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「春の裾」  作者: 宇地流ゆう
第1話 ユアン・トレバート
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3. 幽霊



「まだ私が幽霊かどうかお確かめになっていませんね、ジゼル」––––

 消えたメイドの行方を追っていた私の後ろに、音もなく現れる優しい顔をした義弟、ユアン・トレバート。


 突然視界が揺らぎ、辺りは暗い。目の前には殺意を宿した弟の顔が.......


⚠︎R15くらいの性的表現あり

なかなか食事の広間に進まない足をなんとか引きずるようにして廊下を進んでいると、見た事のあるメイドが少し先の廊下を足早に歩いているのが目に入った。


 今日ホフマット卿と壁の影で会話を交わしていたメイドである。


 わたしは少し速度を落として様子を伺う。彼女は前掛けをたくし上げて何かを包み隠しているようだった。もしかして先ほど彼女が受け取った品物だろうか。少し急いでいるところを見ると、小包の受取人である主人、つまりユアン様に届けようとしているらしい。


彼女が廊下の突き当たりを右に曲がってその姿が見えなくなると、わたしはさっと壁陰に隠れて聞き耳を立てた。きっとユアン様との会話があるだろうと予想していたわたしは、その廊下の沈黙に動揺した。


 先ほどまで聞こえていた、メイドの革靴が床を叩く足音さえ聞こえないのだ。

 

 まさか角を曲がったところで宙に浮く訳でもないし、と首を傾げながら思い切って角を曲がるとそこにメイドの姿はなかった。

 一本道の廊下が続いているし、人が隠れられるような柱や壁のくぼみもない。


 ……消えた?

 

 わたしはおそるおそるメイドの消えた廊下を進んだ。妙に静かで、自分の靴が床を叩く音だけが聞こえる。


「ジゼル、何か探し物でも?」


 それまで緊張していたゆえに、わたしは突然の背後からの声に思わず悲鳴を上げて飛び退いた。

 

 すぐそこには、まるで自然な様子のユアン様が立っている。音も気配もなくこんなに至近距離まで接近できるなんてかなり気味が悪かったが、あからさまに疑うような表情をするのはまずいと思い、わたしはすぐさま笑顔をつくった。


「嫌だわ、ユアン様。幽霊みたいに急に現れるんですもの。私、さっきメイドからこの廊下のお化けのことを聞いたばかりなのよ。ああ、驚いたわ」


「この廊下のお化け?」


 ユアン様の眉が一瞬ぴくりと動く。


「ええ、そうよ。あら、待って、あなたもしかしてお化けじゃないでしょうね?」


 わたしは状況を変えるために少し冗談めかして言ったが、ユアン様に対してはこの手の投げかけは冗談ごと彼に包まれてしまうので逆効果だったかもしれない。


「わからない、試してみますか?」


 彼は誘うような目でわたしを見つめるので、わたしは呆れたようにため息をついて軽く受け流す。


「ユアン様、夜のお食事に遅れますわ。他の方々を待たせては申し訳なくってよ」


 わたしがさっと歩き始めると、ユアン様はぴったりとわたしの横をついてきた。


「ええ、ご婦人方のお茶会や庭園散歩はパスしても、夜のお食事は絶対ですからね」


 わたしは彼の何か含んだような物言いに引っかかった。わたしがさっきメイドのコレットに話していた事をまるでそばで聞いていたかのような口ぶりである。わたしはなんとか平常心を装って笑ってみせた。


