた。
おおむねは偉い身分の賢い貴族たちが集結してやっつけてくれるのだから、私がすることなんてせいぜい「その資料ならどこそこにありますよ」とか「それならあそことどこそこが大体の案を固めてましたよ」とか、モノや人の位置関係を答えるだけでいいと思ってた。
なにせそれまでの十四年間、ずっと私を振り回してきたユーギリスから離れるなんてことが初めてで、なんならちょっと楽になるかもと浮かれてさえいた。
迂闊だった。
大誤算だった。
私の見立ては甘かった。
前の災厄からちょうど五十年の節目。
我が国から次の聖女が出たらと想定して、数年前から計画は立てていたが、いざ実行となると細かな部分で厄介が生じる。
そしてすべての厄介が、私の名前を呼んだのだ。
「マリー! 治水工事の予算組み立てに不備があった件が修正されないまま、ギルドへの工賃見積もりが初期案どおりに出されてる! これじゃあ、現場を維持するための食料や雑品に回せる金額が足りなくなる!」
「不備はありましたが、景気対策と職人の士気向上をはかるために上乗せ予算が出ることになりました。お手元になければ、会計に問い合わせてみてください。正式決定の金額は次の議会で承認となりますが、最低限の工賃分は確保してます。見積もりはそのままで、値上げ交渉にも極力応じてあげてほしいとのユーギリス様からの引き継ぎ書にもありますから、その通りに」
「マリー! 東のマキアブ国の王子からユーギリス様宛に馬車で荷物が届いてる。これってなにか聞いてる?」
「検問は終わらせているのですよね。荷物のなかに手紙はありませんでしたか? ユーギリス様よりマキアブ国から自分宛に届いた書状はすべて開封して良しと許しを得てます。……ありがとう。それならウルシェ様に回して。融通してもらえることになっていた新薬開発のための研究材料です。聖女様一行の旅程ではそろそろサリカ神殿近くの町に滞在するはず。早馬便に報告を追加。ついでにダリス王子へ出す礼状にサインをお願いしてください」
「おい。アルテとイダバの駐屯地で兵糧が足りてねぇと再三の報告がある。そっちに話はあがってんのか」
「その二ヵ所については聞いてます。原因は補給ルート上で起きた崩落事故。復旧にかなりの時間を要します。遠回りすることで、運搬日数がかさみ、結果、一度に運べる食糧の量が減っているのが原因。ラディウス、ここまではあなたが把握している状況と一致しますか?」
「してる。あそこの軍は引けねぇぞ。対策は?」
「隣国のルアドに人を送り込み、食糧を買い付け輸送までしてもらう案でまとまりました。あちら側からならルートが確保できる。新鮮な野菜も運べます。……同盟国とはいえ軍事に関連した連携を願い出るのに時間を要してしまい、申し訳ありません」
「俺に謝んな。初回の輸送はいつだ」
「明後日の昼に第一便がアルテに向けて出立。イダバはその翌朝になる予定です。急ぎで通したので、当日にトラブルが起きる可能性はありますが、日はずらさないように調整にかかってます」
「十分だろ。…………」
降り注ぐ視線に、私は乾いた目を瞬かせる。
「まだなにか?」
「おまえ、最後にいつ寝た」
「ついさっき寝てましたよ。机で」
「どんくらい」
「…………時計をみていませんので正確にはわかりません。クマ、ひどいですか?」
「ああ。あと、臭う」
過酷なの訓練にも耐える軍人にそう言われると辛い。
それでも問題は起こり続ける。
私はその度に呼ばれる。
眠りも、湯浴みも、自分のことは後回しになる。
「ユーギリスは優秀だったのだと、こんなかたちで思い知るなんて、ひどい話ですよね」
「……おい、手」
「なんですか……」
言われるがままに手を出すと、手のひらに数個の包み紙が置かれた。
「……チョコレート?」
「俺からじゃねぇ。姉上たちからだ。バカみてぇにデカイ箱を部屋に運んでやってたの、気づいてねぇだろ」
「ああ、ごめんなさい、部屋にはしばらく戻っていなくて、大抵はユーギリスの執務室に……すみません。リディ様たちにお礼もせず。もしかして、それで様子を見にきてくれたのですか」
「まさか。もともと兵糧の話は軍の管轄だろうが」
「ありがとう、ラディウス。チョコレートも。大事に食べます」
そういって、二粒目まで食べたのは覚えている。その後は忘れて、いつの間にかポケットのなかで溶けていた。
とにかく目まぐるしい。
忙しくって、忙しくって、言われたことを言われた順に打ち返し続ける日々だった。
巡礼の合間にユーギリスたちが城に帰ってきてくれるのが、天からの褒美に思えるほど有り難かった。
聖女と共に陛下や教会に報告をした帰り道のユーギリスを廊下で待ち構える。
