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そうだ 修道院、行こう

読み切りです。

よろしくお願いします!

「王国魔術師であるセルヴェル=グランド様が先の夜会で元婚約者の方と再会されたそうよ。しかもとても良い雰囲気で、それはそれは情熱的に見つめあっていたらしいですわ」



 王国筆頭魔術師夫人主催のお茶会にて、

 アーシャは見知らぬ令嬢にそう告げられた。


 なぜ見知らぬご令嬢がわざわざこんな事を報告してくるのか。


 ───この方もセルヴェル様にご執心なのね。



 アーシャの婚約者セルヴェル=グランド(二十五歳)は子爵家の嫡男というそこそこの出自の上、長身、イケメン、魔術師団のエリートとかなりの優良物件だ。


 アーシャは幼い頃(当時十二歳)に婚約を結んだのでセルヴェルの()()をそれほど重要視してはいなかったが、結婚相手を探している女性にとってその婚約者の座は喉から手が出るほど欲しいものなのだろう。


 当然、アーシャの存在は邪魔でしかないわけだ。



 ───わたしにセルヴェル様との婚約を解消させたいのだろうけど、そうは問屋が卸すものですか。


 アーシャはにっこりと微笑んでその令嬢に返した。


「まぁ~わざわざご丁寧に要らない情報をありがとうございます。セルヴェル様を狙っているご自身のハートも抉る捨て身の嫌がらせ、そこまでするとはむしろ天晴れ、素晴らしいですわ」


「なっ、なんですってっ!?」


「あら褒めてるんですのよ?貴女にとってもセルヴェル様が他の女性と見つめ合っていたなんて受け入れ難い事でしょうに、それを敢えて仰る心臓の強さ!平伏いたしますわ」


「なによっ!なんて生意気な女なのっ!あなたなんてさっさとグランド様に捨てられればいいのよっ…きゃあっ!!」


 令嬢がヒステリックな声をあげてアーシャに更に食ってかかろうとしたその時、凄まじい突風がその令嬢にだけに襲いかかった。

 令嬢の髪は強風に煽られ、斬新なヘアスタイルになってしまっている。


「あらあらまぁ、お(ぐし)が大変なことになってしまってますわよ?それではごめんあそばせ~」


「え?髪?……キャーーーッ!?」


 自身の頭を押さえて悲鳴をあげる令嬢を尻目に、アーシャはその場を立ち去った。


「ざまぁですわ」


 令嬢だけを襲った今の突風はアーシャが風魔法で起こしたものである。


 アーシャは普通の男爵令嬢だが普通ではない。

 仕事を請け負った事はないが一級魔術師資格を持つ令嬢なのだ。

 しかもかなりの高魔力保持者である。

それこそ魔術師団のホープと呼ばれる婚約者のセルヴェル=グランドに匹敵するほどの。



 そのセルヴェルとの婚約は七年前に結ばれた。


 アーシャ十二歳、セルヴェル十八歳の時である。


 実はセルヴェルには元々、別の婚約者がいた。

 しかしその相手との婚約は解消となり、遠縁で魔力の高いアーシャが次の婚約者として選ばれたのであった。


 アーシャは幼い頃、何度かセルヴェルと元婚約者であるユリラナが一緒にいる姿を見たことがある。


 まるで人気の舞台の一幕を見ているような、そんな麗しい二人の姿に幼いながらも憧れていた。


 本当に似合いで仲睦まじい婚約者同士だったのに、ユリラナの一身上の都合とやらで破談となってしまったのだ。

 詳しい理由はわからない。

 セルヴェルは語らないし何となく聞いてはいけないような微妙な空気を感じるのだ。


 でも、過去は過去。

 今の婚約者は自分なのだからと、アーシャは気にしないようにしてきた。


 だってアーシャはセルヴェルが大好きだから。

 十二歳で結ばれた素敵な婚約者、多感な時期に入ったアーシャがちょろりと恋に落ちるのは仕方ない事だろう。

たとえセルヴェルからは子供扱いしかされなかったとしても。


「セルヴェルさま大スキ!」


「セルヴェル様の婚約者になれて本当に嬉しい!」


「待っててね?すぐにお色気ムンムンの淑女になるから期待していてね?」


 などと素直に想いをぶつけ続けて幾星霜。

 アーシャも十八歳となり、入籍と挙式まであと半年を切ったというのに今頃になって過去の婚約者(オンナ)の陰に脅かされるなんて……。



 ───でも、再会といってもホントに偶然だったのかもしれないわ。


 数年ぶりに顔を合わしたとしても、二人の間に再び何かが始まるわけはないはず。



「…………」


 ないはず。


「…………」



 だけどもし、とアーシャは悶々鬱々と考える。

 もし、本当は二人はまだ想い合っていたとしたら?

 訳あって婚約者同士でなくなったとしても、互いにまだ相手の事を忘れていなかったら?


