恋人は幸せの絶頂にいる?
正仁さんがやっと奥さんと別れてくれた!今までにっちもさっちもいかなかった関係がようやく動き出した。そして、話し合いで奥さん違う違うもう元奥さんか、と子供さんが家から出て行き私たちが家に住んでいいことになったらしい。
そのことを聞いて私は正直嬉しかった。だって正仁さんのお家は部屋の数も多くて広かった。それでいてデザイナーが設計してとてもおしゃれで、こんな家に住めるのがとても嬉しかった。
ああ、これから素晴らしい生活がなんて考えていた。えっ、なんで家具、家電を持っていくの!?
「これは私が独身時代から使っていたもので、これは私がお金を出して買ったもの。あ、TVもそうです。これから下取りに出して新しいもの買うので持っていきますね」
なんでもないかのように元奥さんが言う。え、そうなの?と思って正仁さんを見ると、何が何だかよくわからない表情をしていた。あなたはこの家に住んでいたわけではないの?あなたの家じゃないの?と感情のままに問い詰めようとした。だが元奥さんの声に強引に現実へ引き戻される。
「あ、ワインセラーは新しいの買うから置いていきます」
そうなの、勝手に置いて行けばいいわ。待って待って!なんでそのワインセラーのワインを持っていくの!!
「私が買ったものだから」
元奥さんは心底不思議そうだった。え、どういうこと?ワインは元奥さんのもの?確認の意味で正仁さんを見るとコクコク首を縦にふった。どうやらワインは奥さんが買った元奥さんのものということだった。
そして、ワインセラーはからっぽになった。
大きなワインセラーにたくさん入っていたワインが一つ残らず元奥さんの物?そんな事実が頭に直撃した。しかし、深く考えることはできなかった。高級時計も持ち出していたのだ。どうして!?正仁さん、止めてよ!
「?私が買った物だから。資産にもなるから持っているの」
え、時計も元奥さんが買った物なの?正仁さんを見ると首を縦に振る。本当のことらしい。え、家具家電もワインも高級時計も元奥さんの物なの?それってもしかして、と思考がまとまる前に元奥さんは言った。
「ああ、子供たちの部屋にあるものはいらないものだから捨てて大丈夫」
子供の物なんて別にいらない!待って、どうして車に乗っていくの!?
「え?私の車だから。じゃ、さようなら」
え、車も?正仁さんとあの車でドライブに行ったよ?あの車は元奥さんのものなの?
車庫に車は一台もない。どうして車がないのと思いながら家に入ると部屋がとても広く感じた。だって部屋にあった家具家電はほとんど元奥さんが持っていった。『私が買った物だから』と言って。
ふいに空っぽのワインセラーが目についた。
『ワインは今やビジネスツールのひとつなんだ。世界で活躍するためには必要なモノだよ』
そんなことを言っていた正仁さんは自分でワインを買ったことがない?
『高級時計には資産価値があるんだ。持っていて損はないよ』
なんてことを言っていた人がその資産価値のある高級時計を一つも持っていない?
どうしよう、もしかして私は大きな間違いをしてしまったのではないだろうか?とぼんやりワインセラーを見ながら考えていたら正仁さんは私を慰めるように囁いた。
「ワインはまた買えばいいよ」
違う、そうじゃない。そう思ったものの口からでた言葉は「そうね」だった。
だが、これからやっていけばいい。家具も家電もワインも時計も車だってこれから買っていけばいい。これから自分好みの家にできると考えればいいじゃないか。外資系の商社に勤めるエリートで素敵な旦那さんが私にはいる、だから大丈夫そう思って自分を立ち直らせる。
なにも間違っていない。
そう、そのはず。
きっと彼女は結婚を焦っただけなんでしょうね。あの人以上の人はいないわ!ってなっちゃったんでしょうね。おそらく。
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