「あら、今日お会いしたばかりなのに、もう私のことをよくご存知でいらっしゃるのね」


「ええ、先ほども御伝えした通り、あなたに興味がありますから」


「ユアン様、興味があるからって覗き見趣味はいかがなものかと思いますわ。それに私はジェームズ様の……」


「おや、あなたがそんなことをおっしゃるとは。ではあなたが先ほど廊下で一生懸命探していたのが何だったか気になるところですね」


 わたしは心の中で息を呑んだ。だめよ、ここで食い下がっては怪しまれるばかりだもの、相手は手強いけれど隙を見せてはだめ。


「だって、メイドが消えたんですもの」

 私は一番真っ当な疑問を素直に言った。


「確かに彼女、あの角を右に曲がったはずなのに、わたしが角を曲がるとこつ然と姿を消していたのよ。他に別れ道があるわけでも、彼女が幽霊になったわけでもないし。そしてわたしが不思議に思っているところに、突然あなたが音もなく現れたりするんですもの。偶然にしてはおかしいと思わなくって?」


 わたしが攻めに入ると、彼は一瞬目を細めた。それから彼はおもむろに綺麗な半円形の笑みをその口に浮かべた。


「まだ私が幽霊かどうか御確かめになっていませんね、ジゼル」


「ユアン様、私は真面目に……」


「様、はよしてくれと言ったのですが」


 そんな言葉が聞こえた次の瞬間、なぜか私の視界がぐらりと揺れる。


 –––– !?


 肩をグッと強く押されてよろけたこと、そしてそこにあったはずの壁がいつの間にか無くなっていて、暗闇に吸い込まれるようにして倒れて込んだこと、そして扉がバタン、と閉じるような音が聞こえたのはわかった。


 辺りを覆う薄暗闇と、顔のすぐ先で鈍く光る銀の細長い物体。そしてそれが鋭利なナイフだということに気づく頃には、暗闇に慣れた目がその奥で息を潜める彼の輪郭も写し出した。


 .....ああ、そうだ、隠し扉。


そうだわ、きっと私は今隠し扉のついた壁の中の小部屋か何かの中にいるに違いない。曲がった角に一つずつ、最初の角の隠し部屋に、あのメイドは吸い込まれて行ったのだ。


 部屋は二人入ればもういっぱいといった狭さで、殺意のある彼の吐息を肌に感じる程だった。


 わたしは、それなりの理由を抱いた暗殺者が自分に数センチの距離でナイフを突きつけているにも関わらず、あのメイドが消えたからくりを理解したことに対して少しの満足感さえ感じていた。


「それぞれの曲がり角に隠し部屋ね。いったいこの邸にいくつあるのかしら」


 わたしの声は思ったよりも冷静だった。彼は静かに突き出したナイフを横に倒し、わたしの喉元から数センチのところに当てた。ナイフの発するひんやりとした冷たさを皮膚で感じ、わたしは息を呑む。


 そしてその反動でのど仏がナイフの刃に当たったとき、わたしは急に恐怖を実感し始める。


「……わ、わたしを殺したら、どうなるかわかってるの?」


 できるだけ口元を動かさず、絞り出した声で脅しをかけてみたけれど、冷静に考えればわたしの存在が消えたところで、特別誰かに損得が生じることもなかった。

 考えるとすればわたしの父の復讐心を買うぐらいだが、この家の方がわたしの家より権力も領地も広いし、いくらでも潰しはきくだろう。


わたしがこの状況での最善策を真剣に練っていると、彼は突然ふっと抜けたような笑いをこぼした。


「威勢がいいな。ほんとに変わったご婦人だ」


「....脅しには脅しで返すのがうちの家の教えですので」


 わたしは気を抜かずに相手を睨みつける。ここまで意思の読めない人間も初めてだ。


「はは、義理の姉を脅してどうするんです」


 彼はなおも優しい笑みを浮かべている。さっきまでの殺気なんてまるで嘘のようだ。

からかってるの?それにしては喉元のナイフの位置が動いていない。


「じゃあ、何を……」


 彼の言動のちぐはぐさにいよいよ頭がおかしくなりそうになって口を開こうとすると、それを遮るように彼はそっとわたしのほうへ顔を近づけた。


 –––– え?


