僕のママとパパと師匠
「はい。息んでぇ。吐いてぇ。」
その声に合わせて、女は、息を吸っては、吐いて、最後に声が甲高くなって叫ぶ。
「ヒッ。ヒッ。フー。痛いわよぉ。」
「さあ、ほら、頭見えて来た。引っ張るよっ。」
そこで、僕は生まれ変わったのだった。
「はい。4人兄妹の末っ子くんだ。君に良く似て目の所がパンダみたいじゃないか。サニー。」
僕は生まれてさっそく、母の胸に運ばれた。まぶたがぐっと重たくて開く事が出来ない。でも、ふさっふさっの服を着た母の胸は、とても暖かくうっかり眠りそうだったが、空腹には勝てない。いい匂いのする方へ向かう。この世界で始めての食事にありつこうとした時。頭の上に、むちゃっとした重みが乗っかってきて動き回る。
空腹なのは、僕だけじゃない。僕より先に生まれた兄妹もそうなのだ。負けていられない僕は、負けじと身体を動かして口と手を、いい匂いの先に押し当てる。口の中が、甘くて暖かい液体で満たされていく。
「はあ。これが生きてるって実感する味だ。」とつぶやくと、僕を引っ張り出した男が興奮した声でこう言った。
「サニー。聞いたかい。この子、生まれてすぐなのに赤ちゃん言葉も使わないぞ。さぞ、立派に育つこと間違いないな。」
ん?心の声が漏れている?僕は、生まれてすぐの赤ちゃんのはずなのに。
「もう。マークったら、知らないの?ボーダー・コリー種は頭の良さは犬種族で1番よ。私が話している声をお腹の中で聞いて覚えていたのよ。」
「いや、それは、失礼。失礼。鳥族で、カラス種が頭がいいのと同じことかね。まいった。まいった。生まれながらの才能には、勝てないよ。じゃあ、君は初産だから心配で来てたけど、大丈夫そうだね。」
「ええ。ありがとう。マーク先生。」
母は、そう言うと僕を引っ張り出した男を部屋から返したのだった。
ちょっと待って。母の乳首を必死にかじりつきながら考える。僕、今もしかして獣人として生まれ変わってる?そんな、姿、早く見たいに決まっている。この重いまぶたを開く力欲しさにミルクを飲み続けるのだった。
意外と早く自分の姿を見る時がやって来た。
「サニー。この子ずっとミルク飲んでばっかりだぞ。」
匂いからして、僕の父親が僕の顔の近くにやってきて心配そうに言うのだった。
「あら、よく食べる子はよく育つって言うじゃない。生まれてすぐに大人顔負けの言葉を使った子よ。きっと、すぐにあなたに追いついてしまうわよ。」
僕は、生まれてから3日間、ほぼ徹夜でミルクを飲み続けた。兄妹が、また、あんたが飲んでばかりでちゅ。どいて。うわぁん。ひどいでちゅ。と泣いている中、飲み続けた。
父親が、俺の顔を撫でた時、顔を上から下に引っ張るようにした時、まぶたの筋肉に全集中した。
目の前には、サラサラの白と黒の毛が立ち耳から垂れていて、目が茶色とシルバーのオッドアイ。僕の大好きなボーダー・コリーがいた。