47話
目が覚めると、白いベッドに寝かされていた。柔らかい感覚に懐かしさを感じる。
「学園?」
「そうですね〜」
「うわっ!?」
いつの間にか隣にはツェルニ先生。
最初からいたっけ?この人……。
「いや〜人鬼とやり合うとは、お疲れ様です〜」
「あ、ありがとうございます……?ってそうだ!人鬼は!?」
「倒しましたよ〜、良かったですね〜」
良かった……。
俺が生きている以上、多分大丈夫なんだろうけど。
自警団に犠牲は出たそうだが、ルージュやヒヲリ、非戦闘員に死者はいなかったそうだ。
「私が課題を出さなくても絶妙に厳しい相手に挑みに行くとは、やっぱりハルキ君は素質がありますね〜」
「あっ、はい……」
「強さとしては最低級ですが人鬼は人鬼。それをこの歳で討伐できたハルキ君は……いずれ私より強くなれるかもしれませんね。後こう言った事を数十回繰り返せば」
「ありがとうございます……?」
数十回繰り返したら途中で死ぬと思うんですけど。
「まあまずは首席卒業でも目指してみる事ですね〜。実力で言うなら今はヒヲリさんがトップなので〜、いい感じに成長してくださ〜い」
最後に、よく頑張りましたね、と。
慈しむように笑い、彼女は去って行った。
「……先生は何を考えてるんだろうな」
考えてもわからない事か。
あ、あれから何日経ったか聞くの忘れた。
包帯を巻かれていてベッドから出るのも悪いし、次ここに来た人に聞くか……。
そうして待っていると、次に現れたのはゴウ、ナツミ、そしてミユキだった。
「おう!元気そうじゃねえか」
「良かった。人鬼を倒したんでしょ?やるわね……」
「ハルキ君!」
愉快そうに声をかけてくるゴウ。
ライバル心の様なものが見え隠れするナツミ。
そしてこっちに抱きついてくるミユキ。
すごく……痛いです……。
「あの、ミユキさん痛い!痛い痛い痛い!」
「あ、ごめんなさい!本当に……」
いつもだったらご褒美なんだけど、そんな余裕はなし。
背中をタップして告げると、引いてくれた。
「でもその、3人とも来てくれたの?授業とか……」
「そんな1日休む訳じゃないから、見舞いくらい素直に受け取りなさいっての」
「ありがとう、みんな」
なんやかんやでこの3人とは一番馬が合うし入学してすぐから仲良くしている。
こうして来てくれるのはすごく嬉しい。
「で、今日って何日だったりするの?」
「ハルキ君は2日寝たきりになってたんですよ」
「思ったより重傷じゃん……」
今はちょっと痛むなくらいだからだいぶ回復したものである。
多分回復薬を使ったのだろうが、お金とかツェルニ先生に聞いておけば良かった。
「午後の実習だからそろそろ行くけど、今度人鬼の話してくれよ。かーっ!羨ましいねえ人鬼討伐たあ、俺も箔を付けてえよ」
「人鬼なんてそんなぽんぽん出ないって」
そりゃそうだ、と笑ってゴウが出ていく。
あんまり怪我してミユキを心配させないように、とナツミが退出する。
ちょっとナツミさん!と焦った様に扉まで走り、こちらを見て微笑みお辞儀したミユキも去っていく。
再び1人。
凛風を召喚して、戦闘の報告でもしようかなと思ったその時。
再びドアが開けられ、今度は別の2人が入ってくる。
ルージュ、そしてヒヲリ。
「目が覚めたのね、ハルキ」
「よ、良かった……!本当に良かった……」
2人が俺のすぐそばの椅子に座り、こちらをじっと見つめる。
「……おはよう、2人とも」
「もう昼よ」
「ふふっ……」
なんて言っていいのか急に分かんなくなったんだけど。でも2人とも怪我もなさそう……あれ?