 不審に思う間もなく、彼はナイフを握る手を動かさずに吐息が交わる距離まで顔を近づけ、半開きだったわたしの下唇を、その柔らかい舌の先で静かになぞり始めた。


「ユアン、なにを……」


 驚きと混乱で上手く声が出てこない。なんといったって喉元近くのナイフのせいで、下手に動くこともできない。

 それを知っているかのような余裕で、彼の舌は下唇からすっと内側に滑り込み、そのままわたしの舌を弄ぶように絡め始める。


 ……っ!?


 唇を閉じることも、拒むこともできないまま、彼の舌がゆっくりと私の口内に忍び込んでくる。

 その優しいながらも熱を持った感触と、凶器を突きつけられている緊張状態が合わさって、心臓が高鳴ると同時に、奇妙な感覚がじわじわとこみ上げてくる。


「んっ.....っ!」


彼の舌はそれでも止まることなく、ぐいぐいとわたしの口の奥まで侵入して呼吸を奪ったか思えば、繊細に上唇をそっと濡らしたりする。


 彼の甘噛みがわたしの唇や舌の先を襲うたびに、胸の奥がこれまでにないほど締め付けられ、感じたこともない甘い刺激に身体が痺れていく。


 呼吸はどんどん荒く、熱っぽくなってわたしの思考回路を奪い、頭をぼうっとさせる。時折感じる数ミリ先のナイフの冷たさが、わたしをかろうじて現実に引き止めている。


 このナイフが彼と私を隔てていなければ、わたしは理性を失って彼の唇を自分から求めることすらしたかもしれない。唇を離すたびに感じる彼の荒い吐息にも熱がこもっていた。


 そして、彼の冷たい左手がふっとわたしの耳を包んだとき、わたしの身体はびくりと震えた。

 一瞬ナイフの存在を忘れていたが、彼はすでにそれをわたしから離し、刃先を下に向けている。


 そこでわたしは無意識に自分の両手が彼の服の袖を求めるように掴んでいることに気づく。慌てて手を離すと、この数秒間の間に起こったことが、それまで完全に機能停止していた脳に洪水のように流れ込んできた。


 隠し小部屋に突然押し込まれた事、ナイフで脅されていたこと、そして、その脅しの延長のように、嫌がらせか、からかいのために今までにされたことのないキスで一瞬意識が遠のいたこと。


「どういうこと……なの」


 まだどくどくと脈打っている心臓をなんとか落ち着かせようとしながらも言葉を漏らす。


 隠し扉の隙間から微かに入ってくる光で、彼の顔がうっすらと照らされている。


 わたしほど呼吸が乱れていないのか、彼はすでに普段通りの微笑を浮かべていた。さっきわたしを散々に乱していたその唇は、何事もなかったかのようにきれいな半円を描いている。


