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連れて行かれる

作者: 葉沢敬一
掲載日:2023/01/15

 その娘は愛らしい可愛い笑顔で話しかけてきた。

「ねぇ、君、同じサークルなんだ。今まで話してなかったよね。よろしくね」

 同じ大学という訳ではなさそうだったが、僕は心が揺らぐのを感じた。つい、ニマニマしながら、

「よろしくー」と答える。

 彼女が向こうに行ったとき、横で見ていた、モテ男のNが僕の脇腹を突き、こうコメントした。

「良い子そうに見えるね。でも、連れて行かれるなよ。彼女はダメだ」

「ダメってどこが?」Nがなんでそんなこと言うかわからない。自分の方に話掛けられなかったので嫉妬しているのではないだろうかと、勘ぐる。

「俺の勘さ。彼女は危険なタイプだ。引きずり込んで食い尽くす女とみたね」

「まさか」

 数日後に官庁に就職が決まったので、みんながそれを祝福してくれる中、彼女は「ねぇ、ここ抜けて二人で話そうよ」と言ってきた。

 僕は舞い上がった。これは脈がある。彼女いない歴=年齢の僕にとっては初めての経験。そして彼女と付き合うことになった。彼女はアパートに来るようになり、料理とか頑張っていてそれが微笑ましく感じた。

 僕の予定された配属先は国家機密を扱う特殊な部署で、身辺調査されると聞き、快諾したところ、NGが出た。

 彼女が問題らしい。思想的に危険で某国のスパイと疑われていた。僕が、この部署に配属されることをとあるルートから知っていたという。

 そんなことない。ないはず。

 Nの言葉を思い出した。「連れて行かれるなよ……」という言葉が。

 オカルト物の話で、うっかり異人に話掛けて、異界に連れて行かれる話がある。そして、それは帰ろうとすると強い引き留めに遭うという話と一緒だ。

 別れ話をすると、彼女は「酷い」と泣き出した。どうしたら良いんだ。彼女の親からも電話が来て(自称だが)、別れるなんて何考えているんだと言われる。

 身辺調査の結果は公表してはいけないと就職先から言われていた。就職を断念するか、別れるか。

 仕事を取るか、彼女を取るか?

 しかし、この仕事に就いてない僕を彼女は選ぶだろうか。僕は、悩み始めた。

 その時、学内の掲示板に、最近勧誘している新興宗教団体の手口が貼り出された。あれ? これって、手口同じじゃないの? 笑顔で近寄ってきて、取り込んで、脱会しようとすると執拗に引き留める。

 僕は思いあまってNに相談した。もちろん身辺調査の結果はぼかして。

「ああ、やっぱりな。俺の勘がヤバい女だと言っていたんだ。俺も、昔、面倒くさい重い女と付き合ったことあって、そんな匂いしたんだよ。止めとけ」

 Nはそう言って、地味だけど悪くない娘を紹介してきた。Nが言うには「俺は手を付けてないから大丈夫」とのこと。

 確かに、悪くない娘だったけど、悩みが倍に増えた。どうしてくれる。就職先に身辺調査依頼したら合格した。

 怪しい彼女からの連絡は遮断した。これで、良かったのだろうか。

 あなたが特別な物を持っていると、こういう風に近づいてくる妖怪がいる。そして、それを止めようとする邪魔者は消される。オウム真理教の公証人役場にいた人も消されてしまった。ちょっと弱みをみせるとつけ込んでくるんだ。注意した方が良い。

 それでも、僕は、心の痛みを引き摺ることになった。悪いのは彼女なのか、僕なのか?

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