表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨漏り

 きっかけは夏の雨だった。


 ヘッドホンを外した時に、ふと耳に飛び込んできた、ポタン、ポタンーーという音。


 雨漏り――?


 いや、そんな訳ない。

 だってここは、集合住宅の1階なんだし。


 上の階の人間の仕業か。

 いや、それにしてもおかしいんだ。


 格安アパートの間取りなんか変わりゃしないんだから。

 こんなところに水場はない。


 じゃあバケツでもひっくり返したか。

 なんにせよ迷惑この上ない。


 文句でも言ってやろうかと思ったけど、それはちょっと面倒だったし怖かった。


 水をひっくり返しただけなら、漏れてくる量も知れてる。

 そう思って、バケツだけ設置して、僕はまたヘッドホンを付けた。



 ポタン、ポタンーー



 ゲームに集中していた僕の頬に、何かが跳ねた。

 撃ち殺されてしまったキャラクターに舌打ちしてヘッドホンを外す。


 ふと見上げると、僕の真上から水が垂れてきていた。

 設置したバケツを見れば、水は少しも溜まっていなかった。



 ――さすがにこれはおかしい。



 意を決して、上の階の住人に文句を言う事にした。



 上の階の住人は居なかった。


 留守にしてるんじゃなくて、住人が居なかった。

 カラカラと音をたてる、ネームプレートの無い郵便受け。


 それを見て、僕はふと、自分の部屋のポストを確認したくなった。



 名前と――

 表札――


 カラカラと鳴っているポスト。



 ――あれ?そう言えば僕は、いつからここに住んでるんだっけ。




 いつの間にか雨は止んでいた。

 陽射しは強く、コンクリートの地面には影がくっきりと落ちている。


 ただ、僕の足元には――



 蝉の声は聞こえなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