46話
夜。村の中心部で、俺達は最後の作戦会議をしていた。
「本当に……いいんだな?」
「はい」
「ええ」
「は、はい」
俺、ルージュ、ヒヲリ。
ジュウゾウさんと、自警団の中でも動ける人たちが15人ほど。
これが人鬼防衛戦における俺達の総戦力。
カズマさんとナミエさんと情報を共有して、話し合った結果……俺達の作戦を呑む事で共同戦線を張る事となった。
事前に村長の「操鳥術」で偵察した結果、人鬼はモンスターを集めてこちらに襲撃を仕掛けようとしていた。
「人鬼や人魔は百鬼夜行の様に、種族を問わずモンスターを集めて群れになる場合が多い。格上のモンスターまでは影響下に置けないはずだが、確認した限り餓鬼や小鬼が40匹ほど。★2はいないが★3のモンスターが1匹。山姥の様だ」
逐一鳥の視線で確認している様だが、百鬼夜行の影響かこれ以上強力なモンスターは今の所付近には見当たらず、多少餓鬼が増える程度と予想できた。
その上で、こちらは防衛戦となる訳だが。
方針は至極単純。
非戦闘員は最も堅牢な公民館に立て籠もり、結界術2を持つ自警団員が守護する。護衛に剣術を持つナミエさんが。
防護結界を張るそうだが、当然無敵というわけではない。人鬼や山姥の攻撃相手にはさほど持たない。
そのため、防衛しつつ、残りの人員で人鬼と山姥を討つ。
ジュウゾウさん含め14名の団員達は、山姥及び餓鬼の群れを。
……そして俺達3人が、人鬼をやる。
ジュウゾウさんが心配しているのも、俺達子供に任せる後ろめたさ、そして俺達が勝てるのか疑念を感じているからだろう。
「ジュウゾウさんや、団員の方々に任せる訳にはいきませんよ。ジュウゾウさんだけなら兎も角……」
「そう……だな。すまん」
言いにくいが、事実を告げるしかない。
★3相当の遣い手が2人いた様だが、1人は死亡、1人は意識不明なのだ。
地理感覚を把握している分、彼らが戦闘に参加できれば勝ち戦だと油断すらできただろう。
残りの団員も弱い訳ではないが、大抵がレベル2〜3のスキルを単独で持っている程度。そして軽傷の者もいる。
多数の犠牲を出して差し違える戦法よりは、こちらの方が犠牲は少なく済むはずだ。
「じゃあ、俺達は配置に付く。人鬼が見えたら頼む」
「任せて頂戴。アレは私達が仕留めるわ」
ルージュの自信に満ちた態度に、多少は気が休まったのかジュウゾウさん達は微笑んで部屋を出ていく。
残るのは、俺達3人。
「緊張するな……」
「う、うん……」
俺の呟きに、ヒヲリも首を縦に振る。
死地に自ら飛び込む怖さ。今まで死を感じたのは凛風、そして鬼熊とやり合った時か。
今回の人鬼戦。★3相応の戦力が増えていなければ、全員で生きて勝てる確率は8割は固い、とカズマさんは言っていた。
8割。つまり2割の確率で、俺達の誰かは死ぬかもしれない。全員死ぬかもしれない。
ゲームなら失敗率2割なんてほぼ成功だろ!なんてふざけて挑戦して失敗する事もあったが、これは現実だ。
2割で俺か友人が死ぬなんて考えると、改めて怖くなってきた。
「怖いな。凄い怖い。今までは強敵に突然会って、考える間もなく戦闘だった。……待つ時間って、怖いな」
「だからこそ、その恐怖を乗り越えた者を人々は讃えるの」
手が重ねられる。ルージュの瞳が、俺をじっと見つめる。
「恐れを捨てずに、それでも私と共に人鬼に挑むと言ってくれたハルキ。あなたを尊敬するわ」
「死なせない……から。ハルキも、ルージュも」