 それが再会した事により、焼け棒杭にファイヤーなんて事も有り得るのではないか……。



「………現在のユリラナ様の事を調べた方がよさそうね……」


 セルヴェルとの婚約解消後、社交界から姿を消したユリラナがなぜ今になって再び現れたのか。

 なぜ王家主催の夜会に出席して、なぜセルヴェルと再会する事になったのか。


 それを調べねばないるまいとアーシャは思った。


 その中でセルヴェルとユリラナの婚約が解消となった理由もわかればよいのだが……。


 アーシャは持ち前の行動力を活かしてセルヴェルの元婚約者、ユリラナの事を調べた。



 ユリラナ=レズモンド()男爵令嬢。

 現在は隣国の王宮で魔術師として働いていて、今回の帰国は王家主催の夜会に出席した隣国の魔術師団長の補佐として随行したそうだ。

 そこで同じく当国の魔術師団長の補佐として夜会に出席していたセルヴェルと再会したということらしい。

 結局はそれくらいの事しかわからなかった。



「でもユリラナ様が勘当されて貴族令嬢ではなくなっていたなんて……知らなかったわ」


 なぜその経緯に至ったか。

 

ユリラナの生家ではユリラナは他国の遠縁に養子に出たと言っているらしいのだが。


 しかしおそらくそこに、セルヴェルとの婚約が解消となった理由があるのだろう。



「………モヤモヤを抱えて結婚なんてしたくはないわ。こうなったら直接セルヴェル様にお聞きしましょう!」


 と、いうわけでアーシャは手作りお菓子の差し入れと称して、王国魔術師団の本部へとやって来た。


 受付けを済ませ、セルヴェルの所属する班の部屋へ楚々として歩いて行く。

 その途中でセルヴェルとは同期で同班で友人というアデイン=ルモスに声を掛けられた。


「あれ?アーシャちゃん?久しぶりだね、前はしょっちゅう本部(ここ)に遊びに来てたのに」


「ごきげんようアデイン様。年頃の娘がチョロチョロするなとお父様に叱られて……それにセルヴェル様にも危ないからウロウロするなと……」


「チョロチョロもウロウロもアーシャちゃんにぴったりな表現だね」


「ま、淑女に向かって失礼な」


「あはは。それで?今日は久しぶりにチョロチョロしに来たの?」


「ええ。クッキーを焼いたのでセルヴェル様に食べて貰おうと思って」


「やった、アーシャちゃんのクッキー♪大好物なんだよね」


「ふふ。たくさん焼いてきたのでご一緒にどうぞ」


「アーシャちゃんいいお嫁さんになれるよ」


「ま、アデイン様ったら正直者!わたしもそう思いますわ!」


「ぷ、あははは」


 そんな事を話しているうちにセルヴェルの居る部屋の前へと到着し、アデインがドアを開けてくれた。





 その時、セルヴェル=グランドは煩わしさにイライラしていた。


「それでさぁ~王宮メイドのベスちゃんを連れて行ったカフェに偶然、前にデートしたご令嬢が居てさ、鉢合わせした途端に“その女は誰ですのっ!?”って鬼の形相になっちゃって……可愛いご令嬢だと思っていたけど、女の子のホントの顔って怖いよね」