「ちょっと待ってルージュ、怪我は?大丈夫?」
「ああ、回復薬と、ちょっとね」
何かしらのスキルか隠し札かあるのかもしれないが、ともかく彼女は無事。
ヒヲリも怪我は皆無。
「良かった。2人とも怪我はなさそうで」
「あなたはこうして今日まで寝てたでしょうが」
ぶんぶん。
ルージュの言葉に頭を凄い勢いで上下に振り、半泣きになるヒヲリ。
罪悪感がすごい……。
「大丈夫だから、マジでほら、元気元気」
ヒヲリの手を掴んでじっと見つめる。
「本当に?」
「本当本当」
「じゃあ……今から狩りに行ける……?」
「えっそれはちょっと」
「嘘なんだ……」
「嘘じゃないから!」
顔を合わせてそんなやりとりをしていると、呆れた様な声が掛かる。
「あなた達、2人だけの世界に入り込まないでくれるかしら?」
「うわっごめん!」
「あ………!!!」
お互いに至近距離まで顔を合わせていた事に気付き、互いに謝って離れる。
「え、えっとルージュ。それで気絶した後の話を聞きたいんだけど」
「私も復帰に時間がかかってたけど、戻った頃にはほぼ決着してた」
「桜ちゃんは……一回雷の巻き添えを受けたけど、やられてはいなかった、よ」
作戦はこうだ。
人鬼を倒すためのモンスターをヒヲリが呼び出す。時間制限やモンスターの選定もあり、呼べるのは人鬼との戦闘後。
それまで俺とルージュが時間を稼ぎながらダメージを与え、ヒヲリがモンスターを召喚した時点で桜を召喚。人鬼とヒヲリのモンスターがやり合っている中でスリープを連射してもらう。
死体である落武者にスリープは効かない。人鬼にも効き目は薄いが、何回も当たれば眠らずとも集中力は削がれていく。
「予想以上に2人が削ってくれたから……楽だったけど、ルージュとハルキを見て、泣きそうに……なって…………」
「ごめんね、ヒヲリ」
「う、ううん」
後でこっそりルージュが教えてくれたが、俺達2人に抱きついてガチ泣きしていたらしい。ごめん……。
「人がいっぱい死んでて……ハンターの人が人鬼を恨んでた……だからできた。またおんなじ事はできない……から……」
「分かった。人鬼くらい怪我せずに倒せる様になるから、な?ルージュ」
「当然よ」
言外にもうしないで、と言われているのは分かるが、倒せそうな相手ならもう一度同じ事しそうな自分もいる。
ルージュに至っては絶対反省してないと思う。
「……何?ハルキ」
鋭くないか?じろりと睨みつけられたのを見て、言い訳を浮かべる。
「いやほら、人鬼を倒したし、そろそろ事情とか知れたらいいなって」
「そう……ね」
つまらない話だけどいいかしら?
そう聞くルージュに俺とヒヲリは頷くと、意を決した様に彼女は話し出した。
「倒したいモンスターがいるの。私の父と母、そして弟を殺した人魔」
「人魔……!」
西大陸でタブーを犯すと人魔になるとされる。
肉体性能は人鬼に劣るが、魔法に長けた個体や指揮能力に長じた個体が多いんだったか?
「1年前にその人魔に私の家族は皆殺しにされ、生き残った一族の者は私だけ。私は領主の娘だったから……権力争いの道具にならない様、東に逃してもらったの」
西大陸でもタブーはタブーだが、例えばルージュと結婚すれば領地を持てると考える者もいたとか。親の知り合いだったハンターに逃してもらい、学校に通っているらしい。
「私は、アレを倒さないと……」
「ん?ちょっと待ってルージュ」
決意に満ちた顔をしているルージュに、ふと思った疑問を問いかける。
「人魔って……人鬼と一緒の仕組みだよね?なら、早くて数ヶ月、遅くても数年で自壊するんじゃ……?」
その言葉に、彼女は泣いた様な、笑った様な表情で告げた。
「私が追っている人魔はユニーク個体。自壊の定めから逃れた人魔。個体名ミリオン。……私の姉」
ルージュもヒヲリも去り。
今度こそ一人きりになった。
「考えることがいっぱいだな」
やらなければいけない事は山積み。
やりたい事も山積み。
「最初は刀術だけだった」
初めてモンスターを倒す事でサモナーを。
凛風を従属させた事で火魔法を。
俺は3つスキルを手に入れ、そして領内の同世代に限れば屈指の実力を手に入れつつある。
それでもまだ全然足りない。
「なあ?凛風」
俺に共感して、仲間になってくれた凛風にまだ何も返せていない。
俺のために命がけで戦ってくれた桜に、お礼がしたい。
この世界で、俺を可愛がってくれた父さん、一緒に戦った仲間達、目をかけてくれている先生や鍛冶屋のお兄さん、購買のお姉さん。
彼らに恥じない人間になりたい。
神様の報酬なんて漠然としたものじゃなくて、俺はいつの間にかこの世界の誇りと名誉を手に入れたくなってしまっていた。
「俺も染まったな……」
ついでに強くなれば、ハーレムも付いてくる可能性があるし。
締まらない自分の思考に苦笑して、保健室を出てすぐの廊下にあるスキルボードに触れる。
「やっぱりか」
ニヤリと笑い、自身の運命変転(1)を見る。人鬼討伐でスキルが手に入ると予想していた通りだ。
4つ目のスキルを思い浮かべる。
無数に現れる選択肢から、俺はそれを掴み取った。
これにて一旦表記を完結にいたします。
続きを今後書かないという訳ではありませんが、詳細は次話の設定集にて軽く書いておきます。よければご確認ください。
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