「ユーギリス殿下、お帰りなさいませ。歩きながら聞いて。まず、ルアドからの」
「ええ!? あなたもしかして、マリー?」
横からの声に、舌を打ちそうになる。
その前に、ユーギリスが彼女との間に体を滑り込ませてくれた。
「リザ。すまないが、急ぎの職務があるようだ。先に戻って旅の疲れを癒してくれ」
「ええ、それは構わないけれど……」
聖女がちらちらと私をうかがっているのがわかる。そうやってなかなか動こうとしない彼女に痺れを切らし、私はユーギリスの後ろから顔を出した。
「なにか私にご用ですか」
そう言えば、彼女は意を決した顔をした。
「殿方の前で女性にこんなことを言うのは心苦しいけれど、このままではあなたが恥をかくからあえて言うわね。あなた、香水つけすぎよ。瓶を逆さにして頭から被ったの? さっきから、においで鼻がもげそう」
覚えがある。
痛いところをつかれた。
「……申し訳ありません。体臭を消そうとして……あまり使ったことがなかったので加減がわからなかったのです。以後、気を付けます」
「いいのよ、そういうこともあるわよね。よかったら後で私のところに来て。髪や肌の手入れ方法とか、良かったらおすすめの道具なんかも紹介できるわ」
「ありがとうございます。時間が許せばうかがいます」
「気にしないで。マリーは磨けば光るとずっと思ってたの。ちゃんと自分から身だしなみを気にできる子なんだって、あなたのことがまたひとつわかって嬉しいわ。失敗を恥ずかしがらなくていいのよ。みんな初めはそんなものなんだから。私だって前に」
「聖女様」
継ぎ目ない怒涛の会話に割り込むため、いつもよりも大きな声が出た。
聖女は驚いた顔で私を見る。
「聖女様。申し訳ありません。その話もまた後で聞きますから、今はこれで御勘弁を。失礼します」
ユーギリスに目配せして、その場から離れる。時間は惜しいが、あのままでは聖女のペースに飲まれてしまう。
ユーギリスの執務室に戻って、中の書類が飛ばない程度に窓を開ける。入ってくる風に、むせ返るようなにおいが混ざった。私が被った香水のにおい。
ラディウスにも指摘されていたのに、結局私は濡れた布で体を拭くくらいしかせず、不衛生を押し通してしまっていた。
ユーギリスたちが想定よりはやく帰還したのに間に合わすため、なんとかしなくてはと慌てて人から借りたものだった。
しばらく、額を風に吹かせる。
それでにおいがとれるわけではないとわかっているのに、部屋の本来の主が帰ってくるまでそうしていた。
「マリー、先程はすまなかった。話を聞かせてくれるか」
「もちろん。まずはルアドからの兵糧買い付けの件、仔細報告から」
たまりにたまった相談事、報告、連絡。軌道修正。新しい指示。次の出発までに、ユーギリス本人にしかできない仕事をしてもらうための調整。
塞き止められていた川が流れて澄むように、雑事がするすると解消していく。
「……すごい……停滞していた事案のほぼすべてが片付きそう」
感動する私に、執務机についていたユーギリスが立ち上がり、近づいてくる。
それを掻い潜り、距離をとった。なるべく、風下に立つようにする。
ユーギリスが苦笑した。
「さっきの気にしてる?」
「正直、自分でも失敗しているのには気づいていましたから、そこまでは。ただ、私が気にする気にしないの問題ではありません。あなたには激臭でしょう」
「そうだね。香水瓶の中にいるみたいだ。湯浴みができないからとりあえず全身に振りかけようなんて、すごく君らしいよ」
ユーギリスは幼く笑った。警戒する私を気にも止めず距離を詰めてきて、後ろで無造作に束ねただけの髪の一房を手ですくい、油の回ったそれを指先でじりじりとよじって遊んでいる。
「ああ、マリーなんだなって思う」
当然のことをあまりにしみじみと再発見する様子に、一気に心配になる。
「さすがに疲れが出ましたか」
彼の指から髪が落とされた。ぱたりと落ちていく。
「……そうかもしれない。でも、君も同じくらい疲れてそうで、安心した」
そんなことを言うユーギリスはほんとうに珍しくて、私は、彼だって初めてのことに挑戦しているのだとようやく腑に落ちる。
聖女をつれて、各国を回る。我が国に友好的な場所ばかりではない。そこに、王子として赴き立つことの息苦しさ。
私は彼の肩に手をのばす。ぽんぽん、とあやすように軽く叩いて労った。
なんだかんだ、手だけはきちんと洗っている。私のなかでも綺麗な部分であるので、こうすることも許されたい。
「頑張ってますよ、私もあなたも。慣れないことを、よく頑張ってます」
「……マリー」
ユーギリスがもの足りなさそうに頭を屈めてくるので、その蜂蜜色のまんまるもせいいっぱい優しい手付きで撫でた。