 その言葉を聞き、セルヴェルはジト目で睨めつける。


「……お前のような屑を相手にすればそりゃ怖い顔にもなるだろうよ。というかお前、自分の持ち場に戻れよ」


「ええ~いいじゃん、今日は班長が非番でさ。せっかくサボりたい放題なんだから~」


「俺は真面目に仕事してるんだっ」


 魔法学校時代からの腐れ縁で魔術師団にも同期入団したこの同僚が、先程からセルヴェルの班の部屋でとぐろを巻いて仕事の邪魔をしてくる。


 おかげでモグリの術式師による違法術式の闇売買事件の報告書が遅々として進まない。


 イライラしながらも書類と向き合うセルヴェルを見て同僚は呆れ顔で言ってきた。


「そんな真面目に仕事ばっかしてて疲れねぇか?たまには可愛いオネェチャンのいる店にでも一緒に行って息抜きしようぜ」


「断る。お前、もうじき結婚を控えた同僚によくそんな誘いが出来るな」


 セルヴェルこそ呆れてそう言うと、その同僚の男はしたり顔&ニヤケ顔をセルヴェルに向けた。


「そんな事言って~!ホントはかつての婚約者と再会して心が千々に乱れてんだろ?随分イイ雰囲気で見つめ合っていたじゃねえか。あの後二人で何処に消えたんだよ」


「バカかおま… 「わーーっ!!なんだっ?なんかこの部屋暑いなぁっ!?こんなむさ苦しい部屋だけどさぁどうぞ入って?()()()()()()()!!」


 同僚の言葉に何か言いかけたセルヴェルの声を打ち消すかのようにアデインの大きな声が響き渡った。


 そのわざとらしい大声量で自分の婚約者の名を強調して呼ばれた事にセルヴェルは反応した。


「何、アーシャ?」


 そしてアデインがいる部屋の入り口の方へと視線を向ける。


 するとそこには呆然としてその場に立ち尽くすアーシャの姿があった。

 アーシャをここに連れてきたアデインが間が悪いと困り果てて天井を仰いでいる。


「……アーシャ」


「………」


 アーシャはセルヴェルの顔をじっと見つめるだけで何も言わない。


 その様子で自分の婚約者が今の話を聞いていた事を察したセルヴェルがアーシャの元へと寄ってきた。

 そして優しい声色で声をかける。


「突然どうした?むさ苦しい魔術師団でウロウロするなとあれほど言っただろう?」


「あ……クッキーを、焼いたの……上手に焼けたから……セルヴェル様に食べてほしくて……」


 アーシャはぐるぐると思考が渦巻く頭でそう答える。


 今、聞いた言葉はどういう意味なのだろうか。


「クッキー?そうか」


 セルヴェルはアーシャが手にしていた包みを受け取り、こう言った。


「ありがとう、大切に食べるよ。でも今は仕事中なんだ。玄関まで送ろう」


「どうして?」


「え?」


「どうしてすぐに追い返そうとするの?」


「追い返そうとなんかしていない。今が仕事中で、さっきから今日中に提出しなくてはならない書類に全然手を付けられていない状態なんだ」


 セルヴェルは()()()()()を込めて非難に満ちた目で同僚を睨みつけた。


 アーシャがその視線を辿ると、セルヴェルと元婚約者の事を口走った同僚が口を押えて焦りの表情を見せていた。


 その様子を見てますますアーシャの心にどす黒いものが広がってゆく。


「わたしを早く追い出したい理由でもあるの?」


「そんなものあるはずがないだろ」


「じゃあ今、話していた事、わたしに詳しく聞かせてくださいませ」


「アーシャ……何でもキミに話せる訳じゃないんだ。わがままを言わんでくれ」


 だだを捏ねる子供に言って聞かせるような、セルヴェルのそのもの言いにアーシャはカチンときた。

 肩に触れようとしたセルヴェルの手を跳ね除ける。


「なによっ……いつまで経ってもわたしを子供扱いして!」


 セルヴェルをキッと睨み、今度は同僚の男に視線を向けてアーシャは言った。


「そこの貴方!」


「は、はいっ」


 アーシャの剣幕に同僚は竦み上がる。


「さっきのお話、どういう事か聞かせて頂けます?セルヴェル様が元婚約者様とどのようにイイ雰囲気になって何処に消えたと言うのです?」


「い、いやぁ……?それは俺も知りたいくらいで……?」


 しどろもどろになりながら同僚がそう言う。

 その言葉を受け、アーシャはセルヴェルに向き直り怒りを含んだ笑みを浮かべた。


「ですって?教えてさしあげてはいかがです?わたしも是非知りたいですわ。セルヴェル様がユリラナ様と何処で何をしていたのか」


「……それは言えない」


「なぜ?」


ユリラナ(彼女)との約束なんだ」


「っ………」



 それを聞いた途端、アーシャの心の中に言いようのない寂しさと悲しみが広がる。



 ああそうか、やはりそうなんだ。


 セルヴェルの中で今でもユリラナという女性の存在はとても大きく、誰よりも大切なのだ。


 たがらアーシャの願いよりもユリラナとの約束の方を優先させる。


 ずっとずっと、アーシャの隣に居たセルヴェルは、

 ずっとずっと、元婚約者への消せない想いを抱えていたのだ。


 それなら………



 アーシャは俯いてぽつりとつぶやいた。


「………もう結構ですわ」


「アーシャ……」


 それ以上追求しなかったアーシャに、セルヴェルは明らかにほっとした様子を見せた。


 それを見た途端、アーシャの中でぷっつりと何かがキレた。


 アーシャは一歩二歩後退り、セルヴェルから距離を取る。


 その様子を見てセルヴェルは怪訝に満ちた顔をアーシャに向けた。


「アーシャ?」


 俯いていたアーシャがぱっと顔を上げてセルヴェルを見た。

 アーシャの表情を見たセルヴェルの眉間にシワが寄る。

 この表情をしている時のアーシャは大概セルヴェルにとってろくでもない事を考えている。


 それに警戒をしながら、セルヴェルはアーシャに言う。


「アーシャ、変な事を考えるのは止せ。他人の事だから詳しくは話せないが、話し合おう」


 我ながら訳のわからない事を口走っているという自覚はあるが今はそれどころではない。

 アーシャの様子がおかしい事に不安しかなく、

 なんとかせねばとセルヴェルの胸の内に焦りが募ってゆく。


「話せない事をしておいて何を話すというの?この婚約を無かった事に、とか?」


「バカを言うな、そんな事言うわけないだろう」


「ええそうね。セルヴェル様から言えるわけはないわよね?七年も共にした現婚約者に元婚約者と婚約を結び直したいから婚約を解消してくれ、なんて」


「なんでそうなるんだ」


「セルヴェル様が焼け棒杭にファイヤーなんてするからでしょうっ!!」


 激情するアーシャをセルヴェルはなんとか宥めようとする。


「アーシャ、いい子だから」


 だけどこの場合、それは悪手であった。

 アーシャはさらに感情が昂り、心のままにセルヴェルに言い放つ。


「もう!また子供扱い!そりゃわたしなんてユリラナ様に比べればお子ちゃまで見劣りもしてカッスカスに霞んで見えるのは知っているわよ!もういいわ!婚約解消しましょう!セルヴェル様なんてユリラナ様と幸せにでもなんでもなればいいのよっ!!」


