裸の王様
むかしむかし、あるところに王様がいました。
その国は平和で裕福で、王様も優秀でやり手だったのでがっつり貯めこんでましたが、年齢と病気には勝てず、ぼんくらで有名だった王子に跡目を譲って亡くなってしまいました。
まあ、そんな訳ですので、大金をせしめるべく詐欺師が目をつけ、いかにも頭が悪そうな若き王様に近づいてきました。
詐欺師は仕立て屋に扮して「偉大なる王様。我々は異国の不思議な技術を覚えてまいりました。これだけのお金を用意していただければ、この世のものとは思えない服を仕立ててみせましょう。」と、大金を吹っ掛けました。
王様は馬鹿な上、ファッションに敏感だったので、あっさり話に食いつきました。
さすがに周りの重臣は心配して途中経過を視察しに行ったりしたのですが、製作中の服が”馬鹿には見えない”特性だと説明されたので、実際には何もなく、作っているふりをしているだけなのに、自分が馬鹿だと思われたくないので、服は順調に製作中であるという報告をしてしまいました。
さて、時が経ち、服の受け渡しになりましたが、詐欺師は度胸満点の演技を続け、王様も周りに馬鹿と思われるのが嫌で、服があるかのような演技をしました。
そして、新しい服のお披露目のパレードをする事になり、素っ裸の王様は、意気揚々と山車に乗り込みました。
詐欺師は、そそくさと逃げ去りたかったのですが、王様が輝かんばかりの笑顔で、諸君らの栄誉を共に讃えたいと強く希望したので、下手に断ると怪しまれると判断して、一緒に乗ることにしました。
しかしてパレードが始まりましたが、素っ裸の王様を見て民衆は動揺しました。しかしながら、”馬鹿には見えない服”の事前情報が出回っていたため、誰も口に出せずにいました。
ところが、頭はいいけど空気が読めない風なクソガキが、「なあ、王様はなんでフルチンで、いい笑顔で手ぇ振ってるんだ?」と大声で周りの大人に問い質しました。
民衆はそれを聞いてざわつきました。慌ててクソガキをたしなめようとする者もいましたが、思いとどまりました。
このクソガキが頭だけはいいことを皆知っていたので、王様が素っ裸なのが、自分たちが馬鹿だからそう見えているのではなく、事実だと確定してしまったからです。
状況が吞み込めず、きょとんとしている詐欺師たちの首根っこをむんずとわしづかみにすると、王様がすごい笑顔で「そうかぁ。手配書の詐欺グループってやっぱりお前らかぁ。」と言いました。
王様は、実のところぼんくらなのではなく、寧ろ親譲りの有能さを持ち合わせていましたが、先代が有能だったあまり、近隣諸国から警戒されていることに気付き、軍事力に不安を残す自国の懐事情も鑑みて、偽情報を流していたのでした。
王様は「しかしまあ、国際指名手配犯がのこのこやってくるとは、馬鹿の真似もやってみるもんだなあ。」と笑いつつ、「流石にうまい設定を作られて、どう実証したものかなと思ったが、うちの城下町に、頭はいいけど空気読めねえガキがいることおもいだしてなぁ。万が一服が本物でもあいつには見えるはずだし、素っ裸だったら配慮なんてしねぇから絶対に大声でなんか言うだろうからな。」と、とても楽しそうに話しました。
事の次第を理解した詐欺師は、逃げようと藻掻きましたがびくともしません。すると王様は闇深い邪気を孕んだ笑顔で「なんだ、お前知らなかったのか?王族なんざ、多少義理堅いだけの、腕っぷしが一番強いゴロツキの成れの果てなんだぜぇ。」と言って、山車の見えない奥のほうに引き摺っていきました。
・・・だいぶ時間がたってから、王様は見えるところに、晴れやかに手を振って現れました。
先ほどのクソガキが王様を見て言いました。「王様、せめて前は隠せよ!」
少し考えましたが、思ったよりメリットがあったので、王様はもうちょっと馬鹿を装うことにしたようです。
「王様、なんでちょっと楽しそうなんだ?!」「王様、思った以上に上級者だったのか?」「でも、王様のって意外と・・・♡」
理由は不明ですが、その後何年かの間、顔を赤らめ、にやけた口元で、鼻息荒く移住申請してくる男女が殺到したので、期せずして国力増強できたそうな。
めでたしめでたし。