第2章 最終話
十月の時が流れ、エルミット王国は、新しい王子の誕生に沸き立った。
生まれた子は、父であるレオルド譲りの黒髪と、母であるわたくし譲りの、陽だまりのような金色の瞳を持っていた。
その瞳は、ただ色が似ているだけではない。
彼は生まれながらにして、【聖癒】の力と、エルミット王家の強大な魔力、その両方を併せ持って生まれてきたのだ。
それは、大地を司る精霊エリアーデからの、祝福の証だった。
「……見ろ、セレスティア。俺たちの息子だ」
「ええ……。とても、可愛い……」
腕に抱いた小さな命の重みと温もりに、わたくしは、言葉にならないほどの愛しさを感じていた。
この子がいれば、もう、未来を憂うことは何もない。
たとえ、わたくしたちがいなくなったとしても、この子が、その力を正しく使い、この国を、そして世界を守っていってくれるだろう。
数年後。
エルミットの庭園には、幼い王子の手を引きながら、穏やかに微笑むわたくしたちの姿があった。
王子は、わたくしの周りをきゃっきゃっと楽しそうに走り回り、時折、その小さな手から金色の光を溢れさせては、庭の花を元気にしていた。
「こら、あまり力を無駄遣いするものではないぞ」
レオルドが、父親の顔で優しく諭す。
しかし、その目元は、息子が可愛くてたまらない、といった様子で緩みきっていた。
かつて『氷の皇子』と呼ばれた彼の面影は、もうどこにもない。
彼は、賢君として国を豊かにし、民から深く敬愛され、そして、何より家族を愛する、最高の国王であり、夫であり、父親だった。
ふと、空を見上げる。
エルミットの空は、どこまでも青く、澄み渡っている。
遥か彼方のグランデールもまた、豊かな大地を取り戻し、人々は平和な日々を送っていることだろう。
わたくしは、静かに自分のお腹に手を当てた。
そこには、第二子となる、新しい命が再び宿っていた。
(大丈夫。もう、何も怖くない)
わたくしには、愛する夫がいる。
可愛い子供たちがいる。
わたくしを信じ、慕ってくれる、たくさんの民がいる。
そして、この大地を、いつも優しく見守ってくれる、精霊の友がいる。
『無能才媛』と蔑まれた私の魔力が【聖癒】だと誰も知らない――そんな孤独な日々は、もう終わった。
私の力は、私の価値は、愛する人々と共にあり、未来を照らす希望の光となる。
「どうした、セレスティア?」
レオルドが、不思議そうにこちらを見ている。
わたくしは、彼に、そして息子に、人生で最高の、太陽のような笑顔を向けた。
「いいえ、何でもありません。……ただ、幸せだな、と」
――これは、絶望の淵から這い上がり、自らの手で運命を切り拓いた、一人の令嬢の物語。
そして、彼女が、愛する王と共に、数多の困難を乗り越え、やがて伝説の女王となる、始まりの物語。
太陽の血を継ぐ者たちの伝説は、これからも、永遠に続いていく。
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