4話 告白
次の日の朝、学校の靴箱に手紙が入っていた。
差出人は『柚葉紫乃』と書いてある。
中身を見ると、たった一言『昼休み、私と一緒に校舎裏まで来て欲しい』とだけ書かれていた。
「なんだ……これ」
教室に入ると柚葉がいた。窓のそばで数人の女友達と話している。
お喋りの途中でこちらを一瞥すると一瞬だけ眉がピクリと動いて、またそっぽを向いた。
昼休みに入るとチャイムの音が鳴り終わるより早く、隣に座る柚葉が真剣な面持ちで話しかけてきた。
「東堂くん、手紙読んだ?」
「ああ、うん」
「じゃあ、着いてきて」
コソコソと2人で教室を後にする。
校舎裏まで柚葉に案内されて、俺の前を歩いていた彼女が振り返って2人で向かい合う形になった。
柚葉は気まずそうに視線を下に落として、しどろもどろに彼女は語り出した。
「と、東堂くんに……その、大切な話があって今日は呼び出したんだけれど……」
なんだろう。
「あのね……私、10年前……トラックにはねられそうになったことがあって……」
「……え?」
「でも、女の人が助けてくれて……私は助かって……でも、その代わりにその人が死んじゃって……」
嘘だ。
「その人は子どもがいたみたいで……その、もしかしたら、なんだけど……東堂くんなんじゃないかなって」
「……だったら、どうするつもりなの?」
「ずっと、謝りたかった……。ずっと後悔してた……」
「あれは居眠り運転が招いた事故なんだ。柚葉さんが謝ることじゃないよ」
「やっぱり……東堂くんだったんだね」
柚葉の目から涙が溢れた。
「本当にごめんなさい!!」
勢いよく腰を曲げて頭を下げた柚葉の髪が乱れる。
「やめてぇ! 大丈夫だから! 別に柚葉さんがあの時の子だって知ったからって恨んだりしないから!」
「私は何をしたら許されますか? お願い……なんでもするから」
「とりあえず顔を上げて?」
俺は柚葉の肩を掴み、そっと持ち上げ顔を上げさせる。
彼女は眉間にシワを寄せ、両目から涙を滝のように流し、頬を赤くして、硬く閉じた口は「への字」に曲がっていた。
「もしかして昨日も俺に謝りたくて声をかけてきたの?」
「……東堂くんとなんとか接点を持って、あの時の子か確かめなくちゃと思って……とりあえず褒めてみようって……」
「そういうことだったんだね。でもやっぱり何もしてくれなくても大丈夫だから。柚葉さんは気にしなくていいから」
「でも……私は罪の償いのしないと……!」
「そうだね……じゃあ、俺がもし何か困ったりしてたら柚葉さんが助けてくれないかな?」
「私が……?」
「そう、他の男子たちにしてるみたいに冷たい態度を取ったりせずに、俺には優しくしてくれたりしたら俺は嬉しい。それでこの話は終わりにしよう。……だめかな?」
「うん、わかった……。私、君に優しくするね!」
そう言った柚葉の目は疲れているように見えるのにとてもキラキラと輝いていた。微笑みを浮かべ、しかし眉だけは困ったかのように「八の字」に曲げている。
2人で教室に戻ると、既に昼食を食べてる人は誰もいなかった。
この状態で自分だけ弁当を食べるのは少し恥ずかしいが、腹は減っている。結局いただくことにした。
自分の席に座り弁当を広げると、柚葉も少しして俺の横にある彼女の席に座った。そして、彼女は自分の机のフックに掛かっているカバンから弁当を取り出す。
すると、俺に弁当を見せつけて声をかけてきた。まだ目に涙が溜まった状態で微笑む姿が美しい。
「東堂くん、一緒に食べよ」
「助かった……」
「助かった?」
「い、いや……うん、一緒に食べよっか」
1人で弁当を食べるのは少し嫌だと思っていた俺に救世主が現れた。
柚葉が自分の机を横に動かして、そのまま俺の机にくっつけた。
男嫌いの彼女が男子と一緒に食事をするなんて少し意外かもしれないな、なんて考えながら自分の机の上にある箸を持とうとしたら、いつのまにか自分の箸が消えていることに気づいた。
横を見ると柚葉が俺の箸を持って、俺の弁当のおかずであるハンバーグをつまんでいる。
「な、なにしてるの?」
「はい、あ〜ん!」
柚葉が少し愛おしそうにハンバーグを俺の口元に持ってきた。
ざわつき始める教室。
「ちょっと待って! 柚葉さんどうしたの!?」
「え? だって『優しくしてほしい』って言ってたでしょ?」
違う。そうじゃない。