2話 帰り道
「東堂くん、一緒に帰ろう」
そう言った柚葉は少しばかり緊張しているように見えた。
「え、いいけど……どうして?」
「君と仲良くなりたいから」
片倉高校二年二組の教室で、帰宅部だしさっさと帰るかと立ち上がろうとした俺に彼女はそう応える。
「帰り道、途中まで一緒だよね?」
帰り道。柚葉はしばらくうつむいたまま喋らなかったし、俺も彼女の目的が分からない以上何を話せばいいのかもわからずに無言を貫いていた。
いつもの景色がいつもより遅く過ぎ去る。彼女の歩くスピードに合わせてるからだ。
その時、柚葉が沈黙を破った。
「家まで着いていっていい?」
「柚葉さんがそこまで男子に積極的なのは珍しいね。俺、何かしちゃったかな?」
「東堂くんは何もしてないよ。……ただ、もしかしたらって思って……」
「もしかしたら?」
「ねぇ、私のこと……覚えてる?」
少し前を歩いていた俺は後ろを振り返った。この時の柚葉の表情は今にも泣き出しそうで、「置いてかないで」と言ってるように見えた。
何かがおかしいと直感した。
そして、彼女のその表情に見覚えがあるような気がした。
でも、それは遠い記憶の底に沈められているようで……。
「ごめん、何か思い出しそうなんだけど……。もしかして今日の朝に言ってたことと関係ある?」
柚葉の表情はよく見えない。つむじが確認できるくらいに、うつむいているからだ。そして、柚葉の肩が小刻みに震え出した。
「ごめん。もう行くね」
「え?」
柚葉の声は震えていた。泣いてるようにも、笑いを堪えてるようにも聞こえた。しかし彼女が手を口ではなく、目に当てていたのを見るにきっと泣いていたのだろう。
柚葉は俺の前を走り出し、そのまま角を曲がり姿を消した。
取り残された俺は立ち尽くすことしかできなかった。