生きてる理由
まだ死ねない。
ふわふわの頭を撫でながら思う。
君がいなくなるまで、私はどうにかこうにかして、生きていかなきゃいけない。
手を頭に乗せると、クリクリとした目が細くなり、気持ちよさそうに、笑っているかのような表情を作った。まだ五歳だ。
これから色々経験するし、沢山遊んで、沢山寝て、好きなように生きていける。そんな歳しか、君はとっていない。これから沢山の初めてに君は出会うのだ。それを一緒に感じていけたらな、と切に思う。
この五年間、君に支えて貰ったし、君に生かされたようなものだ。どれだけ死んでしまいたいと思っても、君の存在がそれを止めた。どれだけ苦しくても、君は寄り添ってくれた。君が病気になって大変なときにも、君は真っ先に君を心配する私の心配をした。
気遣わなくていいんだ。君の方が辛いのだから。そう思っても、君は私の顔を心配そうに覗き込み、不安そうに小さく鳴くのだ、
愛おしい。そう思えるのは毎日で、君がいない生活を考えることが、君がいなくなってしまった時を想像するのが嫌で、兎に角毎日愛でている。
愛らしいアーモンドアイも、丸くてふわふわな顔も、横に長く伸びた髭も、たまに毛玉が出来てしまう長い毛も、君を構成する全てが愛おしい。
「出来るだけ、元気で長生きしてね」
毎日、そう言い聞かす。そのために私に出来るのは、君を家に一人残し、外に君のご飯代を稼ぎに行くことなのだけれど。
本当はもっと一緒にいたいし、遊びたい。でも、それでは君が食べられないし、何かあったときに病院にも行けなくなってしまう。それはいけない。私が一番やってはいけないことだ。そして何より、君は遊ぶより寝ることの方がはるかに好きなのだ。
もっとこう、猫じゃらしに反応して欲しい。運動して欲しい。。そう思ってじゃらしを振ってみても、君はいつも知らんぷり。そんなのにのらないよ、そう言っているみたいに、ぷいとそっぽを向いてしまう。そして寝る。
君の反応はわかっているのに、私はじゃらしを手放すことが出来ない。それは君と、少しでも長くいたいからで、君の猫らしい姿をみたいからで、君の爛々と光った目を確認したいからで…。兎に角、君と交流したいのだ。
そんな私の気持ちは知らないよ、とでも言いたげに、今日も君はそっぽを向く。いくらじゃらしを振っても無反応。上げても下げても横に振っても無反応。
やっぱり死ねないよ、君が遊んでくれるまで。君がダイエットに成功するまで。いや、ダイエットに成功しても死ねない。
人見知りな君は、他人を怖がるし、懐かない。お客さんが来ると、姿を消してしまう。見つけたと思っても、シャーシャーと威嚇するばかり。
そんな君をおいていけないんだ。誰にも懐かない、私の可愛い子。辛いことがあっても、君の存在が私をどうしたって生かすのだ。