さらにその上から、ヒヲリの手が重ねられる。仲間がいる。
凛風の時はミユキが。
鬼熊の時はナズナが。
今はルージュが、ヒヲリが。
それだけで、安心できる自分がいる事に苦笑する。
「これは……!戦闘の音が……!」
「行こう!」
突然の怒号。そして何かの炸裂音や剣戟の音に俺達は頷き合う。
人鬼を討つために、俺達は走り出す。
辿り着いた時には、戦闘は既に始まっていた。
皆の予想通り、半壊していた北門側から攻撃を仕掛けてきたモンスター達。
人鬼や山姥には通じなかった様だが、簡易的な落とし穴やくくり罠に餓鬼が引っかかっている。
「ファイヤーアロー!」
まずはこちらに引きつける。
自身目掛けて飛んできた魔法に気付いた人鬼は回避行動を取り、その隙に人鬼と交戦していたジュウゾウさんと交代する。
「後は頼む……!」
右脚を負傷してやや辛そうだが、彼には山姥の相手をしてもらわなければならない。団員の人達もいるから、なんとか倒せずとも捌いてもらうしかない……。
「オ前、誰ダ……」
赤く変色し、膨張しかけている肉体に、2本の角。
まさに鬼になり掛けた人の様な見た目をした人鬼が、不審げに俺に語りかける。
「お前を倒す相手だよ」
「小僧ガ、俺ヲ?」
嘲笑う様な声と共に、勢いよくタックルを仕掛けてくる。
……なるほど。避けながら、柵に激突する人鬼を見る。
早いし、重い。当たれば河童の鎧を着ていても一撃で骨折しかねない。
しかし、思った以上の強さは感じない。
「威力を得た代わりに精密性が犠牲になってるな……!」
回避に専念した俺の代わりに、人鬼に向かってルージュが切り掛かる。奇襲に怒りの雄叫びをあげる相手にさらに、四方から4体の化け骨が現れ拘束にかかる。
「舐メタ、真似ヲ……!」
化け骨の拘束が持ったのは数秒。そのうちにルージュがこちらへ戻る。
「どうだった?」
「角を狙ったら露骨に庇ってきたわ。多分あそこが弱点」
「ありがとう!」
作戦会議で、ルージュから聞いた事だが……人鬼には人鬼の弱点がある。
成り立ての人鬼は元の人間の意識もままある。故に……!
「ハンターや騎士が元なら兎も角、戦いも知らない素人がっ!」
ルージュと共に、左右に分かれて露骨に攻撃の準備動作を取る。
どちらから倒すか決めるのに数秒以上。
ルージュを向いた奴に、ファイヤーアローを撃ち込むには充分すぎる時間だ。
「グオッ!?」
「クソッ、硬さだけは洒落にならないな……」
餓鬼なら一瞬で消し炭になる筈の魔法を受けても、僅かに怯むのみ。
この村にいた★3ハンター達も、1人ずつ戦ったのが敗因だろう。持久戦に持ち込まれたら厳しい。
上空から骨でできた鳥がやってきて、そこからヒヲリの声が聞こえてくる。
「作戦通り行く……ちょっと時間を稼いで……」
そう言って鳥を特攻させるヒヲリ。
ルージュの攻撃を防いだ所に骨の嘴が刺さり、怒りの声と共にそれを叩き割る。
「ルージュ!やる!」
「分かったわ!」
ヒヲリが召喚するのは、★3以上のモンスター。それも人鬼と真っ向からやり合えるだけのパワーを持つ種類。
「し、召喚に……制限をかけると、それだけ時間がかかる。後は、格も……」
事前に聞いた情報通り。
ネクロマンサーのスキルは非常に繊細かつ大味らしく、本来ならなんとなく弱いやつを……強いやつを……という感覚で召喚を行うものらしい。
明確に役割を持たせた従者をピンポイントで召喚するために、数分の時間を稼ぐ……!