「アーシャ!!」


「近寄らないでっ!!セルヴェル様なんて大っ嫌い!!」


 アーシャの婚約解消宣言を聞き、焦燥感を顕にしたセルヴェルがアーシャに手を伸ばそうとしたその時、大きな魔力の波動を感じた。


 アーシャが瞬時に自分とセルヴェルの間に結界魔法を展開したのだ。


「アーシャ!頼むから冷静になれ!」


 セルヴェルはそう言いながら中和魔法で結界を侵食してゆく。


「おかげさまでわたしは最高に冷静よ!」


「どこがだ!言っておくが俺は絶対に婚約解消なんてしないぞ!」


「どうしてよ!ユリラナ様と焼け棒杭ファイヤーのくせにっ!」


「アーシャ!!」


「来ないでっ!!」


 そう言った途端に、また大きな魔力の波動が生じた。


「セルヴェル様の大バカ野郎!!」


そう言い残し、アーシャは転移魔法でどこかへと消え去った。

ご丁寧に認識阻害魔法と追跡阻害魔法を施して。


「っくそっ!!」


常日頃から沈着冷静、泰然自若、余裕綽々、虚静恬淡が服を着て歩いていると評されるセルヴェルのひっ迫した様子に、アデインも同僚の男も唖然としていた。


アデインが目を大きく見開いたまま、独り言のようにつぶやいた。


「………驚いた……結界、認識阻害、追跡阻害を展開しながら転移魔法を用いるとは……そういえばアーシャちゃんも一級魔術師なんだよな……」


それを聞き、同僚が瞠目する。


「はぁっ!?一級資格保持者がなんで普通の令嬢なんかやってんのさっ!?」


セルヴェルの代わりにアデインがそれに答えてやる。


「そりゃお前……セルヴェルの妻になることが自分の至上命題だとそう言って、花嫁修行の方に専念したからさ」


「じゃあなぜわざわざ一級資格を取得したんだっ?要らねぇだろっ?」


「将来必ず特級魔術師になるセルヴェルの妻として一級資格くらい持っていないと恥ずかしいって、アーシャちゃんが言ってた」


「いやそんな簡単に言うなよ」


「そうだよな一級資格なんてそんな簡単取れないよな?なぁ二級資格取得者?」


「今は俺の階級なんてどうでもいいんだよっ!」



「………そう。今はそんな事本当にどうでもいい」


「「………っ!?」」


地の底を這うような低い声でセルヴェルがそう言うと、思わずアデインと同僚は竦み上がった。


「アデイン」


「な、なんだっ?」


「すまんがこの書類を任せてもいいか?」


「あ、あぁ……任せろ。記入して上に提出しておく」


「悪いな………それと……おい゛」


「ヒィッ、は、はいっ!!」


より一層低い声で呼ばれ、同僚の男は小さく悲鳴を上げてから返事をした。

そんな同僚をセルヴェルは目線だけで射殺せそうなほど鋭い眼差しを向けた。


「お前の普段の行動と同じく軽はずみなその口の中に生えている歯でこれからも食事がしたいなら、これ以上俺を怒らせるな。元婚約者の事も、アーシャの事も二度と口にするんじゃないぞ。わかったな?」


「ひゃっ……ひゃいっ!!」


殺意マシマシで凄まれた同僚の、悲鳴と同時に出た返事が部屋の中に響いた。


それを横目で見ながらアデインがセルヴェルに訊く。


「今からアーシャちゃんを追うのか?」


「追う……と言いたいところだが認識阻害に追跡阻害ときたもんだ、居場所の特定は困難だな」


「じゃあどうするんだ?」


「……7年間も側にいた婚約者だからこそ分かる事もある」


「……?」


「じゃあな、後は頼んだぞ」


「わかった。必ずアーシャちゃんを捕まえて誤解を解けよ?お前がどれだれアーシャちゃんを大切にしてきたか、俺は知っているつもりだ」


「あぁ。絶対にアーシャを取り戻す。取り戻したら二度と俺の側から離れられないように監禁でもしてやろうか」


「え?」


セルヴェルは何やら不穏な言葉を残し、転移魔法にてどこかへと転移して行った。




◇◇◇◇◇




一方、盛大な啖呵をきってセルヴェルの前から消えたアーシャは一人泣いていた。


「うっ…ひっく……セルヴェル様に……大バカ野郎って……それに大キライって言ってしまったわ……大キライなんて言って……きっとわたしの方こそ嫌われたっ……」


大好きなのに。


子供の頃から本当に大好きなのに。


たとえセルヴェルの心にアーシャは居なくても、アーシャの心の中はセルヴェルでいっぱいなのだ。


それなのに激情に任せて婚約解消を口にした上に大キライだと言ってしまった。


きっとセルヴェルは言質を取ったと婚約解消の手続きを始めるだろう。

そして本当に愛している女性、ユリラナと結婚するのだろう。


「うっく……ひっく……セルヴェル様ぁっ……」


セルヴェルとの婚約が解消されたら自分はどうすればいい?


