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雨漏り

作者: .N

 きっかけは夏の雨だった。


 ヘッドホンを外した時に、ふと耳に飛び込んできた、ポタン、ポタンーーという音。


 雨漏り――?


 いや、そんな訳ない。

 だってここは、集合住宅の1階なんだし。


 上の階の人間の仕業か。

 いや、それにしてもおかしいんだ。


 格安アパートの間取りなんか変わりゃしないんだから。

 こんなところに水場はない。


 じゃあバケツでもひっくり返したか。

 なんにせよ迷惑この上ない。


 文句でも言ってやろうかと思ったけど、それはちょっと面倒だったし怖かった。


 水をひっくり返しただけなら、漏れてくる量も知れてる。

 そう思って、バケツだけ設置して、僕はまたヘッドホンを付けた。



 ポタン、ポタンーー



 ゲームに集中していた僕の頬に、何かが跳ねた。

 撃ち殺されてしまったキャラクターに舌打ちしてヘッドホンを外す。


 ふと見上げると、僕の真上から水が垂れてきていた。

 設置したバケツを見れば、水は少しも溜まっていなかった。



 ――さすがにこれはおかしい。



 意を決して、上の階の住人に文句を言う事にした。



 上の階の住人は居なかった。


 留守にしてるんじゃなくて、住人が居なかった。

 カラカラと音をたてる、ネームプレートの無い郵便受け。


 それを見て、僕はふと、自分の部屋のポストを確認したくなった。



 名前と――

 表札――


 カラカラと鳴っているポスト。



 ――あれ?そう言えば僕は、いつからここに住んでるんだっけ。




 いつの間にか雨は止んでいた。

 陽射しは強く、コンクリートの地面には影がくっきりと落ちている。


 ただ、僕の足元には――



 蝉の声は聞こえなかった。


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