彼は目を細めて微笑み、しばらくしてから満足した様子で姿勢を戻す。
そのまま、今度は彼が私の頭に手をのばした。
「御前にこの姿で立っておいてなんですが、私、汚いですよ」
「今さらだ。一緒に頭の先から爪のなかまで泥だらけにもなったこともあるのに」
懐かしくて笑ってしまう。
「泥沼から引き上げようとしたのに、あなたが引っ張るからでしょう」
あのときも、結局、私だけが大人たちに怒られた。ユーギリスは謝りもしない。
代わりに、彼は私の頭をこうして撫でたのだ。
絆されてやるものかと歯をむき出しにして抗うのに、初めて誰かに頭を撫でてもらえたことへの驚きと、彼の手つきの気持ち良さに、私は泣く泣く怒りを手放してしまったのだった。
今もなお、こうされると弱い。
そうやって互いを称えあい、次の仕事の話を進める。
一週間ほどすれば、ユーギリスはまた旅立つのだから。
「マリーにも苦労をかけるけど……こうしてみると、君を城に残してきて正解だったな」
「嘘。がっかりしたこともあったはずです」
「それも想定の半分以下だよ。マリーをはじめ、多くの者が手を貸してくれるからだ。ありがとう」
「他の方にも声をかけてあげてください。この短期間で、全体的に疲労が蓄積してます。あなたからの労いが、たぶん一番効く」
「各現場は明日、回ってくる。今日のところは私がここにいるとわかっていた方が良いだろう。……こちらからも朗報がある。リズは商人の娘だけあって、行路短縮の道筋を見いだすのが上手い。この分だったら、私たちの事前の見込みよりもはやく巡礼が終わりそうだ」
「ああ、それは朗報ですね。…………ですが」
私はユーギリスを正面から見つめた。
「我々も成長しています。束になってもあなたの職権と処理能力にはいまだ及びませんが、帰ってきた主君をがっかりさせるなんて屈辱を甘んじて受ける気はありません」
次の帰還時には目にもの見せてやる。
その時の私は、続く激務で磨かれた闘争心により頭のタガが変に外れていたと思う。代わりに、ここまできたならなんだってしてやらぁと妙に根性がすわってきていた。
おそらくユーギリスもそれをわかっていて、おかしそうに笑うのに、言葉では指摘されなかった。
「マリー、まだまだ私のために動いてくれるよね」
「上等です。なんなりと」
そして言いつけられる新たな用事。雑務。指示。
私は執務室を飛び出した。
不思議と体は軽かった。なんとなく悔しいけれど、どんな仕事よりも、ユーギリスの指示を受けて動くのが身に馴染んで楽だった。私は骨身からユーギリスの小間使いなのだ。
ユーギリスからの追加の仕事を言い渡すと、誰もが疲れを見せながら、おそらく私と同じ目をする。
「マリー。やってやりましょうね」と実際に口に出すものもいた。
「ええ、私たちで乗り越えますよ。なにせ五十年に一度の有事ですからね」
「マリー! 王子が帰っていると聞いたが、ユルダの麦畑の件は王子に報告? それとも君に?」
「ユーギリス様にお願いします。執務室です。概要と関連事項は先程伝えました。明日の昼までに判断を出させましょう」
「わかった、行ってこよう。マリーも今のうちに寝ると良い。あと風呂! 食事!」
「ご心配どうも。そっくりそのままお返しします。他の方ともぜひ声を掛け合って。あなた自身の保養も仕事のうちですよ、カボラ様」
「私の回りにいるのは、君が休んだら安堵に咽び泣くような奴らばかりだよ。ここでは君こそが迷える我らを導く聖女だ」
大それた言い回しに、苦笑する。
「聖女様への不敬です、つつしんで。……ですが褒められて元気が出てきました。ありがとう」
軽やかに立ち去るカボラを見送り、また次の連絡場所に向かう。
みな、王子の帰還を喜びつつ、仕事の手綱を握る手はゆるめていない。
国に出仕する貴族たちは士気が高い。五十年に一度、世界規模の有事にあたり、常よりも連帯感がうまれている。尊き血を受けた自尊による彼らの献身や奮闘に王は支えられ、私も助けられている。
ユーギリスが城に帰ってきて仕事に一定の目処がつき、ありがたいことに久方振りの湯浴みにありつけた。皮膚が一枚向けたかのような爽快感がある。
部屋も、きっと定期的に誰かが掃除してくれていたのだろう。シーツがはりかえてある。
ありがたい。その一言につきる。
ベッドに寝転ぶと私はすぐに微睡み始めた。
そんなことを一定期間で繰り返す日々だった。ユーギリスが旅立てば激務に耐え抜き、帰ってくれば怒涛の案件処理。
辛いとか楽しいとかではない。
誰かがやらなくてはならなくて、その誰かが私であるだけのこと。
聖女が出現してからの一年間は、あっという間にすぎていった。




