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第二話 継承

長州藩の階級の序列


藩主

一門・永代家老

寄組(ここの階級までは独自の軍団(家臣団)を持つ事が出来る。)

大組・船手組(高杉晋作、木戸孝允などがこの階級)

遠気附(馬上を許されたのはここまで)

その他、六十三の階級が続く。


弘化四年(西暦1847年) 七月十五日 長門国 萩 国司邸 国司熊之助


「若様…いえ、殿。広間に家中の者達が集まりました。」


俺の元傅役、今では国司家の家老である鴻池延祥が話しかけて来た。


「そうか、ご苦労であった。」


俺は今日、正式に国司家の当主となる。

長州藩の藩主であられる毛利慶親様は江戸にいらっしゃる為、書簡で国司家を継ぐ旨を知らせた。

そして、数日前に届いた慶親様からの返書によると、国司家を継ぐ事を認め、俺を大組頭に任じるとの事だった。

因みにだが、大組頭とは戦国時代風に言うと馬廻衆の頭目の事だ。

長州藩における大組の仕事は、十三組ある大組の内、三組が交代で江戸藩邸を、残りの十組が萩城の警備をする事だ。

そして俺はその責任者と言うことだ。


あれ、俺六歳っすよ?俺の仕事、責任重大過ぎん?

まあ、前世から処世術"俺に仕事を任せた方が悪い"と思って頑張りますか…。

…関係はないが、俺は前世で窓際族だったとだけ言っておく。

そんなくだらない事を考えていると、広間の前に着いた。


「爺よ…大勢の人の前で緊張せぬ方法はあるか?」


広間の前に来ていきなり緊張と不安が押し寄せて来た。

何となく解決方法がないか爺に聞いてみた。

だが、参考にならない答えが返って来た。


「殿、緊張なさる事は御座いません。皆、殿とは面識のある者ばかりで御座います。多少、失敗しても気にする者は居りませぬ。」


打首にしてやろうかと、思いながら俺は礼を言った。


「そうか、緊張が少し解けた。ありがとう。」


俺はそう言うと広間に入った。

広間には数十人の男達が平伏していた。

六歳の子供に大の大人が平伏する光景から、改めてこの時代が厳格な身分社会なのだなと思いながら上座に座った。


「皆の者、面を上げよ。…今日より亡き養父上から国司家を継いだ熊之助である。そして、ありがたい事に俺は殿から大組頭の職を承った。」


俺がそう言うとざわめきが起こった。


「殿、ありがとうございまする。殿ならば当然の事に御座います。」


家臣の一人がそう言うと、他の者達も同意の声を上げた。


「うむ、殿からの信頼を裏切らぬ働きをせねばならぬ。…皆の者には一層の苦労をかけると思うが宜しく頼む。」


『はっ!』


数十人の男達が声を揃えて返事した。

この日、この瞬間、確かに国司家家臣は熊之助に忠誠を誓った。



弘化四年(西暦1847年) 七月十五日 武蔵国 江戸 長州藩上屋敷 長井雅楽


ある一室に二人の男が居た。


「殿、もし宜しければ、一つお聞きしたい事が。」 


「如何した?答えられる事なら答えよう。」


殿はそう言うと、手を動かしながら儂の方に目を向けた。


「ありがとうございまする。では何故、六歳の国司殿を大組頭とされたのでしょうか?…失礼を承知で申し上げますと、大組頭の職を任せるには幼過ぎるかと。…このような事は考えたくも御座いませぬが、国司殿が表番頭(副長的な存在)や大組番頭(各組の指揮官八人の事)の傀儡となる恐れが極めて高く、仮にそうなれば、大組頭の権威が落ち、表番頭や大組番頭が権力争いをしかねないと愚考致しまする。」


もし、こうなれば大組が機能しなくなってしまう。最近は防長近海にも外国船が姿を見せるのだ。万が一の時に大組が機能しなければ、大惨事になりかねない。


「…のう、雅楽よ。松蔭や小五郎の事を憶えてはおるか?」


突然、殿が脈絡のない質問をして来た。

疑問に思いながらも、殿からの質問に答えた。


「勿論に御座います。あの二人は傑物となる片鱗を見せておりましたので。」


そうだ。正直認めたくはないが、二人の才覚は儂の才覚を超えておる。今は儂の方が経験のお陰で、あの二人よりも実力があるが、十数年もしたら追い抜かれるやも知れん。それどころか、下手したら数年で追い越されてもおかしくない。まさに、百年に一人の天才だと思う。そんな人物が二人も長州に生まれて来たのだ。奇跡と言えよう。


だがそんな二人の事を何故、いきなり憶えているかと殿は尋ねたのだろうか。

…もしや国司殿が二人に負けず劣らずの人物だと言うのだろうか?


「まさか、国司殿が二人に並ぶ人物と仰るのですか?」


儂は声を震わせながら言った。


「そのまさかだ。人を滅多に褒めぬあの将監(国司迪徳)が病を患う前にな、熊之助の事を頻りに寧馨児と褒めちぎっていてな…それがどれ程の物か、試してみたくはならぬか?」


殿は眼をギラギラさせながらそう言った。

…確かに二人に並ぶ才覚があるのやも知れない。

だが、現在あくまで才覚の話だ。二人のように経験が圧倒的に足りていない筈だ。

上手くいく訳が無い。

それどころか、大組の統制に失敗する事で、国司殿の立場を悪化させかねないと思う。

未来ある国司殿と藩の利益を守る為、殿をお諌めせねばならん。


「…確かに試してみたくなる気持ちは分かりまする。しかし、如何に寧馨児と言えど未だ六歳に御座います。…可能性は秘めていたとしても、実力はたかが知れていると思いまする。結果は目に見えておりまする。わざわざ、危険を犯さなくても良いでは御座いませんか。今からでも遅くありませぬ。他の者を大組頭に任じましょう。」


「ならぬ。実力があるかどうかなど、やってみなけば分からぬではないか。」


駄目だ。殿は聞く耳を持って下さらぬ。

…主君を諌めるのも、臣下の勤めだ。

例え殿から嫌われるとしても、止めねばならぬ。

そう覚悟を決めると語彙を強めて言った。


「殿!ここ最近は外国船が防長近海に姿を見せる事が有るのですぞ。…万が一、外国船が萩や馬関(下関)を攻撃したら如何するのですか!六歳の童に大組頭を任せた結果、大組内部で権力争いが起き、大組がまともに機能しない事など分かりきっておりまする。」


儂がそう言うと、殿は力強く言った。


「案ずるな。表番頭には後日、希次を任じて、お主が懸念する事態には陥らぬようにするつもりだ。」


何と、殿がかなりの信頼を置いている乃木殿を任じるのか。

ならば問題ないだろう。乃木殿ならば、少なくとも藩に不利益をもたらす事はない筈だ。


「乃木殿を、で御座いますか。…出過ぎた真似をして申し訳御座いません。」


儂が謝罪すると、殿は気にした様子も見せずに言った。


「構わん。お主とて儂の為に進言したのだろう。お主が忠義者なのは分かっておる。…さて、御用をさっさと終わらせるぞ。」


「はっ。」



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