表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「春の裾」  作者: 宇地流ゆう
第2話 祈りと束縛
7/13

3. 束縛


 夜の礼拝堂で、身動きのできなくなった私に、ユアンが問いかける。

 「教えてほしいな……君にとって、信仰って何?」––−−−


◎第2話「祈りと束縛」2 の続きエピソードです!


⚠︎まだギリギリR15です

⚠︎軽度SM、言葉責めあり


 何が起きたのか理解が追いつかないまま、ユアンは片手で私の肩を押さえつけながらも、もう片方の手に持った縄を私の頭上に持っていき、慣れた手つきで椅子の手すりに固く繋ぎ止める。


「ユアン、何して……」


 声を上げようとした私の唇に、ユアンはそっと人差し指を添えて、「しーっ」と制す。


 こちらを見下ろすユアンは優しく微笑でいるのに、その瞳の奥には、獲物をとらえる獣のような妖しい光が輝いている。


 私の腰の上に重力をかけるようにまたがる彼。両手の自由も奪われていたが、どうにか両足で抵抗しもがくこともできたかもしれない。


 が、その突き刺すような冷酷な視線に射抜かれると、私は哀れな兎のように硬直して身動きもできない。

 そう、茂みから突然襲いかかってきた捕食者に気づいた時、大抵の獲物はもう手遅れだ。

 

 ……そんなことわかってたはずなのに……!

 

 声も出せずに、息を呑みながら彼を見上げていると、ユアンの冷たい手が、ふと私の頬に触れる。


「怖がらないで、姉さん。傷つけたりしないから」


 そう優しく囁く声も、彼が昨日見せた本性を知ってしまった後では、安心できるどころか、不気味さと緊張を掻き立てるものでしかない。


 鼓動が礼拝堂に響き渡るほど早くなっていくのを感じながらも、彼の手はまるで恋人を愛撫するかのように、繊細に私の輪郭をなぞっていき、その親指が私の下唇にそっと添えられる。


「教えてほしいな……君にとって、信仰って何?」


 彼はこちらを見下ろしながらも、口を開く。


 その表情も言葉の意図も、そしてなぜ自分が礼拝堂の長椅子に縛られているのかもわからない。


 さっきまで敬虔な信徒のようにキリストに祈りを捧げていた彼はもうどこにもいなくて、反対に、どこか悪魔的な微笑みを宿したユアンは尚も質問を重ねてくる。


「心の支え?救い?」


 張り詰めた空気に息が詰まりそうになりながら、私は震える声を漏らす。


「何を、言ってるの……」


 一体何をする気なの?またナイフで脅されるのか、それとも…


 いいえ、ここは教会よ?あの純粋ぶった信徒のような仮面を今こうやって剥いでいても、流石にこんなところで不道徳なことや不謹慎なことはしないはず。


 そう自分に言い聞かせても、心のどこかでそれを疑う声が響くのを感じる。


「僕にとっては束縛かな。でも、僕はおよそ人々の言う『宗教』に感謝してる。だってその束縛の縄こそが最高の快楽になり得るからね」


 彼はそう言って、わざとらしく私の手首と椅子の手すりを繋ぐ縄をさらに固く締め付けた。麻紐がグッと手首に食い込んでくる痛みに、思わず唇を噛む。


「……っ!」


 彼が何をし出すか全くわからないという恐怖と不安に、身体が強張っていく。


「は、離して、どうしてこんなこと……」


 微かに首を振りながら、半ば懇願するように彼を見上げても、彼は逆にますます愉しげな表情を浮かべるだけ。


「姉さんはあの小包について気になっていただろ?その秘密の小包を君にあげるためだよ……正し、存分に『準備』をしてからね」


「い、要らないわ、そんなの!」


 私は思わず首を振って拒絶した。もう今となってはあんな小包、どうだっていい。それより、ここから逃れる手立ては……


「それに、姉さんに僕のことをもっと知ってもらうためだ」


 彼はふと身を屈めて、私に顔を近づけながら囁いた。


 蝋燭の明かりに照らし出された端正な顔、深い緑色の綺麗な瞳がこちらを真っ直ぐに捉える。

 でも、その妖艶な輝きに誘い込まれてはだめだと、本能が警鐘している。


「そ、そんなのとっくに昨日知ったわ、貴方が嗜虐趣味の……」


 思わず言い返そうとすると、ユアンはそれを遮って言葉を重ねる。


「まあまあ、そう端的に片付けないでくれよ」

 微笑みながら、私の髪を軽くなぞる指先。


「僕は信仰心こそないけど、信念はある。この世を存分に楽しもうという信念がね」


 彼の言葉に嘘偽りはなさそうだったが、その意味を理解するなんて到底できない。


 (なんなの、その信念……)


「君も知ってるだろう?人間はいけないと思うからこそやってしまいたくなる性分だ」


 彼はまるで学者が論を展開するように淡々と語り始めた。


「なぜなら禁忌は『制約』であり、『制約』は人間の本能にその先の『不可知域』を仄めかす」


 彼は整然とした口調でそう言いながら、私の首筋から鎖骨へとゆっくりと手を滑らせた。

 その焦らすような手つきに、身体がびくりと跳ね上がる。


「……っ!」


「つまり、『背徳』とは、一種の知的好奇心だよ、姉さん」

 

 彼の口調はあくまで優雅で穏やかだったが−−−−動く手は、まるで理性のかけらもなかった。


 冷たい彼の指が、まるで私の体温をゆっくりと確かめるように肌に沈み込んでいく。


「やっ…やめて、ユアン……!」


 反射的に身を捩って抵抗しようとしても、手首は相変わらず頭の上できつく縛られていて、その無力感に絶望する。全身が緊張しているせいで、彼の手の感触を何よりも敏感に感じ取ってしまう。


「もう遅いよ、姉さん」


 彼の顔がすっと近づき、耳元で囁かれた意地悪な低い声が、ゾクゾクと身体の奥に響く。

◎次回 第2話「祈りと束縛」4は R18になってしまうので、ムーンライトに掲載しております。↓

https://novel18.syosetu.com/n0436kd/1


◎18歳以下、苦手な方は飛ばしてください。飛ばしてもストーリーはつながります!


◎次回、「第3話 ロイヤル・ローズとジギタリス」

夫ジェームズとささやかなアフタヌーンティーを楽しむジゼルだが、夫婦仲のことを考えていると、なぜか昨夜の熱が蘇り....


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