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急展開のことで事情がよくわからないまま、帰宅した私を迎えたのは、同じように「どうした??」と表情をした咲弥だった。
「・・・ただいま。」
「おかえり。何?どうしたの?何があった?」
咲弥の顔を見て、安心したのかボロボロ涙が勝手に流れてきて自分でもよくわからない状態だったけど、咲弥にされるがまま動かされて、リビングのソファに座って私が泣き止むのを咲弥は黙って待っていてくれた。
私が泣いている間、小さい頃から変わらず手を握ってくれて頭を撫でてくれる。
「落ち着いた??」
「・・・ん。」
「一つ確認だけど、告白はできてないよね?」
「ズっ、……できてない。」
「水族館の後から何があったの?」
と、咲弥に話していなかった部分を時系列で説明をしていく。
説明をしている間、咲弥がだんだん怒ってきている雰囲気が無意識のうちに伝わってくる。
「梛月、お風呂入っておいで。梛月は何も心配しなくていいし、梛月は悪くない。100%悪くない。」
「・・・え?」
「泡風呂でもしてのんびりお風呂に入っておいで。大丈夫だから。」
わしゃわしゃと頭を撫でた咲弥は、スマホとお財布を持ってコンビニ行ってくると言って外に出て行った。
私はとにかく咲弥に言われた通り落ち込んだ時用の、入浴セットを取り出してノロノロと動き出す。
咲弥のあの雰囲気からしばらくは帰ってこないというのはわかる。
久々に咲弥が、怒ってるところを見たかもしれないと、思った。
「ねぇ、桜我、梛月に何を言ったの??」
梛月をどうにかお風呂に入るように促し、コンビニに行ってくると言って財布とスマホを持って家を出た俺は、すぐ桜我に電話をかけた。
梛月の話を聞く限り、梛月に非はない。俺達3人が出演したドラマや映画に関して感想を言い合うのは当たり前のことで、ドラマや映画じゃなくても各々出演したものに関しては、お互い紹介したり感想をいうのは当たり前。
感想がなければ、どうだったか確認するのもいつも通り。
何より、今日梛月は桜我に告白すると覚悟を決めて出かけて行ったのに蓋を開けてみれば、落ち込んで帰ってきた梛月はボロ泣きだった。
「何も言ってない。」
「何も言ってないわけないよね?言ってないならなんで梛月は泣いて帰ってきたの?理由は?」
「・・・・ごめん。」
「ごめんじゃなくて、理由を聞いてるんだけど。梛月は昨日のドラマの感想を聞いただけだよね?」
「・・・昨日のドラマのお話、ショックだった。」
「は?何かショックを受ける要因あった?」
「なっちゃんの、キスシーンとベットシーン。咲と意見交換したんだろう?」
「俺と梛月が演技に関してお互い相談して、どう表現したらいいかと話し合うこともいつも通りじゃん。ベットシーンに関しては恭弥を筆頭にみんな荒れてたし。“びっくりして、ちょっとまとまんない”とか、話したくないなら、“観れなかった”とかでもよかったわけじゃん。」
「・・・すごく嫌だったんだよ。演技だと思っていてもあんな表情見たくなかったし、露出だってギリギリだったじゃん。小鳥遊さんは見たって事だろう?」
「何?琥珀くんに嫉妬して梛月泣かしたの?その辺りの対応はしっかりして撮影するって桜我だって知ってるだろう?琥珀くんは関係ない。」
キッパリ言い切れば、黙り込んだのは桜我。コンビニに行くと言って家を出てきたので、梛月の好きなお菓子との飲み物、アイスを買って寮へ移動する。
その間桜我はずっと黙り込んでいて、話が進まない。
寮のエントランスに到着して中に入れば、わざと大きくため息をつく。
「桜我、お前月都くんに怒られるといいよ。ただの嫉妬で独占欲じゃん。梛月の気持ち考えてないし。梛月が月都くんに話すかどうかは知らないけれど、桜我はこれ以上話す気ないみたいだから切るわ。梛月待ってるし。じゃあな。」
とエレベータに乗ると同時に強制的に通話を終了させた。
しばらく、桜我と連絡は無視しよう。梛月にもしばらく通知無視するようにさせて、本業に集中するようにさせよう。
久々にイライラしたし、桜我の事情を聞いてみようと思ったが全く本音というか気持ちを認めたくないのか話さなかったので、電話は強制終了する。
帰宅をすれば、お風呂上がりと泣いたせいでボヤボヤしている梛月がリビングのソファでスマホと睨めっこをしていた。
「ただいまー。梛月ちょっとスマホ貸して。」
「おかえり。何するの?」
スマホを俺に渡してきた梛月のんびり質問に答えるのは、設定を完了させてから。
「ちょっと、桜我の言い分を聞こうかと電話をしてたんだけどちょっと俺の地雷を踏んだからしばらく反省させる為に、通知を止めようかと。解除したらダメだからね。」
「分かった。」
「梛月はいつも通り、お仕事に全力で挑んだらいいよ。俺もそうするし。息抜きは俺と一緒に行こう。」
「うん。分かった。私もちょっと気まずいというか、話せる状態じゃないし。」
「あぁ、櫻井すずに関しては最強遺伝子に丸投げしよう。昴くんと月都くんがきっとどうにか対応してくれるはずだから。」
「新曲リリースしたばかりだからね、どこのグループも。ノスタルジアと一緒になるかわからないけれど、気をつけておきます。」
「俺と期間限定でユニット組む?」
「それは、事務所に行ってください。」
スマホを返して、コンビニで買ってきたお菓子やアイスと飲み物を取り出して、本日はチートデーにしようと話した。




