歌番組
翌日から始まったのは、歌番組に向けてのダンスの振り入れ。
私は自分の分の2曲と、ルテラの1曲の合計3曲。
踊ることも歌うことも大好きなので全然苦ではないのだが、ルテラの方では“大スワン”というアクロバットの大技がある。大技ができる研修生は少ないし、事務所内でもできる人間は限られている。
そして大体こういう大技をする時のメンバーは決まってる。
全体の安全対策もしっかりするためでもあるし、ある種の信頼関係も必要だからだ。
ルテラで大技をする時、土台となるのはルテラのメンバー。柊弥くんがいれば伊集院三兄弟でも可能。
女子でここまでアクロバットができる子は少ないので、私の場合は親族でもあるし一緒に練習をしてきたメンバーで行うとなっている。
他にも一緒に大技できる人間はいたのだが、アイドル部ではなく違う部門に行ったためこうやって一緒にアクロバットや踊ったりする機会がかなり減ってしまったということもある。
「あー、久しぶりに踊った。アクロの練習した。」
リョーさんから休憩と言われ、カバンからペットボトルとタオルを取り出し、前面の鏡を背にズルズルと座り込む。
隣には、同じくドラマの撮影が終わり合流した咲弥が当たり前のように座っている。
「なんか、バク宙の感覚が変だった。太った?」
「太ったというより、身長が伸びたからじゃない?」
「あぁ、確かに。前回アクロしたの中2か。」
「約2年前じゃん。その時に比べたら身長10センチ以上伸びたでしょう?」
「確かに。あとで、恭弥に頼んでアクロ練もうちょっとしよう。今のままはできなくはないけど少し不安だわ。」
「アクロはね、それが一番安心できるし、緊張してても大丈夫になるもんね。」
と2人で話している。
今回ルテラのバックにつく研修生の中で、同期はアイドル部には残っていないので全員後輩という扱いになるし、あまり話したことないからどう、絡もうかな?と距離を正直測り中である。
後輩側も、どう接したらいいのかわからないような雰囲気が伝わってくる。
「私たちってそんなに怖いのかな?」
「怖いというより、デビュー組だからじゃないか?」
「関係なくない?ねぇリョーさん、今回バックにつく中で最年長いくつ?」
「君らが最年長だよ。最年少は中1。」
「まじか。」
リョーさんに今回のバックにつくメンバーの年齢を聞いて驚いた。
バックの平均年齢若いなーなんて考えていれば、休憩時間は終わり一度全体で通してみるらしい。
私も咲弥もアクロ組なので、最初はステージ脇からの登場である。
イントロが流れ、ロンダートからのバク宙でステージに入り、センターに立つ。
そのまま振り付け通りに踊り、大スワンの時は組む相手がいないので場所に移動するだけで、そのまま続けてダンスをして、最後の決めポーズまで取れば映像のチェックが入ってダメ出しが始まる。
それに耳を傾けながらバックダンサーの配置など思い出す。
問題というか少し不安なのは入りのアクロバット。
あとスワンの着地地点くらい。
すれ違いの部分がちょっと怪しいなと感じているし、それは咲弥も思っているようだ。
「リョーさん、次私前で見てていいですか?」
「わかった。咲弥はどうする?」
「俺は、入ります。」
鏡に背中をつけ再び座ると、バックの子たちのパフォーマンスを見ることにした。
私が前にでたということは、ダメだった時点で音楽は止まるしダメだと思った子は容赦なく外す。
外すといってもメンバーからではなく、全体の動きをしっかり覚えさせるためにだ。
みんなのの動きが分かれば、自分がダメ出しされた事も視覚でわかる。
一曲終わるまでに何人残るかなーと、苦笑した。