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未だの桜我と恋人になれたという状況に、頭と体が追いついていない状態だが何か変わるかと言ったら特に変わらないのでは?と冷静な自分もいる。
「なっちゃんさ、付き合ったこと事務所に報告する?」
「天音ちゃんには報告はしておく。事務所は“結婚”が絡んだ時にだけ報告すればいい意思、天音ちゃんが把握しておけばもし何かあったとしても、すぐ対応してもらえる感じ。そっちも似たようなルールなんでしょう?お父さんに聞いた。」
「え?俺、なっちゃんと結婚する気でいるんだけど。」
「んえ?!ちょ、それは色々飛ばし過ぎでは?」
「俺言ったじゃん。結婚したいと思った人にしか告白しないって。だから、俺の中でなっちゃんと結婚は次の段階なんだけど。」
「桜我の性格も大体この7年で把握してるよ?ただ恋愛観に関しては全く情報がなくてね?その、それは本気で言ってたの?まだ、わかんないじゃん。そりゃ私も結婚できたら嬉しいけれど、今は仕事が楽しいし。」
「俺、離す気ないよ?」
「色々、重いな。」
「重い男は嫌い?」
「いや、身近に似た方がたくさんいるので抵抗はない。」
「よかった。」
ニコニコ笑顔で運転する桜我の横で、まさか桜我もか。
と思ってしまった。
基本的に我が家というか、お父さん達が超愛妻家で力関係で言うと、お母さん達女性陣が強い。
女性が嫌がること、友達としても相手が嫌がることをするのはしちゃいけないという考えで育ったうちの兄達は、お手本をそれぞれの父親にして言えるので、ヤキモチ妬き具合はそれぞれの家庭に依るが、好きになった相手にはとことん尽くすというか、大事にする傾向があるし、まぁ女性の立場から見れば少女漫画から出てきたような人柄に近いのでは?と思ってしまう。
なので、人生初の彼氏がやはり父親と同じ考えの人と付き合うのは育った環境なのか? と考えてしまう。
お父さん達も学生からの付き合いで、お互い初めて付き合った人と結婚をした。
という話を幼い頃聞いていたので、それもありか、という考えである。
「あ、桜我、一つ言っておくけど私、すぐ同棲するのは反対派だから。結婚を前提に付き合うのもわかるけど、まずは、恋人期間ていうのも楽しみたい。それに一緒に住みたいって自然に思うまでは同棲反対派だから。あ、でも私が桜我の家へ、たまにお泊まりに行くのは全然構わないよ。我が家は咲弥が一緒だからね。」
「咲優先ってこと?」
「私の気持ちが追いつくのを優先してるだけ。今普通に話してるけど、異常にドキドキしてるから。なんか、役に入り込んでその人で頭がいっぱいになった時以上に、ドキドキしてるから。ちょっと本当にしばらく色々環境を変えるのは勘弁して。気持ちが落ち着くのを待って。」
「何それ、スッゲェ可愛いんだけど。ねぇ、チューしていい?」
「前向いて安全運転してください。」
「ちぇ。」
と拗ねたような声を出す、桜我から視線を外にずらす。
赤く熱っているであろう頬を両手で押さえながら、恥ずかしくて、桜我のこと見られないなんて、自分自身でも驚いていた。
しばらく走った車はちゃんと会社の寮の駐車場に入って、地下のロータリーまで送り届けてくれた。
「運転ありがとう。今日も、楽しかった。」
「んふふふ。いいえ。楽しんでもらえてよかった。また、オフが重なったら遠出しようね。」
「うん。あ、でも3人でもお出かけしたい。」
「む。咲も?」
「あはは、アヒル口久々見た。3人の関係性も変わらないでしょう?それに私と結婚したら、桜我と咲弥は従兄弟だよ?」
「あ!そうか。昴くんも従兄弟で、月都くんが義理のお兄ちゃんになるじゃん。」
「まぁ、先のことは今は置いておいて、気をつけて帰ってね。」
車から降りて桜我と少し話す。
「ん、おやすみ。なっちゃん。」
身を乗り出してきたかと思っていたら、軽くキスをされて満足げな表情をした。
「・・・おやすみ・・・。」
私が挨拶を返してドアを閉めると、桜我の車はゆっくりと発車した。