十二歳の頃からずっとセルヴェル一色で生きてきたのだ。

今さら他の生き方が出来るとは思えないし、他の男性に嫁ぐことなど絶対に出来ない。


ならば一体どうすればいいのか……。


アーシャはしばらく考えて、ある一つの結論に辿り着いた。


「そうだ 修道院、行こう」


もうそれしかない。


アーシャは十八だ。

セルヴェルとの縁談が破談になれば、父はすぐにでも違う相手を探し出してアーシャを嫁がせるだろう。


「そんなのはイヤっ……それだけはイヤっ……」


それならば修道院に行くしかない。


神の花嫁になれば、他の誰かの花嫁にならずとも済む。


修道院でセルヴェルの幸せを祈りながら一生を終えるのも悪くないだろう。


「うっうっ……でも本当はっ……ひっく、セルヴェル様のお嫁さんになりたかったっ……」


その時、聞き馴染みのあり過ぎる声が聞こえた。


「なればいいだろう。というか俺の妻になるのはアーシャ、キミしかいないのだから」


「っ!?!?」


突然降って湧いたように聞こえたその声に、アーシャはびっくりして軽く飛び上がる。


まさかと思って振り返るとやはりその声の主はセルヴェルであった。


「セ、セルヴェル様っ……どうしてわたしがここに居ると……?」


ここは王都のシンボルでもある時計塔の天辺の機械室の中だ。

転移魔法前に魔力残滓を辿れないように追跡阻害魔法まで仕掛けてきたというのにいとも簡単に見つけられてしまい、アーシャは狼狽えた。


しかしセルヴェルは分かって当然といった様子で告げる。


「昔からこの場所がお気に入りだっただろう。何かあったらここに逃げ込んでいた」


「……そんなの、子供の頃だけよ」


「でも今でもこの場所が好きなんだろう?」


「………」


そう。アーシャはこの場所が好きだ。


ここは初めてセルヴェルが「内緒だよ」と言って転移魔法で連れて来てくれた場所なのだ。


セルヴェルが居ない時でも一人でこの場所に来たくて転移魔法の練習を頑張った。


結局は転移魔法でも危ないから一人で来てはいけないとセルヴェルと父に禁止されてしまったが。


今回、この場所に転移したのはほぼ無意識であったのに。

それでもセルヴェルはすぐにこの場所を当てて、アーシャの元に来てくれた。


アーシャを放置してすぐに婚約解消の手続きに入るのではなく、ちゃんとアーシャを迎えに来てくれた。

アーシャと同じ気持ちはセルヴェルにはないが、婚約者として大切にしてきてもらった事は間違いない。


もうそれで充分じゃないか、アーシャはそう思った。


アーシャは立ち上がり、涙を拭いた。


そして自分なりの精一杯笑顔でセルヴェルに告げる。


「さっきは喧嘩ごしに言ってしまってごめんなさい。大キライと言ったのはウソ。わたしはセルヴェル様の事が大好きです。セルヴェル様には本当に幸せになって欲しいの……だから婚約解消を受け入れます。どうかユリラナ様とお幸せに」


