5話 食後
「柚葉さん……自分で食べるから大丈夫……」
「そう? じゃあ私のプチトマトあげるね」
「ありがとう……」
柚葉が自分の弁当からプチトマトをつまみ、俺の弁当に入れる。
そのまま2人で昼食を共にした。女子たちが周りで興奮した様子で盛り上がっている。男子たちは物珍しそうに見ながら羨ましそうに、ひそひそ話をしながら困惑している。
「なんだか周りがうるさいねー」
「そ、そうだね……」
弁当をお互い食べ終わると柚葉は席を離れる。
「じゃ、またね! ……って、なになにどしたの? みんな」
その瞬間、女子たちが柚葉に群がって騒ぎだした。
そして俺の数少ない友達『川崎祐也』も俺の席に慌てながら近づいてきた。
「おい! さっきのはどういうことなんだよ!」
「い、いや少し事情があって……」
「事情? 付き合ってるってことか?」
「付き合ってはない」
「さっき昼休みになってすぐさま2人で教室を出て行ってたよな? あの後どっちかが告白したんじゃないのか?」
「俺に告白する度胸があると思う?」
「いや、ないな。じゃあ、柚葉さんのほうか?」
「男嫌いで有名なあの柚葉紫乃だよ? 告白なんてされてないよ」
「本当になにがあったんだよ。俺には教えてくれよ」
10年前の事故を他人に話すのは止めたほうがいいな。柚葉さんには絶対に知られたくないことのはずだ。
「柚葉さんが『なんでもする』って言うから俺が『優しくしてくれればそれでいい』みたいなことを言ったら、どうやら勘違いしたみたいで……」
「はあ? なんだそりゃ。そもそもなんだって柚葉さんがなんでもしてくれることになったんだよ」
「それは言えない。彼女のプライバシーを守るためにも……」
「なにか知られたくないことなのか?」
「そんなところかな」
「ま、それなら無理に聞いたりはしねぇよ。それにしてもラッキーだな! 相手はあの柚葉さんだぜ? お前なんであ〜んを断ったんだよ」
「恥ずかしくてできるわけない!」