10話 傷つけたくない
「もう……東堂くんを傷つけたくない……」
それは俺が柚葉に対して思っていたことだった。
彼女も俺と同じ気持ちだった。
「ありがとう。俺のことを、そんなにも想っていてくれて」
俺が少し屈みながら右手を差し出すと、柚葉は俺の手をそっと握ってくれた。
徐々に彼女の握る力が強くなり、俺も彼女の手を強く握り返して、そのままゆっくりと手を引っ張り彼女を立ち上がらせる。
その時の彼女の頬は泣いているからか、それとも夕陽のせいか、赤く染まっていた。
「……ごめんね。東堂くんに迷惑かけてばっかりで……私」
「大丈夫だよ。柚葉さん」
「でも、こんな私だけど……あなたのことは絶対に私が守るから、安心して!」
柚葉は勇ましく、そう言った。けれどもそれは虚勢を張っているようにも見えた。
彼女が次に言うことは、予想できる。
俺はそれを全力で拒否しようと決めた。
案の定、彼女はまだ俺の手を握りながら当たり前のことを口にする。
「まずは、先生に報告しよ?」
「嫌だ」
「どうして!?」
柚葉は必死に問う。
それに対して、理由をでっちあげて答える俺。
「は、恥ずかしい!」
「え?」
「そ、そう! 俺は自分がイジメられてることを、みんなに知られるのが恥ずかしい!」
「なに言ってるの!」
「だから、このことは2人だけの秘密にしよう。その上で犯人を見つけよう!」
もちろん、本当に恥ずかしいのが理由なわけではない。
犯人に柚葉の過去を暴露させないためだ。
俺のために泣いてくれる……少し泣き虫な彼女にこれ以上泣いてほしくない。
それだけなんだ。
「……もしかして、私のことを気にしてる?」
不貞腐れた顔を見せる柚葉。
ドキリとする俺。
「まさか、そんなわけ……」
じーっと俺の目を柚葉は覗き込む。
納得していないらしい。
納得してくれそうな理由を新たに考えてみる。
「そ、それに犯人の目的もまだ分かんないでしょ? 大胆に行動するのは、今のところは避けた方がいいと思うんだ。これはただのイタズラではなく、確かな動機があって行われたものだろうから」
「…………分かった。東堂くんがそう言うなら……」
柚葉は、やっと俺の手を離した。
俺は少し、名残惜しく感じてしまった。
「ねぇ、柚葉さん」
「なあに?」
「一緒に帰ろうか」
「一緒に?」
「うん。この前、一緒に帰れなかったから……今度こそ一緒に帰ろう」
柚葉のいじけた表情が一気に明るくなる。
「うん!」
「なんだったら、外、もう暗いし家まで送って行こうか?」
「……まあ、東堂くんならいいか」
柚葉は小声で早口に独り言を呟くと、今度は逆に少し大きな声を出して答えた。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな!」