無様に泣くまいと思っても、どうしても涙で視界が滲んでしまう。

それでもアーシャはセルヴェルに心配を掛けまいと、懸命に笑顔を見せた。


「……婚約解消をして、キミはどうするんだ?」


「わたしは、修道院に参ります。そこでセルヴェル様の幸せを毎日お祈りします」


だからわたしの事は気にしないで、と言おうと思ったのにそれを言う前にセルヴェルが吐き捨てるように言葉を発した。


「修道院になど、行かせるわけがない」


「え……?」


修道院に行かせないとはまさかすぐにでも他所に嫁げと言うのか。

その言葉の真意がわからずたじろぐアーシャをセルヴェルは徐に抱きしめた。


触れる力は優しいのにどこか有無を言わさない力強さを感じる。

そんな抱きしめられ方で、アーシャはセルヴェルの腕の中に閉じ込められた。


「……セル、ヴェル様……?」


「修道院になど行かせない。婚約解消も絶対にさせない。アーシャ、キミは俺のものだ」


「……え?」


「ユリラナに、元婚約者に恋情を抱いた事など一度もない。どちらかというと我々の仲は最悪だった」


「えっ!?ウソっ!?だってあんなにいつも仲睦まじそうに……」


「人前で良好な関係の婚約者の演技をするくらいには分別があったからな。ユリラナは俺の事を毛嫌いしていた。いや、俺というより極度の男嫌いなんだよ、ユリラナは」


「えぇっ!?」


衝撃の事実を告げられ、アーシャは瞠目する。


「……俺の口からは何も言えないのであれば、本人の口から語って貰おう」


「え?」


「行くぞアーシャ」


「え?」


どこに?と訊く前に、セルヴェルはアーシャを抱いたまま何処かへと転移した。



次に足が接地した場所、そこは王都近郊のマナーハウスの前であった。


豊かな荘園が広がり、そこに佇むように立てられた古いマナーハウス。


荘園主の人柄がしのばれる落ち着いた雰囲気の屋敷であった。


セルヴェルが屋敷で働く者に訪いを告げる。

そして誰かに取り次ぎを申し出ていた。


アーシャはきょとんとした顔をしてセルヴェルに訊ねる。


「セルヴェル様、ここはどこ?誰に会いに来たの?」


「ここはユリラナの()()()()()が所有する荘園だよ。俺たちはユリラナに会いに来たんだ」


「え……」


もしやとは思っていたがまさか本当にその名が出てきた事にアーシャは驚く。

丁度その時、快活な声がセルヴェルの名を呼んだ。


「セルヴェル!」


アーシャが声がした方向を振り返ると、簡素なブラウスと女性用のスラックスに身を包んだすらりと背の高い女性がこちらに向かって手を振っていた。


セルヴェルが相手の名を呼ぶ。


「ユリラナ」


「え?ユリラナ、様……?」


アーシャがユリラナの姿を見るのは実に七年ぶりの事であった。

セルヴェルと同じく二十五歳となったユリラナは、かつての印象とはガラリと様変わりしている。

以前のユリラナは貴族令嬢らしく楚々とした大人しい印象であったが、今目の前にいるユリラナは明朗快活を具現化したようなそんな颯爽とした女性であった。


ユリラナは軽快な足取りでアーシャとセルヴェルの元へと寄って来た。


「やぁいらっしい!セルヴェル、転居してすぐにアーシャ嬢を連れてきてくれるとは思わなかったよ。はじめまして…ではないのかもしれないけど、改めて挨拶させて貰うよ。ユリラナ=レズモンドです、セルヴェルの大切な花にお会いできて光栄だ!」


「は、はじめまし、て?ユリラナ様……アーシャです……え?本当にユリラナ様?」


あまりにも以前との印象が違い過ぎてアーシャは唖然としてしまう。


セルヴェルはユリラナに言った。


「先の夜会での事でアーシャに要らぬ誤解を与えてしまった。問題が片付くまでは他言無用と約束したために話すわけにもいかない。だかその所為で俺がアーシャに捨てられたらどうしてくれる?キミの口からきちんとアーシャに説明してくれ。もしくは()()()()()をアーシャに話す許可をくれ」


淡々としたもの言いの中にもどこか焦りと憂いを感じさせるセルヴェルの声に、ユリラナは吹き出した。


「ぷっ……あなた、本当にあの朴念仁のセルヴェル=グランド?私との婚約中にもそうやって人間らしいところを見せてくれたら、少しは仲良くやれたのかもな。本当にアーシャ嬢の事が好きなんだな」


