1話 幻聴
俺の学校には2000年に一度と言われる超絶可愛い美少女がいる。
黒髪のセミロングでぱっちりした目、可愛い声、学年トップの成績と遠くから眺めてるだけなら完璧な少女だ。
まさかこの俺がその彼女と同じクラスで、しかも隣の席になれるなんて夢のようだった。
ただ、彼女には大きな欠点があった。それは大の男嫌いだということだ。
彼女は日常的に男子を冷たい目で蔑み、まるで醜い豚を見ているかのようだった。
「男なんて全員消えてなくなれば、もっと世の中は良くなるのにね」
いつだったか彼女が仲の良い女子に、そんなことを口にしていたのを耳にした。
彼女の男嫌いは学校中の誰もが知っていたし、それは俺も例外ではない。だから、俺はそれを聞いてもたいして驚かなかった。
「男は全員汚らわしくて、傲慢で、臭くて、最低で気持ち悪いから嫌い」
「男はどうして原始時代から知能が発達してないのか不思議だよねぇ」
「女の子はみんな可愛くて、優しくて、いい匂いで最高で気持ちいい」
こんなことを毎日のように言っているのだから彼女はレズというやつなのではというウワサもある。
そして、その発言のどれもが俺を驚かせるのに値する発言では無かった。でも……。
「東堂くんって……その……カッコよくて可愛くて、優しくて、いい匂いで素敵だね」
そんな言葉を彼女の口から聞いた時は流石の俺も唖然としたものだ。
朝のHRが始まる30秒前、右隣に座る彼女がこちらを振り向いて唐突になんの前ぶりもなく発したセリフが俺の心を貫いた。
「えっと……柚葉さん……」
俺がとりあえず何か応えなければと思った瞬間、チャイムの音が学校中を響き渡りざわついていた教室が静かになり始めた。
すると、柚葉紫乃は前の黒板の方を向いてこちらには見向きもしなくなった。
さっきの声は俺の幻聴だったのかもしれない。だって彼女がそんなことを言うはずがないのだから。