「何度も言ったはずです、ジゼル姉さん。あなたに興味があると」


 わたしはその余裕な表情と言葉に、苛立ちを押さえられなくなる。


「からかうのも大概にして。本音はなんなのよ!」


 わたしは勢いで彼の握るナイフに手をかけようとしたが、彼はさっとそれを後ろに回す。


「殺せばいいんだわ。あなたのゲームにはもうたくさんよ、わたしはあなたの秘密を知りすぎたし生かしておく理由が他にある?」


「たくさん、ありすぎるほどね。一体誰が一目惚れの相手を手にかけるっていうんです」


「は?」


「今日、初めて君を見たときから決めていた」


「な、何を?」


「君にキスすると」


「ナイフと一緒に?」


 わたしは事態の異常さに思わず笑ってしまう。


「普通のキスじゃつまらないじゃないか」


 まるで当たり前のように言うユアンに、呆然としてしまう。


「だからって、人を殺しながらキスする人がいる?」


「殺してないじゃないか」


「殺す気だったじゃない!わたしがどれほど怖い思いをしたと……」


 思わず声を荒げてしまい、ここが秘密の小部屋の中であることを思い出して必死に抑える。


「知ってるよ、君の怖がる顔を見たかったんだ」


 まるでご馳走をいただいたばかりの獣のような目を見たとき、わたしは全てを理解した。


 ああ、そう、そうなんだわ。この人、筋金入りのサディストなんだわ。それも、かなり狂気混じりで変態の。


「昼間、君が初対面の僕に対してなかなか困惑していたのも、見ていて楽しかったなあ」


 彼が含み笑いをしながら続けるので、わたしは我慢ならなくなる。


「ほんとに最低!信じられない」


「最低?ついさっき君をあんなに楽しませてあげたのに?君が今、どれくらい濡れてるか触らなくてもわかるよ」


 そう言って彼は得意げに唇をなめた。わたしは顔が真っ赤になるのを感じた。 


 だめよ、こんなの最悪だわ。一番取り込まれたくなかった要注意人物に完全にペースを呑まれているなんて。


「あなた狂ってるわよ、頭がおかしい」

 わたしは震える声で、なんとか彼を形容する言葉を並べる。


「みんなはそう思っていないさ。この邸で生きるには十分だね」


「みんなって……」


「君以外のみんなさ。僕の本性を知るものは誰一人いない。もっとも、僕でさえわからない時もあるけど」


「その、あなたが狂った変態サディストってこと?」


「聞き捨てならないお言葉だな」


 ユアンはふと眉を顰めるけど、本当に自覚していないんだとしたら救いようがない。というか、この人って、こんな形でしか興奮できないのかしら。


「だって、あなたがジュリエッタやメリルと戯れる時はどうなのよ」


「まさか。あの香水漬けの毛玉達にはそんな気も起こらないよ」

 彼は呆れたように首を振る。


「彼女達には彼女達の望みのものを与えているよ、代わりに彼女達は喜んで僕の欲しいものをくれる。絶対的信頼と憧憬さ。邸の全員が僕の思った通りに動くように仕組んでいる。それに僕の王国には……」


 彼は手に持っていたナイフを畳んですっと上着ポケットに隠す。


「裏切りや謀反は存在しない。なぜなら僕の手にしているものは金でも兵力でもなく、絶対に奪われることのない『人気』と『知識』だけだからね」


 こうなるともう笑うしかない。散々わたしが警戒していた上に、たった今、変態サド趣味を持つ狂人だと判明した義理の弟が、今度はわたしの父のようなことを言い始めるのだから。


 まったく、お手上げだ。この彼の上を行こうとしたわたしが馬鹿だった。でも、彼のこの本性を知っているのはわたしだけというのは十分に疑問点である。


「聞いてもいいかしら。邸の全員を騙したいなら、なぜわたしを今隠し部屋に閉じ込めて、あなたの本性をばらしているのよ」


 すると彼は目を丸くした。驚いた表情は新鮮だった、今まで全てを達観しているような落ち着き払った表情しか見た事がなかったから。


「わからないのか?あの頭の空っぽな連中を見ろよ。君はあいつらとは違う。茶会に顔を出した時にすぐわかったよ、君はこっち側の人間だってね。観察される側の呑気な猿達ではない、観察する側の人間だ」


