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スマホの電話が切れた後、すぐに折り返しをしたけれど咲は出てくれなかった。
個人にも、グループの方でも2人からの反応はない。
なっちゃんを泣かせた事も、咲を本気で怒らせたことも初めてで駐車場に停めた車の中で、大きくため息をついた。
昨日のドラマは過去一番衝撃を受けたというか、驚いた。
俺たち3人はそれぞれ俳優業もさせて貰っていて、キスシーンなんて恋愛ドラマに出演したら最低一回はある。
だからキスシーンなんて見慣れているはずなのに、今回はキスシーンからのベッドシーンで成人をした後の撮影だし、可能性は全員にある事だと思っていたのにいざ、そのシーンを観て、いつもみたいに作品として見ることができなかった。
これが、咲だったらそんなに衝撃は受けてない。
なっちゃんだからだと、自覚しちゃって演技が上手いから作品の中に入り込んでしまって、いつもならすぐ感想を送るのにそれを送ることはできなかった。
そんなドラマを見た翌日に、なっちゃんと2人でお出かけできっと聞かれると思ったけれど、話している内にだんだん気持ちがモヤモヤしているのを自覚して、それをなっちゃんに当たってしまいそうで“帰ろう”と言ったし、なっちゃんの顔を見ることなく、車に戻ったしなっちゃんを寮に送り届けるまで無言でいたし、お礼を言ってくれたのにそっけなく返事をしてしまった、自分の態度に後悔しか出てこない。
その原因が、“嫉妬と独占欲”とはっきり言われてしまい何も言い返せなくなった。
再度、ため息を吐き車から降りて家に帰れば、スマホをベッドに放り投げお風呂に入った。
お風呂から上がってきて、スマホの通知が来ているから咲かなっちゃんかな?と思ったら、後輩のすずだった。
内容は今日あった事とか、コレできるようになりましたとか、ダンスや演技での相談が多い。
そんな内容が、学生時代のなっちゃんと被って、ついついアドバイスをしてしまう。
昴くんや月都くんは苦手なタイプだと言っていたけれど、後輩から慕われるのは悪い気はしないからという理由でこうして、メッセージのやり取りをしている。
基本的に俺は、事務所関係なしにお仕事を二、三回させてもらったら連絡先を交換はする。男性が多いけど。
女性は主に同じ事務所の人に限られる。
それ以外は学生時代の友達。ノスタルジアの2期メンバーとは全員連絡先を交換をしているし、先輩である一期生とも連絡先を交換しているから、別に変なことじゃない。
メッセージに返事をして、ベッドに雪崩れ込めば、別れ際の申し訳なさそうな表情が頭から離れない。
ちゃんと笑えなかった自覚はある。
キスシーンなんて俺だってあったし、だけど、小鳥遊くんに嫉妬したのは納得できる。
今後なっちゃんの、大人なシーンがあっても事前に教えて欲しいと言えば、教えてくれるだろうけどそうじゃなくて俺にだって相談して欲しいし、あんな蕩けたような表情を公の電波で配信して欲しくない。
でも、自分のわがままでなっちゃんのお仕事の幅を狭めることはできないし、堂々とヤキモチや独占欲を出していい関係性ではない。
関係を変えるのは怖い。だけどなっちゃんに彼氏ができたら今以上に大荒れする。絶対する。
今度仕事でなっちゃんにあったら、今日の事をしっかり謝罪した上で自分の気持ちを伝えようと思う。
初めて咲と喧嘩をした後から、ずっと2人と連絡が取れない。
メンバーからの昴くん、月都くんからも特に何も言われない。
逆にそれが怖かったりするけれど、状況が何も動かないからどうしようもない。
咲と仕事が被ることはない。
なっちゃんとは歌番組で会うけれど、確実に避けられている。
でも、最低限挨拶はしてくれる。だけど視線は合わない。
そんなちょっとした事で凹んだりして、どうしようかと悩む日々が続いていた。