「ハァッ!」
ルージュがより人鬼に接近し、至近距離でのヒットアンドアウェイを繰り返す。
物理スキルに特化し、肉体性能が俺達の中でもトップクラスの彼女だからこそできる芸当。
「ガアアアアアアッ!」
「遅い!」
ルージュの攻撃も、時間稼ぎの俺の火魔法も僅かにだが人鬼の体力を削りつつある。角を狙えばそこを庇う動きを見せる。分かりやすい弱点が俺達を優勢にして……そして、それは相手の一手で崩れ去る。
「な………!」
ファイヤーボールを腕で払う人鬼の角を狙って、ルージュが切り掛かる。
先までは腕か身体で防がれたその攻撃を、人鬼はあろう事か角で受け止める。
「そ、そのまま!壊れなさい!」
動揺しつつも角の破壊を狙うルージュ。大ぶりな一撃は、まさに角を破壊するほどの威力を持っているだろうが……!
「ルージュ、逃げて!」
「アアアアアアア!!!!」
今までの軽い一撃とは違う、重さの乗ったルージュの一撃。それを放つ為に、彼女の身体は完全に止まってしまっており、人鬼の攻撃をその身で受け止める事となる。
人鬼の片角が砕け、
ルージュに雷を纏った拳が突き刺さり、
吹っ飛び民家に激突し、煙が巻き上がり見えなくなる。
「コウスレバ……良カッタ。オ前達の攻撃ハ、浅イ。俺ガヤルベキハコレダッタ」
ルージュにとどめを刺しに行くのではなく、残りの俺を狙ったか。
こちらを見てニヤついた様に笑い、奴は全身に雷を纏わせる。
「コウスレバアハハハハハハ!!!ナントイウ楽シサダ!」
「………!」
火魔法を牽制に放つ余裕もない。
なんとか左にジャンプして攻撃を避けるが、突っ込みながらこちらを向いて雷を放ってくる。
「ぐっ……!」
「弱イ!楽シイ!アハハハハハハ!」
敵も、ともすれば俺とルージュが与えた傷以上に深傷を負っている。
焦げた様に肌が黒くなっている。俺た角からスパークする様に雷がちらついており、明らかに制御しきれていない事が分かる。
「自ら理性を削ったのか!イブキ!」
「アハハハハハハ!」
身体性能が飛び抜けている訳ではない俺では、ルージュの様なヒットアンドアウェイは不可能だ。牽制砲台としても、ルージュが倒れた以上無理。
「1〜2分は稼いでる……なら後少し!」
気合を入れて、覚悟を決める。
笑いながら向かってくる人鬼を見据え、刀を上段に構える。
「残りの角、貰うぞ……!」
人鬼の拳が俺の腹に直撃し。
俺の刀が角にぶち当たる。
「効かねえ!」
「!?」
俺は無傷。平然とするその姿に動揺した人鬼を見て、更に角に攻撃する。
種は単純。
以前1枚だけ作ってもらったミユキの一身札。アレを使っただけだ。
二撃目で角にヒビが入った所、ようやく人鬼もハッとしてこちらに再度殴りかかる。
刀で受け止めて、むしろこちらも力を入れて刃を相手の手に押し込む。
「我慢勝負か?上等だよ……!」
「ナ、何ダコイツ……!」
最初の一撃を防いだ一身札はもう無い。雷は人鬼も俺も、共に苛む。
「死ネ……!」
「お前が先に死ね」
身体をギリギリまで密着させて、人鬼がもう片手で俺を殴りにくい位置を取る。身体を握られ締め付けられるが、それくらいは覚悟の内。この鎧なら多少は持つ筈だ。
10秒か、20秒か、30秒か?
痛みで意識が飛びそうになる中でも、刀を押し込み続ける。
「コイツ……!」
「…………」
限界を感じる。まだ、もう少し待ってくれ。後少しで……。
「ありがとう……もう、大丈夫だよ」
痛みで感覚が失われそうになった時、後ろから声が聞こえた。ヒヲリの声。
「成功した……!」
「うん、やる」
2つの影が人鬼に斬りかかり、そして打ち合う。
鎧を纏った武士の様なモンスター。
★3、落武者か……。
人鬼から離れられた事で、ふらつく様に倒れる。視線の先では2体の落武者が、自らの損傷を気にせずに果敢に切り掛かっている。
「これで……最後に……桜」
「マスター!?怪我が……」
「いいから、作戦通り頼む……」
「うん!後は任せて!」
頼もしげな桜の声を子守唄に、俺は意識を落とした。