「え?」


「ああ。アーシャと婚約を結び直せて、俺は本当に幸せだ。だから婚約解消してくれたキミには一生足を向けて寝られないくらいに感謝しているよ」


「え?」


「いいだろう、アーシャ嬢には打ち明けよう。私とパートナーであるユーリカの秘密を」


「え?」


セルヴェルとユリラナ、二人の会話を聞き目を丸くするアーシャをユリラナはマナーハウスに招き入れ、お茶を飲みながら自身の事を語って聞かせてくれた。



ユリラナが自身の恋愛対象が男性ではないと感じたのは彼女が十五歳の頃であったという。

以前から男性に対し何故か嫌悪感を強く感じていたユリラナが、同性である女性しか愛せないとわかった直後にセルヴェルとの婚約が結ばれてしまったのだ。

だがこの国は同性愛に理解が無い。

無いどころか忌諱するものだという考えが根強く残る国である。

従ってユリラナは誰にも相談できずに一人心を殺して生きていた。

当然婚約者であるセルヴェルと仲良くやれるわけもなく……。


しかしそんな時、ユリラナは王都近郊の荘園主の娘ユーリカと出会う。

生まれて初めて出会う理想の女性を前にして、ユリラナが恋に落ちるのに時間はかからなかった。

そしてユーリカもまたユリラナと同じ恋情を抱いてくれていると知った時、ユリラナは家も国も全てを捨てる覚悟をしたのだという。


幸い隣国ハイラントは異性同性、多種多様な恋愛の価値観を重んじる先進的な国であった。

国籍を問わず才能ある人材を受け入れており、職に就いているのであれば移住も可能だと聞く。


そしてユリラナはユーリカと駆け落ちを決行し、ハイラントへ移り住んだのであった。



「えっ!?駆け落ちっ!?それじゃあセルヴェル様の前の婚約が解消された時にはすでに、ユリラナ様はこの国にいらっしゃらなかったのですかっ?」


話の途中ではあったがあまりにもの衝撃に思わずアーシャはそう声を上げてしまった。


ユリラナは肩を竦めながら答えてくれた。


「そうなんだよ、あの時はそれしか道はないと必死で……でもセルヴェルとグランド家の方には本当に申し訳ない事をしたと思っている」


その言葉を受け、セルヴェルはユリラナに言った。


「いや、その事はもう本当にいいんだ。言い方は悪いがむしろイヤイヤ無理に嫁いでくるのではなく駆け落ちしてくれて良かったとさえ思っている。おかげでアーシャと婚約を結び直す事が出来たのだから」


セルヴェルのその言葉を聞き、アーシャは胸がいっぱいになる。


「……セルヴェル様……本当?本当にそう思ってくれているの……?」


「当たり前だろう。アーシャと婚約出来た事を俺は本当に感謝しているんだ」


「セルヴェル様……」


「コホン、ご両人、話を続けてもいいかな?」


アーシャとセルヴェルが見つめあっていると、ユリラナが咳払いをして告げた。


「……頼む」


セルヴェルがそう言うとユリラナは柔らかな笑みを浮かべて続きを話してくれた。


そうやって駆け落ちをして移り住んだハイラントで七年間、ユリラナは王宮魔術師として勤め、ユーリカと幸せに暮らしていた。


転機が訪れたのは一年前にユーリカの父である荘園主が急逝した事だった。

亡くなった父の生前から密かに一人娘の身を案じ、ユーリカと連絡を取り合っていた母親から帰国して荘園を継いで欲しいと知らせがあった事がきっかけだったそうだ。


もちろん、パートナーであるユリラナと共に荘園を継いでくれたらいいという母親の言葉を受け、ユリラナはハイラント魔術師団の職を辞して、ユーリカと帰国する事を決断した。


先の夜会は退団直前であったものの、当国のしきたりを知らない団長に拝み倒されて出席したものであったそうだ。


そこで偶然にもかつての婚約であったセルヴェルと再会し、互いに互いの変わりように驚きすぎて暫し固まってしまったのだという。


「え?ちょっと待って?それがいい雰囲気に互いに熱く見つめ合っていたという種明かし?」


アーシャがそう言うとセルヴェルはバツが悪そうに答える。


「だってだな、ユリラナの容貌があまりにも違っていたら、それは驚くだろう」


確かに今のユリラナは女性だがどこか男性的な雰囲気を纏っていて、七年前とは別人である。


返すユリラナも同様の意見らしい。


「対してセルヴェルだって、あんなに無表情で堅物で朴念仁で可愛げがなかったのに、表情は穏やかだし雰囲気もどことなく砕けた柔らかな感じになっているものだから、それはそれは驚いたんだよ」


「左様でございますか」


呆れた。

本当に人の噂なんてあてにならないという事か。

まぁ事情を知らない他者にしてみれば、かつて婚約者同士だった二人が相手を凝視していたらそれは見つめ合っていると思うだろう。


「ではお二人で何処かに消えた……というのは?」


「それはだね、この国に帰るにあたって、私は新しい自分に生まれ変わる事にしたんだよ」


「え?それはどういう……」


つまり、ユリラナの言う事には、

まだ同性婚どころか同性同士の恋愛にも理解がないこの国で荘園を継いで生きていくために、新しい名前と姿に変える事にしたらしいのだ。


以前の名を捨てて、出自を捨てて、生まれ持った姿も変える。


その手伝いをセルヴェルに依頼するべく、夜会終了後に話し合いの時間を持ったという。


「ユーリカが帰国して荘園を継いだ事は必ず知られる。そうなれば必然と私という存在も知られてしまうだろう。それなら別人となって生家や世間の目を躱し、不要な争いを避けた方が無難だと思ったんだ。だからそれらの手続きと魔法による施術を一級魔術師セルヴェル=グランドに依頼したんだ。彼の他に頼る人も居なかったし……そして勿論、この事は誰にも話さないでくれとセルヴェルに頼んだんだ」


「そうでしたの……」


「セルヴェルは男にしておくのは勿体ほど誠実で信用出来る奴だな。大切な婚約者にまで話さずにいてくれたとは……お前がそんな奴だとわかっていたら、婚約者時代にもう少し良い関係を築けたかもしれないのに……私が意固地だった所為だな」


「もう過ぎた事だ。まぁキミの姿が変わってしまう前にアーシャに説明する機会が出来て良かったのかもしれない。そうでないとどう見ても別人になってからこの事を話しても信じて貰えなかったかもしれないからな」