 そんなわたしも、結局は彼に観察され言いように操作されたのだけれど。わたしが肩をすくめると、彼は言葉を重ねた。


「そして君は観察する僕さえ注意深く観察していた。久しぶりだったよ、あんなに探られるのは」


「でもそれを楽しんでいたのよね、結局。どう?そのわたしを取り込んだ気分は」

 わたしは嫌みっぽく笑って言った。


「それはどうかな。君にはまだ駒が残ってるようだし、君の危うい魅力に迫られると僕も理性で物事を考えられなくなる」


「ええそうね。そうやってわたしを油断させたと思えばいいわ。あんたがいくらお得意の口説き文句を並べたって通用しないから。で、あのメイドはどこへ行ったの?」


「どこって、給仕さ。夕食の時間だろ」


 わたしはそれを聞いて自分が夕食会へ行く途中だったのを思い出し、頭からさーっと血の気が引くのを感じた。

 2人一緒に遅れて入っていったりなんかしたら怪しまれるどころの騒ぎではない。かと言って欠席すればそれもそれで怪しい。何かいい言い訳は……。


 と、頭を抱えていた私の目の前に、透明の液体の入った親指くらいの大きさの小瓶が差し出された。


「……何よこれ」


 私が眉を寄せると、ユアンは平然として言う。


「ちょうど兄さんが帰る頃だろ。お迎えしてワインに数滴たらして飲ませればいい」


「そんな、毒盛りなんて……」


「少し腹を下すだけさ。君は急の看病ってことで夫の部屋に籠らざるを得ない。どうせ夕食会に出る気力もないんだろ?一石二鳥だ」


「でも、だからって下剤を飲ませるなんて」


「この邸のなかだ。嘘ついたところですぐにばれる、本当に体調が悪くなった方がいい。だれもそのためだけに薬をもったなんて考えないさ。僕はメイドの部屋から乱れた服のまま出て行って、ご婦人方に目配せしながら僕の魅力でもって遅れた事なんて忘れさせる」


「あなたってどこまで冗談でどこまで本気なのかわかんないわ。それにどこからこんな薬……」


「ああ、薬の効き目は保証するよ。医者よりユアンを信頼しろとよく言うだろう」


 そんな言葉聞いたこともない。わたしは呆れて宙を仰ぐ。


「ああ、それから君の気になっていたこの小包」


 彼はそう言ってコートの内側から茶色の紙に包まれたものを取り出した。あの消えたメイドがおそらく別の隠し扉で彼に渡した品物で、もとはホフマット卿の私物だったもの。


 わたしはゴクリと息を呑む。大きさからして小型銃?それとも高価な宝石?


「君にあげるよ」


「え?」


「ただし、君が明日の夜東の礼拝堂に一人で来ればね」


 彼はいかにも怪しげな含み笑いをしている。確かに小包の中身は気になるけど、誰がこんなあからさまな罠にかかるもんですか。


「お断りしたら?」


「明日からこの邸では生きづらくなるだろうね。可哀想に」


 彼は無表情でさらっと恐ろしいことを述べた。いや、先ほど邸の人間は全て思い通りに動くと断言していた彼ならどうとでもできるはず。


 邸にきてまだ一ヶ月、それにほとんどの人間が中立か敵、まして心強い味方ゼロのわたしには何もする術はない。


 どうやら、彼にとって一目惚れの相手とは同情すべき相手ではなく、主導権を握ってコントロールするものという認識らしい。


 まあ、まず一目惚れというのが嘘っぽいし、なんていったってお互いに一応義理の姉弟なんだから。わたしはしばらく余裕の笑みを浮かべている彼を眺めていたが、諦めてため息をついた。


「……考えておきますわ」


「そう、ありがとう」


 わたしの一言で、彼はまた爽やかな表情に戻る。昼間茶会で見たときの「表の顔」だ。まったく、こんなに表情の変わる演技者は未だグローブ座でも見たことがない。


 わたしは一刻も早くこの薄暗闇の小部屋から出るべく、ドアの隙間から人がいないことを確認してさっと廊下に出た。


 扉はなるほど、外から見るとまったく気づかないように細工が施されていた。まるでそこには元々扉などなかったかのようだ。もしかしたら、この数分の間にわたしに起きた全てのことは、ただの悪い夢だったのかもしれない。


 “まだ私が幽霊かどうか御確かめになっていませんね、ジゼル”


 彼の言葉がこだまする。


 そう、もしかしたらあれは本当に幽霊だったのかもしれない。そう思うことに決めるには、いささか自分の身体にまだ残っている熱のような感覚が邪魔していた。


 ––––幽霊があんなことをできたら、気味が悪いわ。

第1話、読んでくださりありがとうございました!!ユアンの「ヤバすぎる一面」が露わになり、このままどんどん加速してゆきます....


次回 第2話「祈りと束縛」1

 彼の脅しからはもう逃げられない。次の夜、約束通り礼拝堂に向かったジゼルは....



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