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ドラマの撮影が進んでいくにつれて、ゴリゴリ削られていくのは私のメンタル。
今日も今日とて、ドラマの撮影の後声優の方の収録を終えて帰宅した私はそのままリビングのソファになだれ込んだ。
だめだ、ちょっとメンタルやばい。
咲弥ももう少ししたら帰宅するらしく、どうしようかと考えていれば“ただいま~”と玄関から咲弥の声が聞こえた。
「おかえりー」
と、応えればあぁやっぱりと言いたげな咲弥と視線が合う。
「明日の歌番組大丈夫??」
「大丈夫じゃない。もぉ、ヤダ。」
「うんうん、分かる分かる。いくら初のお芝居だとしても、そろそろ俺も怒る。」
「彼女、お芝居舐めてんの?一生懸命やって空回りするなら、いい。全力でやってNG出すならそれも構わない。構わないけど、桜我とのアクションシーン及び、2人でのシーンでNG連発って意図的でしょう?私喧嘩売られてる?!で?キスシーンが恥ずかしくてそこもNGって何?!は?私好きな人と実の父親の前で、しかも従兄弟とキスシーンからベッドシーンまであるんですけど?それでも私はちゃんとお仕事演じてますが?しかも演技相談もしてますが?!」
「どうどう。そこはね、俺も思う。俺、叔父さんもいて超複雑なんだけど。」
「ねぇー!?あー腹立つ!!桜我も甘やかしすぎだし、ムカつく!!」
クッションに八つ当たりをしながら、ここ最近の撮影現場の文句をいう。
私と咲弥が座長だから、現場では和やかにスタッフや共演者が過ごせるように色々配慮しながらしているのだが、ここまで邪魔されるとイライラする。
でも事務所が違う私たちが、彼女の演技の練習などについてアレコレいうのはどうかなと思う。
もちろん質問されたら、ちゃんと考えて答えるのだけど。
「ここはもう、お父さんに相談すべき?でもそれだと、親に泣きついてとか、親の七光りとか言われそうだからいやー」
「まぁ、もうあの子はそういう子と思って無関心でいよう。俺たちは俺たちの演技に集中してね。実力の差をね。」
「咲弥もなかなか。」
「当たり前じゃん。俺誰に対しても優しい俳優さんじゃないのよ。とにかく、明日の歌番組頑張ろ~」
「そうだね~」
お互い我慢していた気持ちを吐き出して、明日の歌番組に気持ちを切り替える為にいっぱいご飯を食べて甘いものも食べて、2人でゲームをした。
なっちゃんと出かけた後、確実に以前より距離を感じるようになってオファーがきたドラマの主演がW主演で咲弥となっちゃんと聞いて、俺は話の内容も確認をせずに即答した。
俺の役は、旦那さんがいるなっちゃんに横恋慕する役。しかも、旦那役である咲からは全力で牽制される役だ。
そんな俺の役に片想いしている役に、ノスタルジアのすずが抜擢された。
初めてのお芝居で、アクションモノで恋愛もの。アイドルとしても俳優としても先輩だからという理由で、撮影中ずっと彼女に付き添っていた。
咲となっちゃんの夫婦バディと、俺とすずの新人バディ。なんだけど、俺の教育係はなっちゃん、すずの教育係は咲。もちろん俺とすずの2人のシーンは多いし、同じようになっちゃんと2人のシーンも多い。
そして、大体、アクションシーンじゃない時の撮影は、ラブシーンというかラブコメ部分、日常パートの撮影が多い。
クランクインして、すずがNGを出すたび現場は微妙な空気が流れる。
収録時にNG出さないように事務所の練習室でも演技の練習だってしている。それでも本番になるとNGが連発するのは、なんだろうと考える。
咲となっちゃんは特にすずの演技には何も言わない。
言わないからこそ、怖いというか。このドラマには大先輩で、なっちゃんのお父さんでもある、長谷川さんも出演されている。
長谷川さんに怒られる覚悟はできているし、すずにその自覚があるか分からないけれど、クランクインした頃に比べるとNGの回数は減って来ている。
明日の歌番組には、期間限定ユニットとして、咲となっちゃんも一緒に出演する。
歌番組だからすずも本業だし大丈夫だと思いたいのだが、なんだか嫌な予感しか無い。
なっちゃんとの距離も、元に戻らないまま今に至る。
「はぁ~・・・・なんでこうなっちゃたんだろう。」
と呟いた一言に、答えてくれる人はいない。
今となれば、咲の言っていた理由も分かる。分かるからこそ、少しでもなっちゃんと話したいし仲直りをしたい。けど、このドラマが無事に終わるようにと願いながら大きなため息をついた。