「確かにそうだ。もう簡単に私がユリラナとは分からないくらい別人にしてくれよ?」


「わかった。俺も次にあったらもう誰だか分からないくらいに別人に変えてやる」


そう言ってセルヴェルとユリラナは互いに笑いあった。

その様は元婚約者同士というよりも古くからの友人のようで、アーシャは心に引っかかっていた蟠りが解けてゆくのを感じた。


帰り際に外出していたユーリカとも会う事ができ、幸せな二人の姿を見れて本当に良かったとアーシャは思った。


そしてセルヴェルの転移魔法にてマナーハウスを後にする。



セルヴェルがアーシャを連れて戻ったのは、すでに決めてある二人の新居であった。


半年後に入籍と挙式を済ませたらすぐに暮らせるためにセルヴェルが分譲アパートの一室を購入したのだ。


まだ何の家財道具も搬入されていない室内でセルヴェルが言った。


「アーシャ……誤解は解けたか?わかってくれたか?もう婚約解消するなんて言わないか?」


アーシャの感情を何一つ見逃すまいと真剣な眼差しを向けてくるセルヴェルに、アーシャはこくんと頷いて見せた。


「誤解して、一人で拗ねて、酷い事を言ってごめんなさい……婚約解消宣言を取り下げます……」


アーシャのその言葉を聞き、セルヴェルは安堵の表情を浮かべ、大きく息を吐き出した。


「良かった……これでまだ婚約を解消するなんて言ったら、もうこの新居に閉じ込めようと思っていたんだ」


「え?」


「俺をこんなにも夢中にさせておいて直前になって結婚しないなんて言い出して、どうしてくれようかと思ったよ」


「え?」


セルヴェルはアーシャの前に立ち、彼女の両手を握った。


「言っただろう?アーシャが婚約者になって、俺がどれほど嬉しかったかを」


「……それは……セルヴェル様もわたしの事が好き、だということ?」


「今まで可愛いとか大切だとか、年上ぶって曖昧な言葉でしか想いを表現しなくて悪かった……他でもないアーシャにロリコンだと思われたくなかったんだ」


「え?それはどういう……」


「俺は……アーシャが婚約者になって、わりとすぐにキミに恋をした……」


「えっ?ウソっ?だって婚約を結んだ頃のわたしってまだ十二歳でセルヴェル様は十八歳になっていたはず……」


「だが、言い訳をさせて貰うなら俺に幼児趣味はない。だがそれでもアーシャの事を好きになってしまうくらいアーシャは本当に可愛かったんだ。いい子で、明るくて素直で元気で。前の婚約者との仲が最悪だったから尚のこと可愛くて……しかも将来の自分の花嫁だと思うと独占欲も出てきた。だがそれを全面に出せばアーシャを怖がらせると思って、年上としての振る舞いを徹底したんだ」


「そ、そうだったの……」


「アーシャとの婚約がダメになったらもう俺は生きてはいけない。今さら他の誰かを娶る事など考えられない……修道院に行くのは俺の方だ」


「セルヴェル様ったら……」


「頼むアーシャ、俺と結婚してくれ。必ず幸せにすると約束するから」


「約束……セルヴェル様は必ず約束を守る方ですもんね」


「……これからはもう、アーシャに言えないような約束は誰とも交わさない事を約束する、だからアーシャ……!」


その瞬間、アーシャはセルヴェルの胸に飛び込んだ。

瞬発的で結構な勢いだったにも関わらずセルヴェルは危なげなく抱きとめてくれる。

アーシャは喜びに満ちた声でセルヴェルに告げた。


「じゃあこれからは一生、セルヴェル様の人生が終わるその時までわたしを一番好きでいてくれると約束して!セルヴェル様は約束を必ず守るのでしょう?」


「もちろんだっ、守れない約束なんで絶対に交わさないっ……」


「それならわたし、セルヴェル様と結婚する!セルヴェル様のお嫁さんになる!」


「アーシャっ……!」


セルヴェルがより一層力を込めてアーシャを抱きしめた。



婚約を交わして七年。


二人の絆はより深いものとなったのであった。



そして半年後、二人は修道院ではなく教会に行き、永遠の愛を誓ったのであった。






めでたしめでたし








────────────────────────




補足です。


ユリラナはその後、魔法にて容貌を変え、記憶喪失のまま荘園に引き取られたレリーという設定の女性になった。

そして表向きはユーリカの友人として荘園を支えながら共に幸せに暮らしたそうです。


それから軽はずみな行動とそれに伴う口の軽いセルヴェルの同僚の男は日頃の行いが祟り、本命だった女性にこっぴどくフラれたそうな。

その女性の父親が魔術師団の団長で、同僚に対する評価はかなり悪くなりましたね。よほど頑張らねば出世はなかなか見込めない?

ざまぁwですな。


そしてセルヴェルの同期で同班で友人のアデインは、アーシャとセルヴェルの結婚式で出会った、アーシャの従姉とめでたくゴールインして、それはそれは幸せに暮らしたそうな。




いつかアーシャの国も多様な価値観を尊重できる国になる事を祈って。



自業自得の同僚を除いて、とりあえずは大団円?




お読み頂きありがとうございました!



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