8話 封筒
切り裂かれた教科書に茶色い封筒が挟まれていることに気づいた。
その封筒はちょうどお札なんかを入れるのにぴったりなサイズで、中に折り畳まれた紙が入っていた。
紙には明朝体の文字が大きく印刷されている。
その文字の内容に俺は驚愕した。
『柚葉紫乃ハオ前ノ母親ヲ殺シタ人間ダ
教師・親・警察等ノ大人ドモニ、コノコトヲ知ラセタ瞬間、コレヲ暴露スル』
「なにが目的なんだ……」
急いで紙を封筒に戻して、教科書と封筒を机の中に隠した。
クラスメイトに見られたらきっと騒がれて、大人たちに知らされてしまうと思ったからだ。
それに柚葉が何人かのクラスメイトたちと一緒に教室に入ってくるのが見えた。
柚葉にはこのことを知らせるべきか迷ったが、今は周りに人がいる。
2人っきりになってから打ち明けたい。そのためにも今はこの教科書と封筒は隠すべきだと思った。
「おはよう。東堂くん」
「えっ、ああ、おはよう柚葉さん……ねぇ今日も数学の時、教科書、見せて貰えないかな?」
「教科書、見つからなかったの?」
「見つかったんだけれど……ちょっと、ね」
「?」
放課後、俺はしばらく教室に残ることにした。
もしも犯人がまた同じことを繰り返すつもりなら、今日あたり俺の他の教科書も取りに来るかもしれない。
そこを取り押さえることができればいいのだが……。
1時間ほど待っても犯人は現れなかった。
「今日はハズレかなぁ」
それとも、犯人は俺の教科書にイタズラするのはこれで終わりにするつもりなのかもしれない。
まいったな。だとしたら犯人の特定はかなり難しいぞ。
柚葉は、このことを知ったらきっとショックを受けるだろう。
今日犯人を捕まえることができたら、彼女に秘密にしたまま一件落着できると思っていたのに。
彼女の傷つく姿はもう見たくない。だが長期戦になるとしたら、やはり打ち明けてしまったほうが彼女のためだ。
その時、廊下から足音が近づいてきた。
犯人かもしれない。
「東堂くん?」
そこに現れたのは柚葉だった。