表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能才媛と蔑まれた私の魔力が【聖癒】だと誰も知らない~婚約破棄されたので、隣国の不治の病に苦しむ皇子をこっそり救いに行きます~  作者: 九葉
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

第2章 第4話

地下へ続く洞窟は、湿った空気と、瘴気の淀みが充満していた。

レオルドは、片手に松明、もう一方の手に愛剣を握りしめ、慎重に先へ進む。

セレスティアが地上で抑え込んでくれているおかげで、瘴気の濃度は薄まっているが、それでも肌を刺すような邪悪な気配は消えていない。


「陛下、お気をつけください。この先、何やら嫌な気配が……」

護衛の騎士が、警戒を強める。


洞窟は、やがて開けた空間へと繋がった。

そこは、古代の石材で組まれた、広大な地下祭壇だった。

中央には、ひび割れた巨大な祭壇が鎮座し、その表面には、見たこともない複雑な文様がびっしりと刻まれている。

精霊を封じ込めている、呪いの祭壇だ。


そして、その祭壇を守るように、異形の者たちがうごめいていた。

瘴気から生まれた、魔物だ。

泥のような身体に、赤く光る無数の目を持つ、おぞましい姿。


「……来るぞ!」


レオルドの鋭い声と同時に、魔物たちが一斉に襲いかかってきた。

剣と剣がぶつかる甲高い音、騎士たちの雄叫び、そして魔物の不快な咆哮が、地下空間に響き渡る。


レオルドは、国王でありながら、その剣技は王国一と謳われるほどの腕前だった。

彼の剣は、まるで閃光のように走り、魔物たちの核となっている赤い目を的確に貫いていく。


しかし、魔物は倒しても倒しても、祭壇から湧き出す瘴気から、次々と生まれてくる。キリがない。


「陛下! このままではジリ貧です!」

「分かっている! 狙いは、あの中央の祭壇だ!」


レオルドは、騎士たちに魔物を引きつけさせ、その隙に単身、祭壇へと突撃した。

祭壇に近づくにつれ、呪いの力場が、全身に重くのしかかってくる。まるで鉛の外套を羽織らされたかのようだ。


(セレスティアも、地上でこの圧力に耐えているのか……!)


愛しい妻の苦しみを思い、彼は歯を食いしばって前へ進む。

あと数歩で祭壇に手が届く、その時だった。


「――お待ちください、陛下」


背後から、静かな、しかし芯の通った声がかけられた。

振り返ると、そこに立っていたのは、今回の調査に同行していたグランデールの宮廷魔術師の一人だった。年の頃は、レオルドと同じくらいだろうか。穏やかな顔立ちをした、物静かな印象の男だ。


「どうした。今は取り込み中だ」

「その祭壇に、直接触れてはなりません。罠です」


男は、冷静に告げた。

「この祭壇は、強い魔力を持つ者が触れると、その魔力を吸い取り、封印をさらに強固にする仕組みになっています。……陛下が触れれば、格好の餌食となるでしょう」

「何だと……? では、どうすれば」


「この呪いを解く鍵は、力ではありません。……『心』です」


男はそう言うと、懐から古びた水晶を取り出した。

「これは、ヴァイスハイト家に古くから伝わる『記憶の水晶』。……かつて、精霊を裏切った王の非道を嘆いた、初代の巫女様の思念が込められています」


男は、祭壇に向かって静かに水晶をかざした。

すると、水晶から柔らかな光が溢れ出し、祭壇の表面に刻まれた文様が、まるで共鳴するように淡く輝き始めた。


光の中に、幻影が浮かび上がる。

それは、遠い昔の記憶。

豪華な玉座に座る王と、その前に跪く、セレスティアによく似た面立ちの美しい巫女の姿だった。


『――どうか、お考え直しください、陛下! 精霊様との誓約を破れば、この国に必ずや災いが!』

『黙れ、巫女よ! その力を、なぜ人である我らが敬わねばならん! 力は、支配するものだ!』


王は、巫女の訴えに耳を貸さず、兵士たちに命じて彼女を取り押さえさせる。

そして、彼女の目の前で、精霊を祭壇に封じ込める、非道な儀式を始めてしまった。


『ああ……! お許しください、精霊様……。我が王の愚かさを……。いつか、必ず、我が血を引く者が、貴方様を解放しに参ります……。それまで、どうか、この大地を滅ぼさないで……』


巫女の悲痛な祈りが、地下空間に響き渡る。

それこそが、彼女が最後に遺した、強い思念だった。


幻影が消えた後、祭壇を覆っていた邪悪な呪いの気配が、わずかに和らいでいた。

魔物たちの動きも、明らかに鈍っている。


「……巫女の想いが、呪いを中和したのか」

レオルドが呟くと、魔術師は静かに頷いた。

「はい。しかし、これだけでは足りません。封印を完全に解くには、やはり、現代の【聖癒】の巫女――セレスティア様の力が必要です。……陛下。どうか、妃殿下を、この場所へ」


レオルドは、一瞬、ためらった。

こんな危険な場所に、愛する妻を呼び寄せるわけにはいかない。

だが、他に方法はない。


彼は、覚悟を決めた。

「……分かった。騎士たちよ! 妃殿下を地下へお連れするための道を確保する! 何としても、この場を死守しろ!」


王の決意に、騎士たちの士気が再び燃え上がる。

レオルドは、謎めいた宮廷魔術師に鋭い視線を向けた。

「礼を言う、魔術師。お前は、何者だ? なぜ、ヴァイスハイト家の秘密を……」


すると、男は初めて、穏やかな笑みを浮かべた。

「私の名は、アルフォンスと申します。……かつて、初代の巫女様にお仕えした魔術師の、末裔にございます。我が一族は、代々、妃殿下のような御方が現れるのを、影ながら待ち続けておりました」


彼は、レオルドに向かって、深く頭を下げた。

「さあ、陛下。女神を、お迎えする準備を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